もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 8

 「居酒屋てつ」は、いつもの休日の通り、暖簾は出ていなくとも引き戸の鍵は開いていた。
 
いつもなら威勢よく「こんにちはー」と声をかけて入っていく壮太だが、夕べの小夜子の態度を思い出して、ちょっと身構えながら敷居をまたいだ。

店内も厨房もひっそりと暗く、奥のほうで主人がタバコをくゆらせていた。
引き戸の音に気付いて、立ち上がったところらしい。

「あ、おやじさん、こんにちは。」

「おう。」
愛想笑いも余計なおしゃべりもしないこの主人が、壮太は好きだった。
主人は壮太を見ると、また丸椅子に腰をおろした。

「おかみさんは・・・?」
「買い物に行ったよ。」
「そうですか。小夜子はいますかね?」
「あぁ。二階じゃないか?」
「じゃ、お邪魔します。」

少しだけ、おかみさんの不在にほっとしたが、買い物ならおっつけ帰ってくるだろう。
それにしても、家の中は静まり返っていた。
薄暗い階段を登っている間も、何も聞こえてこない。
遠くから、竿竹屋の呼び声が微かに流れていた。

いつものように襖をノックすると、すぐに小夜子が「はぁい」と答えたが、壮太が「俺だ」と言うと、ほんの少し間があった。

「どうぞ。」
なんとなく素っ気ない言い方に感じるのは、気のせいだろうか。
遠慮がちにゆっくりと襖を開けていくと、まず小夜子が座って洗濯物を畳んでいるのが見えた。
西に傾きかけた日差しの中でせっせと手を動かしていて、こちらは見ていない。

その傍らには小さな布団が敷かれていて、ハルキが寝転んでいた。

「昼寝中か?」
囁くような声で壮太がたずねると、「ううん」と小夜子が首を振った。
「じゃぁ、入るぞ。」

傍に行って覗き込むと、ハルキは頭に汗をかいて、布団の上でごろごろと大儀そうに寝返りを打っていた。
眠そうな目でちらりと壮太を見ると、照れくさそうに腹にかけてあったタオルで顔を隠してしまった。

「どうした?ハル坊。」

ハルキは顔の上のタオルをバサッとどけたが、何も言わない。
代わりに小夜子が、せわしなく手を動かしたままで答える。
「最近、なかなかお昼寝をしなくて・・・。こんな時間になってからオネムになっちゃうんだけど、なんだかぐずぐずして眠らないのよ。」
微かに声に苛立ちが現れている。

ハルキはまたタオルを頭からかぶった。

「ダメじゃないかハル坊。お昼寝をちゃんとしないとでっかくなれないぞ?
 おいちゃん、お土産買ってきたんだけどなぁ。」
 
土産という言葉に反応したのか、ハルキはタオルをちょっとずらして、目だけ出した。

「ほら。」

壮太はポケットから小さな包みを取り出し、寝転んでいるハルキの目の前で開けてやった。
それは新幹線のミニチュアで、先日あげた電池式の物よりも小さく、ハルキの手にも握れるほどだったが、その割には精巧に作ってある。

ハルキはそれを手を伸ばして受け取るとちょっと微笑んだが、くるりと寝返りを打って反対を向いてしまった。

「この前ももらったばかりだし、いいのに・・・。ハルちゃんお礼は?」
ちょっと咎めるような言い方をした小夜子に、壮太は笑いながら言った。

「この前のはレールを組むのがハル坊にはまだ難しかったからな。新幹線も大きいし。あっちは大事にしまっておけよ。もう少し大きくなったらまた遊べ。」

「悪いわね・・・ありがとう壮ちゃん。」
母親として、子供の代わりにお礼を言うのは当然の努め、という感じの口調だった。

ハルキはまるで値踏みするかのように、新幹線のあちこちをいじってみている。
かなり眠いのか、指先の動きは緩慢だった。

壮太は立ち上がり、いつものように梶田の遺影に線香を供えた。
ラグビーのユニフォーム姿で微笑む亡き友の写真に手を合わせている間、小夜子が洗濯物を畳む手を止めて、じっとこちらを見ているのを感じていたが、気付かないふりをした。

少し長めに拝んでから壮太が向き直ると、小夜子はまた素知らぬ顔で手を動かし始めた。
ハルキを覗き込んでみると、もう寝息を立てている。
眠る直前に落としたのか、新幹線の上に小さな手を重ねていた。

「やっと寝たか。」
汗に濡れて顔に張り付いている髪を、壮太がタオルで拭いてやっていると、小夜子は重ねられた洗濯物を持って立ち上がった。
「こんな時間に寝ちゃうと、今度は夜遅くまで眠らなくなるのよ。」

「続いてるのか? そういう事が。」
小夜子は、壮太の問いかけには答えずに、黙々とタンスに洗濯物をしまっている。
全て片付けて引き出しをパタン、と閉めた時、そのままの姿勢で小夜子が口を開いた。

「壮ちゃん・・・知ってたのね? あの男が「工藤」だってこと。」

小夜子からそう訊かれる事は覚悟していた。
覚悟はしていたが、やはり何も言い返せない。

小夜子も、壮太が何も言えないだろうことは予測していたようだった。
ハルキの布団を挟んで向かい側に正座すると、今度は
「いつから知っていたの?」
と低い声で言った。

壮太は一瞬顔を上げたが、小夜子の目が強い光を宿って揺れているのを見て、だらしなくうつむき、ハルキの新幹線を枕元にどけながら、ぼそぼそと答えた。

「俺だって、最初からわかっていたわけじゃない。確信は持てなかったんだ。だから確かめようとして・・・。
 だけど小夜子、あいつが工藤だとわかったからってどうする? 何ができる? もう、いいじゃないか。放っておけよ、あんな男のことは。」
 
言いながら壮太は、自分に問いかけているみたいだな、と思った。

小夜子は、眉をひそめて険しい表情をしていた。

「あの人・・・常連のお客さんたちに『前科者』ってからかわれてたから、あたし、聞いたのよ。『お客さん、何をやって刑務所にいたの?』って。」

「おい小夜子・・・お前そんなことを・・・。」

慌てて口を挟んだ壮太の言葉を遮って、小夜子は話し続けた。
こんなふうに、怒りを押し殺したような声で話す小夜子を見るのは、初めてだった。

「工藤は、なんて言ったと思う?『安心してよ、暴力沙汰とかじゃないから。ちょっとヘマしちゃっただけだよ』ですって。
どういうことなの? 梶田くんは死んじゃったのに、『ちょっとヘマしただけ』って、それで許されるの?」

言いながら、だんだん口調が激しくなる。

「おい・・・」

『落ち着け』と壮太が言おうとした時、ハルキが「う~ん」と唸って寝返りを打った。
小夜子はハッとしたように、口をつぐんだ。

束の間、重い沈黙が流れた。
しかしそれは、階下からの引き戸を開ける音と、「ただいまー」というおかみさんの声に破られた。

壮太は立ち上がった。

「工藤は人間のクズだ。だから、そんなクズみたいなヤツのことはもう考えるな。あいつが店に来ても、相手をするな。おかみさんにまかせておけばいい。」

小夜子は黙っている。

「いいな?」

壮太が部屋を出ようとしても、小夜子は目を逸らして唇を噛み締めているだけだった。

店へ降りていくと、おかみさんが「あら、壮太さん来てたのね。」と声をかけた。

「ハル坊が眠っちまったんで、帰ります。」
「小夜子さんとは仲直りできたの?」

ニヤニヤと笑いながら言うおかみさんに、壮太は苦笑いを返した。

「毎日来いとまでは言わないからさ。
 ハルちゃんはまたこんな時間にお昼寝しちまったんだねぇ。どうも最近、夜に目を覚ましてぐずることが多くてね。小夜子さんも疲れてるんだと思うよ。
 壮太さん、余計な心配を小夜子さんにかけないようにしておくれよ。」

明るい言い方をしてくれてはいるが、おかみさんも心配しているのだろう。
ハルキが手に負えないほどぐずるなんてことは、今まであまりなかったのだ。

「すいません・・・。もうちょっとマメに顔出します。」

「いやだねぇ、シュンとしちゃって。小夜子さんにこっぴどくやられたかい?」

「そんなんじゃないですけど。じゃぁ。」

軽くかわして「てつ」を出た壮太だったが、足取りは重かった。

工藤の行動パターンを徹底的に調べてやる。
そして「てつ」に近づかないようにさせるにはどうしたらいいか・・・。

足取りは重たかったが、壮太は自分のしている事にやっと明確に理由ができたという気がした。
もう、おっかなびっくり、くすぶったり迷いながら行動しなくていい。

さっきまで射していた西日が、黒雲に隠れて届かなくなり、空気はまた湿り気を帯びてきていた。

「明日からまた、梅雨に逆戻りか・・・。」

梅雨明けはそう遠くないはずだ。
まだこの時の壮太は、不良時代の喧嘩の前のように、どこか楽天的だった。



   ・・・・・つづく


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さて、ちょっとお遊びを挿みましたが、本編もゆっくりと進んでおります。

皆さんが陽が出てくるのを待ちわびているのがわかりまして、ちょっと申し訳ない気持ちですが、まだしばらく出てこないみたいですm(_ _)m

ちゃんとお話の終わりまでには出てきますからね。
しかも、なんだかナチュラルハイな陽が(^^;)

そこまで辿りつけるように、がんばります・・・。
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Date:2011/10/12
Trackback:0
Comment:17
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

な・・・ナチュラルハイな陽が出てくるんですか!!
って、ごめんなさい。そんなところに食いついてしまいました。(反省)

小夜子のよそよそしさも、ちょっと人見知り気味なハルキの仕草も、目に浮かんできます。
不器用な壮太が、母子を見守る姿が・・・健気。

この時点でも、壮太はまだ、どこか楽天的なのですね。
あの男とバッタリ出食わしたとしても、今の段階では悲劇的な展開にはならなさそうですが。
このあと、何があるんでしょう・・・。

ハルキには、せめて何も起こらないでほしいなあ。かわいいもん。ねえ。(。◕ω◕。)

で・・・なんで陽がナチュラルハイ?←やっぱり陽が気になる人。
2011/10/12 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* いい!

何と言えばいいか、とても読み心地のいい章でした。
文章に描かれた景色と人の呼吸の間のようなもの…。
どう表現していいか分からないのですが、
川の流れのように経過していく中に、時々はらはらさせる急流があり、
それらがとても自然な景色の描写と共に描かれている、
そんな心地よさ、私の好きな心地よさを頂きました。

今までインストルメンタルオンリーだったオリジナルソング、
やっと初の歌入りをアップしました。(かなりソフトな曲)
まだまだ精進しなければいけませんが、
是非秋沙さんに聴いて頂きたく、こちらにご報告に参りました。
お時間のある時にでも覘いていただけたら幸いです。
2011/10/12 【】 URL #41q05U9. [編集] 

* limeさんへ♪

ナチュラルハイっていうのはちょっと語弊があったかなぁと反省してます(^^;)

ん~~~なんて言ったらいいのかな、え~っと、「ゴキゲン」とでも言っておきますかぁ。
さっき8話をupしてから、書いてある部分をチェックしながら、あとどのくらい書き足さなきゃいけないのかなぁと構成を練ってみましたが・・・

陽が出てくるのは、まだだいぶ先になりそう(^^;)
ひえ~ごめんなさい。
坂木と一緒に、じっとりと待っていてくださいね(^^;)


このまま、壮太も工藤のことなんか忘れちゃえばいいのにね。
そうしたら、未来が変わってくるのに・・・。
(そもそも白昼夢シリーズ自体が無くなっちゃうからダメか)
2011/10/12 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 銀さんへ♪

うわぁ、嬉しいお言葉ありがとうございます。
私もこの章は、書いていて楽しくて、あまり苦労しませんでした。
このところ、無言で行動する壮太を追いかけるのに必死で、説明的な文章になってしまっていたので、こうやって会話で進めていける場面がうれしくって。
裏では不穏な動きが始まっているのですが、本人達はそんなことにはあまり気が付かず、日常の延長として暮らしている・・・そんな何気なさと不安を感じていただけたらなぁと思ってました。


そりゃそうと・・・・!

行きます!聴きに行きます!
イヤホンして、じっくり聴きます!!(^^)
2011/10/12 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

うーむ、工藤はサイアクですねぇ。
小夜子が怒るのもすごくわかります(でも、工藤に対して何か行動を起こすようなことをしなければいいんだけど…)。

お。終わりのほうでは陽が出てくるんですね!
しかもナチュラルハイで(笑)
楽しみです ^^
2011/10/13 【西幻響子】 URL #U8GV5vt2 [編集] 

* No Title

暴力団が絡むと恐ろしいですからねえ……。

最悪の結末だけにはなりませんように、って、なっちまうんだろうなあ。

うむむ。
2011/10/13 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* 西幻響子さんへ♪

工藤については、お話の中核を担う役柄の割にあまり詳しく触れてないってことに、最近気が付きました(^^;)

はい!陽、ちゃんと出てきますからね(^^)
このまま第二支部に行かせっぱなしってわけにもいかないし(笑)。
ナチュラルハイってほどでもないですが(笑)
2011/10/14 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* ポールさんへ♪

じ、実は・・・

工藤を暴力団に関係させたこと、秘かに後悔している作者であります・・・(言っちゃった)(^^;)

ただの、酒癖と女癖の悪いおっちゃんって事にしておいちゃったほうが、お話が進めやすかったかも・・・って。なはは(^^;)
2011/10/14 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2011/10/14 【】  # 

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2011/10/14 【】  # 

* 鍵コメポールさんへ♪(あ、言っちゃった)

なるほど、そんなドタバタがありましたか(^^;)

いやいや、読んでるこちらはそんなふうには感じませんでしたなぁ。
完成させたものが官軍ですな、まさしく。

よし、得意の力技で・・・(笑)
2011/10/14 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* トーンが重いと…

作者様もけっこうなダメージ喰らいますよね。
どうか、ご自愛されて進めてください。
…って、まだ追いついておりませんが。

静粛な空気が流れているので、今回は、fateは大人しくして退場します(^^;

2011/11/01 【fate】 URL #- 

* fateさんへ♪

ストーリーの大筋自体は、だいぶ前に考えてあるので、ダメージも分散されているのですが・・・。

やっぱり、シビアな所へ進めていくのには、覚悟が必要ですね。心をオニにしないといかんなぁ。
2011/11/01 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

許せん。工藤……。
私の知り合いに○し屋がいるのですが、依頼されてはいかがですか? 大学生ですが、いい仕事しますよ。笑。

陽、出てくるんですか!
それは楽しみです。

2011/11/03 【ヒロハル】 URL #- 

* ヒロハルさんへ♪

え?ヒロハルさんに寿司屋の知り合いが?

・・・ぢゃなくって。

あははは!そうか!「彼」に頼むという手がありますねぇ。新聞に「携帯電話売ります」って壮太が広告を出せばいいんですね?(^^)


はい、もうずいぶん過去のお話だけで進んでいますが、また「濃緑の葉」のように現在の事が時々挟まれるようになってきます(予定)。
なんせ、陽を出さなければ「白昼夢」のファンの方々が黙っていませんからね~(笑)。
2011/11/03 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

壮太の闇への架け橋は小夜子なんだねぇ。
行ったきりの橋。
渡ってしまえば元には戻れない闇の橋。
小夜子は一人見送るのかな。
うーーーー
モヤモヤさまーーずになりそうだ。
2011/12/01 【ぴゆう】 URL #- 

* ぴゆうさんへ♪

あ~そうですね。なるほど・・・
あ、すみません、一人で納得してしまって。

「闇への架け橋は小夜子」「行ったきりの橋」・・・。

モヤモヤした展開で申し訳ありません~~~(ToT)
あと2話ほどで、だいぶ展開が早くなりますので・・・。
2011/12/01 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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