もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 4

 翌日も壮太は、黙々と仕事をこなした。
なにしろ、今日から忙しくなる。
仕事を終えたらまずどこへ行き、何をするべきか、繰り返し繰り返し頭の中で計画を練った。

しかしそれは同時に、まったく予定のたてられない事をあてどなく考え続ける事でもあった。

「村井! おい、村井!」

同僚が自分を呼ぶ声にはっとして見ると、休憩時間になっていた。
あちこちで機械が止められて、工員達が三々五々、休憩場所へと散っている。

壮太も首にかけたタオルで額の汗を拭きながら、灰皿とベンチが並ぶ休憩所へ向かった。

「なんや壮太、エライ勢いで仕事しよるなぁ。」
「仕事が終わったらデイトの予定でもあるのか?」

一服している同僚達の冷やかしの声に苦笑いを返しながら、壮太もタバコに火を着けた。

壮太は、何故か年配の工員に可愛がられている。
同年代の工員は若い物同士で固まっていることが多い中で、壮太はどこの群れにも入っていないせいだろうか。

競馬の話やら夕べどこそこの飲み屋で飲み過ぎたなどという話題が飛び交う中、壮太が黙って茶をすすっていると、初老の工員が話しかけてきた。

「どうした壮太。最近えらく仕事熱心じゃないか。」

この工員を壮太は「オヤッさん」と呼んで慕っている。
「佐藤一郎」という日本に何千人もいそうな平凡な名前のとおり、容姿も平凡な男性で、性格も温厚でおとなしい人物だった。

「そんなに俺は普段は不真面目ですか。」

壮太がとぼけた口調で返すと、佐藤は「ははは」と軽く笑った。

壮太はふと思いついて、空を見上げて一服している佐藤に話しかけた。

「オヤッさん、今日あたり、オヤッさんの家のほうで行きつけの飲み屋にでも連れってくださいよ。」

「俺の行きつけ?」

「そう。いつも俺の家の近くで飲んでるから、オヤッさんはその後バスで帰るでしょ。たまには俺がバスで帰る方になりますよ。」

「なんだどうした? あの幼馴染のべっぴんさんがいる店に行かないと怒られるんじゃないのか?」

佐藤はいつも、自分の家よりも鉄工所から近い壮太の家の近くで飲もうと言ってくれるので、何度か「てつ」にも連れて行ったことがある。

「そりゃぁ、あんまり足が遠のいたら怒られるかもしれないけど。俺だってたまには気分を変えてみたいもんですよ。」

苦笑いをしながら壮太が言うと、愉快そうに佐藤が答えた。

「そんなもんかねぇ。まぁ行きつけってほどでもないが、確かにわしの家のほうにはもうちっとは大きい商店街もあるし飲み屋もいろいろあるから。行ってみるか。」

「はい。じゃぁ今夜。」

「おう。」

そんな約束をしたところで、ちょうど休憩時間は終わった。

計画が一段階進んだ。
佐藤の家があるのは、あの工藤の住所の近くなのだ。
何かつかめるかもしれない。そんな淡い期待があった。



 終業後、壮太は佐藤と共にバスに乗った。
佐藤の住む街は、鉄工所からは少し距離があるものの、住宅が多く拓けているのでそこから通勤している者も多い。

壮太の家の辺りは、もろに「鉄工所の町」という趣だが、こちらのほうは少しだけ都会的な街並みがある。
「てつ」がある商店街は、ただ単に通り沿いに店が多く並んでいるだけだが、ここはきちんとアーケードもあり、大規模だった。

バス停の前にはスーパーがあり、夕方の買い物をする主婦たちで混み合っている。

佐藤はその前を、少し俯き加減に足早に通りすぎようとしている。

慌てて後を追う壮太に佐藤は小声で言った。
「うちのばあさんに出くわしたら、飲みに行けなくなるからな。」

壮太は思わず吹き出した。
「ばあさん」とは佐藤の妻のことだ。

佐藤は、子供たちを既に独立されたり嫁にやったりして、今は妻と二人暮らしである。

この妻に気を遣ってか、佐藤はいつも酒のつまみはあまり食べず、2~3杯も飲んだらそそくさと帰っていく。

壮太は、佐藤が昼休みにそっと広げている手作りの弁当を思い浮かべて、にんまりとした。
おかずよりも米飯がぎっしりと詰まった色気のない弁当だが、欠かさずに毎日持ってきているのを壮太は知っている。

少し丸めた佐藤の背中を、微笑ましい気持ちで眺めながらついて行くと、アーケードの一本裏道にある雑居ビルに入った。

地下へ降りていくと、かなりの広さのある立ち飲み屋だった。
コの字型のカウンターがあり、壁にはメニューの札がずらりと並んでいる。
庶民的なメニューで、値段も安価だ。
まだ早い時間にもかかわらず、かなりの数の客が入っていた。

「わしは家に帰ってばあさんのメシも食わなきゃならんから、せいぜいこういう所でちょっとひっかけて帰るくらいなんだ。特に珍しい店でもなくて悪いがな。」

「いや、こういう所はなかなか一見では来られないから、嬉しいですよ。」

注文したビールを持ってきた賄い婦が、カウンターの中から声をかける。

「あら一郎さん。今日は若い人連れて、珍しいわね。」

「あぁ。工場の奴だ。こんな年寄りに付き合ってくれる若いもんは近頃じゃ珍しいねぇ。」

「いいわねぇ。お兄さん、名前は。」

「あ・・・村井です。」

横から佐藤が口を挟んだ。
「壮太って呼んでやってくれよ。」

「壮太さん。これからも顔出してくださいよ。」

「あ、はい。」

賄い婦が側を離れてから、佐藤がすました顔で言った。

「これで壮太も、この店の顔馴染みだ。あのおばはんに覚えてもらえれば怖いもんはないぞ。」

「そんなもんなんですか。そりゃありがたいです。」

壮太は、あらためて店の中の客をぐるりと見渡した。

「いろんなお客さんがいるんですね。うちの近くは鉄工所の人ばっかりだけど。」

作業服の男達も多いのだが、サラリーマンっぽい服装の者もちらほら混じっており、奥の方には、なんとなくカタギではなさそうな人物が固まっていた。

「あぁそうだな。」

枝豆をつまみながら答えた佐藤の顔が、少し曇った。

「昔は、こんなんじゃなかったんだ。ほとんどが工場の従業員だった。」

「そうなんですか。」

佐藤は枝豆に視線を落としたまま、低い声で話した。

「奥のほうの常連席を陣取っているのはなぁ、『銀龍会』の構成員だ。10年くらい前からこの町に入り込んできた。今じゃすっかり我が物顔だよ。」

「へぇ・・・。」

「『銀龍会』は東京の皆川会系でな。ここらへんは他に関西の川口組も入ってきてシマ争いをしていたんだが・・・。
 3年くらい前に、この辺で発砲事件があったのを知っているか?」
 
「いえ・・・。」

そんな事件があったような気もするが、はっきりとは覚えていなかった。
当時ニュースで知っていたとしても、自分の住んでいる所ではないし、まだ学生だった自分には、あまり関係が無いと思ったとか、そんなところだろう。

「結局その時に狙われたのは銀龍会だったんだが、それが警察沙汰になって川口組系は手を引いたもんで、後はもう銀龍会の思いのままだ。ま、わしらみたいな一般人は関わり合いにさえならなきゃいいだけだがな。」

「そうなんですか・・・。」


それからは仕事の話などをぽつぽつとして、やはり佐藤はビールの後に焼酎を一杯飲み干すと帰ると言い出した。

「お前はもう少し飲んでいくか?」

「いや、今日はこの店を教えてもらえただけでじゅうぶんですよ。」

正直なところ、工藤についての情報につながるものが欲しかったのだが、最初から焦っても仕方が無いだろう。
今日は戻って、「てつ」の様子を見に行くかな、と壮太は考えていた。

佐藤と分かれ、バスに乗った。
外には薄闇が降りてきている。

この町のどこかに、工藤がいるのだろうか・・・。
そんな事を考えながらバスの車窓から、景色を眺めていた時だった。

小さなビルの玄関から出てきた男に一瞬目が止まった。

「今のは・・・!」

3年ぶりに見る顔だ。だが忘れはしない。
工藤か?
間違いないだろうか?

とっさに、降車ボタンを押した壮太だった。



      (つづく)
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 大変長らくお待たせいたしました。
(べつに待っていないという声は無視します)(^。^/)

2ヶ月以上ぶりに「くちなしの墓」連載再開です。

やっと始まったのにじれったい展開ですみません。
5話ではもう少しスピーデイーに話を進めたいと思っております。

よろしくお願いしますm(__)m
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Date:2011/05/24
Trackback:0
Comment:12
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

やっぱり秋沙さんの書き方、いいな~。
細かい描写が、程よく生活感を滲みだしてて、物語に引き込んでくれる。
秋沙さんのは、実に程よい。
すっと入ってきます。

ああ、壮太。ついに見つけちゃいましたか。
この時点では、まだきな臭い話は似合わない、一途な堅気の青年なのに・・・。
その男、危ないよ~、壮太!
でも、やがて陽に会うべく、波乱の展開を望んでしまうのも事実で^^

私の物語は、少々展開が早すぎますが(汗)、秋沙さんはじっくりゆっくり進めてくださいね~。
長~く、読んでいたいし。

続き、楽しみにまってますよ~。
2011/05/24 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

てへっ(*^.^*)開き直っちゃいました。
こんなの、10行くらいですむところなのに、長々と細かい描写をしちゃいました。

こんな様子で、どんどん予定より長くなっていくと思われます~(^^;

でも、正直なところ「悲劇」に関してはあんまりくどくど書きたくないなぁ。そういう部分はさらっといっちゃうかもしれませんです。

あらためてlimeさんの作品を読んで、あぁもう、こんあふうに大切な事だけをびしっと書けたらいいのに、と思ったりもしている私です。
2011/05/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

日常生活の風景が丁寧に描写されてますね。
うん、いいっ!
この穏やかな日常が、どう崩壊(?)していくのか、先が楽しみでありますっ!
2011/05/25 【綾瀬】 URL #- 

* No Title

キター!(^^)

再開おめでとうございます!

出会うべきではない人間が出会ってしまいましたねえ~。

これから地獄のような不幸劇が始まるのでしょうな。どきどき。
2011/05/25 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* 綾瀬さんへ♪

開き直ってしまったので、これから無駄に日常の描写が入ると思われます。どうでもいい脇役の事まで説明しているので、登場人物が増えてどんどんわけわからなくなるという・・・(^^;

いいとおっしゃってくださると、調子に乗っちゃいますよ?(笑)(でも、ありがとうですm(__)m)

崩壊・・・し始めたらあとは早いです、たぶん。
2011/05/26 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* ポールさんへ♪

どうも不幸劇っていうのは筆が進まないもんですね。

たぶん私自身、島国根性と申しますか、「自分だけは悲劇に遭わないから大丈夫」と思っていて、日常が崩壊していく過程をシュミレーションできないんだと思われます(笑)
2011/05/26 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

いやいや、待っておりましたよ。
正直、あのままフェードアウトするんじゃないかと
ヒヤヒヤしてました。笑。
ゴメンナサイ。

またマメに寄せてもらいますね!
頑張って!
2011/05/27 【ヒロハル】 URL #- 

* No Title

あ!見つけちゃった。ふふふ
いよいよ、行くところへ行くのね。
(って、私は何を望んでいるのか…ドキドキ)
2011/06/02 【】 URL #41q05U9. [編集] 

* 銀さんへ♪

そうなの、みつけちゃったの(⌒^⌒)bうふっ

・・・ってそういうノリか!?(笑)

えぇもう、あとは行くところへ行くだけですね(^^;
2011/06/03 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* ヒロハルさんへ♪

うわぁごめんなさい。レスする順番間違えちゃった。

ま、マメに寄ってくださっちゃうんですか!?
マメに更新していないのに・・・(ToT)

そうですよねぇ、あのままフェードアウトしそうな勢いでしたよね(^^;
そしてまた、1週間に一話とか言いながらできてないし(^^;
そろそろ私の人間性が問われてしまうくらいのところまで来てますね。はいごめんなさい。頑張ります。
2011/06/03 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

こんにちはー。

まさに鉄工所の町の風景ですね。
こういう精密な描写が物語をより濃厚にしていくのだと思います。

続き楽しみに読みますねー。

あ、骨董店今夜零時も開店です。
2011/12/29 【有村司】 URL #- 

* 有村さんへ♪

こういう、その街の雰囲気や空気の描写、とっても好きなんですが、鉄工所なんて見たこともないもんで自信ないんですが(笑)。
(なんとなく、「幸せの黄色いハンカチ」とかで見たシーンを想像しながら書いた)

もうこの辺からは、こういう描写ばかりでお話が進まなくて申し訳ないですm(_ _)m


骨董屋に会える~~~。
あぁでも、明日まで仕事。
起きていられるかな・・・。
明日になっちゃったらごめんなさい。でも読みたい・・・。(もしかしたら、コメントだけ明日以降にさせていただくかもです)
2011/12/29 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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