もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 9

 「おやっさん、今夜も行きますか。」
 
休憩時間、一服している佐藤一郎の隣に、自分もタバコに火をつけて座りながら壮太は言った。

「おう、そりゃかまわんが・・・。」
佐藤は、メガネの奥の小さな目をしばたたかせて、じっと壮太の横顔を見た。

「なぁ壮太、おまえ・・・。」
「なんすか?」

「いや・・・。」
佐藤はまだ何か言いたげだったが、壮太は素知らぬ顔で煙を吐き出した。

ここまで急に、続けて一緒に飲みに行きたがったら、いい加減佐藤も変に思うかもしれない。
明日からは一人でこっそりと行こうか、と壮太は内心では考えていた。


 いつもの立ち飲み屋で飲んでいる間、壮太はわざと鉄工所の同僚の事や世間話など当たり障りの無い話を次々にした。
 
佐藤は珍しく、いつもより1~2杯多く酒を飲んだ。
相変わらず、何か問いたげな目で壮太を見ていたが、結局は時間が気になるのか、「そろそろ俺は帰るぞ。」と言い出した。

壮太も一緒に店を出て、佐藤の自宅近くまで二人でぶらぶらと歩いた。
商店街のはずれから住宅街へ入る路地の入口で、佐藤が不意に言い出した。
「おう、あそこに見える青い屋根のあばら屋が俺の家だ。気が向いたらいつでも遊びに来い。ばあさんが一人いるだけだがな。」
 
「あばら屋だなんて。立派な家じゃぁないですか。」
壮太が笑って答えると、佐藤は一度、その小さな目でじっと壮太の目を覗き込んだが、「じゃぁな。」と片手を上げて家へと歩き出した。
壮太はその背中を見送りながら、少し後ろめたいような、なんとも言えない気持ちを抱いて、小さく頭を下げた。

しかし、その気持ちはまた商店街へと歩き始めるとすぐにどこかへ消えた。

今日は工藤はどこにいるだろうか、と考えながら、あちこちの居酒屋の入り口だけ眺めながら歩いていると、やがてあちらから歩いてくる工藤をみつけたのだ。

すでに、少し酒が入っているようだ。
グレーのスラックスのポケットに手を入れたまま、独特のはずむような足取りで壮太のいる場所より少し手前の路地に入って行く。

急いで路地の入口まで行ってみると、角を曲ってすぐのところにあるスナックに入っていくところだった。妖しい紫色の看板が出ている。

さて、どうしたものか。

壮太はタバコに火をつけて、壁によりかかって商店街を行き交う人々をしばらくの間眺めた。
その時、派手な赤いスラックスのポケットに手を入れて、ぶらぶらと歩いてくるリーゼント頭が見えた。

「おう、タカシじゃないか。」
声をかけると、リーゼントは嬉しそうに近寄ってきた。
「センパイ・・・! いやぁ、また会えましたねぇ。」

「今日は、『アニキ』と一緒じゃないのか。」
タカシは、サングラスをはずすと、小さな目をくりくりさせて答えた。
「アニキは組長のお供で東京なんっすよ。皆川会の総会があるってんで。」
「へぇ、じゃぁお前今は暇なのか。」
「メシでも食おうと思って出てきたところっす。」

「じゃぁちょうどいい。」

壮太はタカシの腕をひっぱって、先程工藤が入って行ったスナックのドアの前に立った。

「ひぇ~センパイ、こういう所も行くんっすか。」
「いや、ここは初めてだがな。まぁ俺だってたまにはこういう店にも行ってみたい。」
「俺、こういうとこはアニキのお供でしか入ったことないっすよ。」
「俺も一人じゃ行きづらいからちょうど良かったよ。今日はごちそうしてやる。」
「ほんとっすか!」

小躍りしそうになっているタカシの笑顔から、八重歯がのぞいた。

そのスナックは、間口は小さいが中は思ったより広く、ボックス席が5~6卓あるようだった。
客は2~3組入っていて、どれも少人数だったが、一人で来ているのは工藤だけらしい。奥のほうの小さなボックスで、両側に女の子をはべらかして、だらしなく座っているのが見えた。

「あら~いらっしゃい。お若いお客さんでうれしいわ~。」
小柄な、ママらしい女性が出迎えた。
外の紫色の看板から想像するよりも、サバサバした雰囲気の女性だ。
「初めて・・・かしら?」

「うん、初めて来てみたよ。」
壮太が答えると、「どうぞどうぞ」とママが席に案内してくれた。
幸い、工藤からは少し離れた席だった。
タカシは緊張しているのか、ニヤニヤしているだけで何も言わない。

もう一人女の子が席について、まずはママと4人で乾杯をした。
「今日はお友達同士で?」

「いや、こいつは中学の後輩で、偶然久しぶりに会ったから一杯やろうと思って。」
「あらそうなの。このあたりの出身?」

壮太は祖母と暮らしていた街の名前を小声で告げた。
「あぁ知っているわ。いい所よね。」
ママが大きな声で町名を言ったので、工藤に聞こえはしないかとヒヤヒヤした。
自分が事故を起こした場所だ。聞こえればこちらの方に注目されかねない。

工藤が壮太の顔を覚えているということはないだろうと思う。
しかし、タカシはもしかしたら銀龍会の事務所で顔を覚えられているのかもしれないし、用心したいところだった。

そっと工藤の席を盗み見してみたが、工藤は席についた女の子の顎先をこちょこちょとくすぐったりしてじゃれているので、気付かなかったようだ。
一方、壮太の隣のタカシは、完全に鼻の下を伸ばしていて、工藤がいることには気付いていない。

ほどなくして、ママは他の客の相手をしに席を立って、べつの女の子が壮太の隣りに座った。
ポニーテールの髪を赤く染めて不良少女上がりという感じだが、タカシの隣の子も含め、客あしらいは上手だった。
タカシは酒が回っておしゃべりになってきており、中学で不良だった頃の話を自慢気に語っている。

「とにかくねー、この壮太センパイは強かったんすよ。俺なんかいっつも、喧嘩の時壮太センパイに助けてもらってばっかりで。」
「べつに助けてねぇよ。お前、最初にのびちゃってるから誰も相手にしてなかったし。」
「ひどいなぁーーセンパイーーー。」
「きゃははは! なさけな~い!」

女の子たちは、タカシをからかいながらも聞き役に回り、いい気分にさせてくれている。

そうしている間も、壮太は工藤の席が気になってちらちらと見ていた。
長い黒髪に白いボディコンを着た女の子を相手に相変わらず膝に手を置いてみたり、肩に手を回したりしてベタベタとしている。

壮太はムカムカとした気分を抑えるのに苦労していた。
自分の隣の女の子にそっと聞いてみた。
「あのお客さんみたいに、スケベに触ってくる人もいて大変なんじゃないの?」

女の子は、ちらりと工藤の席を見ると、ちょっと肩をすくめた。
「あぁ、あのお客さんは常連さんだから。あんまりひどければママが助けてくれるし。あたし達だって『お仕事』だから、多少のことは大丈夫よ。」
「偉いもんだなぁ。」
「さすがに一人で『アフター』に行くのはママに止められてるけど。でもね。」

女の子は壮太に顔を寄せて、ヒソヒソ声になった。
「あのお客さん、羽振りがいいからさ、ママにナイショでアフターに行く子もたまにいるみたい。ドライブに付き合って、お小遣いもらっちゃった、なんて話してた子もいたよ。」

「へぇ・・・ドライブだけですむのかい?」
女の子はいたずらっぽく舌を出した。
「さぁね。どうだか。その話をしてた子は、けっこう他にもお客さんとホテルに行ったりして稼いでてさ、ママに知れてやめさせられちゃった子だから。もしかしたら・・・ね。」

なんて野郎だ。
壮太は心のなかで毒づいた。
今すぐにでも怒鳴りつけて殴ってやりたかったがぐっとこらえた。

やがて、工藤が席を立った。
見送りについてきた女の子の腰に手を回して、名残惜しげに撫で回している。
女の子の方は慣れたもので、適当にあしらいながら店の外にママと出ていったが、やがて工藤を見送ったのか、店内に戻ってきた。

壮太も後を追いたかったのだが、タカシがすっかりできあがってしまっていて、置いていくわけにもいかない。
仕方ないので、しばらくタカシにいい気分を味あわせておいてやったが、いい加減に酔っ払ってきているようなので、店を出ることにした。

「おい、タカシ、そろそろお開きだ。」
「え~? そうなんすか。あぁ、俺飲み過ぎちゃったなぁ。いやぁセンパイ、楽しかったっす。」

言うことがくどくなってきて、ろれつも怪しくなってきているが、女の子に迷惑をかけるほどではなかったのが幸いだった。
からかい甲斐があって楽しかったのか、ママも女の子たちも楽しげに二人を見送ってくれた。

商店街を歩き始めると、タカシは酔いが足に来たのか、フラフラし始めた。

「おいおい、大丈夫かよ。」
「大丈夫っす、大丈夫っすよセンパイ。いやぁごちそうさんでした。楽しかったっす。」

ヤクザの使いっ走りなんかやっていても、こいつの本質は変わらない、可愛いやつだなと思いながら、壮太は肩を貸してやった。

「お前、住まいはどこなんだ?」

「あぁ、事務所の近くに組長の家があって、そこで世話になってるんっすよ。俺らみたいな下っ端は雑魚寝部屋っすけどねぇ。」
「そこまで送っていくのはゴメンだぞ。コワイお兄さんたちに大歓迎されかねないからな。」
「カタギのセンパイを連れていくわけに行かないっすよ。大丈夫っす。ちゃんと歩けますから。」

タカシはそう言って壮太から離れようとしてまたフラつく。
「しょうがねぇやつだなぁ。」

また手を貸してやりながら、壮太は何気なく言った。

「そういえばさっきの店に、あの工藤さんって人も来ていたみたいだぞ。帰るところをちらっと見た。」

「あー、そうなんすか。気付かなかったなぁ。」

「あの人は組長のお供でその『総会』とやらには行かないのか?」
そんな事を聞いたら怪しまれるだろうか、と思いながら、タカシが酔っているのを良い事にちょっと冒険をしてみた。

「工藤さんは銀龍会の組員じゃないっすから、関係ないっすよ。あー、俺、この前センパイに会った後、アニキに聞いてみたんすよ。あの工藤さんって人は、何者なんすかって。」

「へぇ。」

「なんでも、うちの組長が世話してやってるスナックのママが、一緒に暮らしてる人なんだそうで。アニキはそれしか教えてくれなかったけど。」

「組長が世話している?」

「よくわかんねぇっすけど、時々お客さんが来るとそこの店に連れて行って飲んだりするんすよ。『スナック笑美』っていう店なんすけどね。だから工藤さんって人も組長を知っていて、時々挨拶したりするんじゃないすか。俺がみかけるようになったのは最近だけですけど。」

「なるほどね。タカシ、お前いつから銀龍会に入ったんだ?」

「まだ1年半くらい前なんすよ。俺なんかまだまだ下っ端の下っ端で、アニキに叱られてばっかりっすよ。」
「そうかそうか、キビシイ世界なんだろうからな。頑張れよ。」

壮太は一度、タカシを閉店している商店のシャッターの前に座らせて、自動販売機で冷たい飲み物を買ってきて飲ませてやった。

だいぶ落ち着いてきたタカシは、何度も「本当に楽しかったっす。」と繰り返し礼を言って帰っていった。

かろうじて終バスに間に合った壮太は、工藤の嫌らしい顔つきをずっと思い出していた。
工藤はあのママのヒモって事か。情けない男だ。壮太は内心工藤を嘲笑った。
女に養われていながら、女の車で酒を飲みに出かけ、若い女の子に手を出して・・・。
最低な野郎だ。

やはり、絶対に小夜子に近付けさせてはいけない。

一応、閉店間際の「てつ」にも顔を出した。
小夜子は、またハルキが愚図っていたとかで、すでに仕事を上がって二階に引っ込んでしまっていた。
今夜は、工藤が顔を出すこともなかったらしい。




       つづく
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すみません、どうにも切れ目が無くて、長くなってしまいました。
読みづらかったことと思います・・・。

早くこの状況から脱したい・・・壮太、頼むよ~~~(^^;)
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Date:2011/10/19
Trackback:0
Comment:8
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

嵐の前のインターバルですね。

本格的な「動」に入るのはいつだろう……。
2011/10/19 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* ポールさんへ♪

ず~っとインターバルだったりして(^^;)

ちょっと急ぎ足で進めちゃおうかと思います。
力技を使ってでも(^^;)
2011/10/19 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

ジワジワと探りをいれる壮太も、なかなか渋くてカッコいい^^
でも、ママが「お若いお客さんでうれしいわ~。」って言った時、「あ~、そうだった、壮太は坂木じゃないから、まだ若いんだ」と、慌てて脳内画像を編集しました。汗
どうも、ヒゲの坂木のイメージが・・・。
いけない、いけない。壮太なんだ(^^ゞ

ちょっとおとぼけなタカシが、いい味出してますね。
(早く、足を洗いなさいよ・笑)

ぼちぼちと、工藤が動きますかね。
それとも、小夜子??
じりじりと、待ってますよ~~^^
2011/10/19 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

そうなんですよ!
壮太はまだ若いんです!(笑)
私もそのママのセリフ、いらないかなぁと思いながらも、壮太が若いってことを自分が思い出すためにも(^^;)書いちゃいました。
まだ壮太はヒゲじゃないし、ラグビーで鍛えた筋骨たくましい若者なんですよ~(背はちょっと低めだけど)。
でもなんだか、性格がおっさんくさい(笑)。

タカシはまるっきり不要っちゃぁ不要なキャラなんですが、なんか愛着があってついつい書き込んじゃいました。

なかなか先に進まなくてすみません・・・m(_ _)m
次回は、次回こそは・・・と思っていたんですが、また長くなってきちゃって困ってます。
壮太~~~そろそろ動こうよ~~~。
2011/10/19 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

赤江瀑「オイディプスの刃」読みました。

これまたむちゃくちゃ面白いです。

ぜひどうぞ~。
2011/10/22 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* ポールさんへ♪

先程、ア○ゾンで「ニジンスキーの手」ぽちっとしてまいりました~~~。
楽しみ~(^^)

しかし、「オイディプスの刃」はなぜか中古なのに2980円なんていうものしかなかったので、ちょっと手が出せませんでしたわ・・・(^^;)
まずは「ニジンスキー」を読んでみます!

しかしその後には、limeさんが現在ハマっている「聖なる黒夜」も気になるし・・・。あぁ時間か、または速読術がほしい。
2011/10/22 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

79年初版の角川文庫版は1円から出てますよ。(^^;)

改稿したという話も聞きませんし、そちらでいいのではないかなあ(^^;)
2011/10/23 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* ポールさんへ♪

あ、なるほど、角川文庫。
ありがとうございます、ニジンスキーを読破したら探してみます!
2011/10/23 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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