もうひとつの「DOOR」

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

にほんブログ村 小説ブログへ 人気ブログランキングへ←こちらもぽちっとお願いします(^^)

→ 「スポンサー広告」目次へ戻る
*    *    *

Information

□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 11

 「てつ」の暖簾をくぐると、おかみさんに威勢よく「あらいらっしゃい。」と声をかけられた。
忙しそうに空いた席の食器を片付けながら、「このところマメだねぇ」と冷やかし顔で言う。

壮太はいつものカウンター席に座ると、きょろきょろと店内を見回した。
「おかみさん、小夜子は・・・?」

お通しを持ってきたおかみさんは、
「それがねぇ、またハルちゃんが起きだしてぐずっちゃってね。二階で寝かしつけてるよ。」とちょっと困惑顔になった。

「ハル坊、よくぐずるんですか?」

「最近ちょっと多いねぇ。まぁ、自我が育ってくるお年頃なのかもしれないね。ハルちゃんは逆に今まで良い子過ぎたのかもしれないよ。」

さすがに3人の子供を育て上げただけあって、余裕がある。
その子供たちもそれぞれ独立したり結婚したりして家を出ている。

それにしても、今日は平日の割には客が多い。
中途半端に雨が降ったり止んだりしているから、客がなかなか立ち上がらないのかもしれない。
小夜子がこうしてしょっちゅう店をあけるのなら、おかみさんも大変だ。

壮太は、落ち着かない気分でちびちびと酒を飲んでいたが、仕方ないのでもう帰ろうか、と思っていた時だった。

ちょっと手が空いたおかみさんが壮太のところへ来て話し始めた。

「さっきね、壮太さんが来るちょっと前に、あの工藤さんって人が来てたのよ。」

「えっ・・・!?」
血の気が引く思いがした。
ゆっくりと歩いて帰ってきたのはまずかった。
まさかその間に工藤がこちらへ来ていたとは・・・。

「やっぱりあの人はクセモノだよ。今日もね、あたしが忙しい隙を見ては小夜子さんにどうにか取り入ろうとしてさ。よっぽど気に入ったのかねぇ。」

「・・・・・。」
壮太は怒りを顔に出さないようにするのに必死だった。

「あたしもなんとか、小夜子さんに話しかけさせないようにしたんだけどさ、しつこいったらないの。わざとあたしが厨房にいる間にお会計に立ってね。慌ててあたしが横から入ったんだけど、『今度ドライブしよう』とかなんとか口説いてるのよ。」

「小夜子は・・・どうしました?」

「それがさぁ・・・怖い顔して黙って勘定をしてたんだけどね、あの人が店を出て行った途端に、急に小夜子さん、外に追いかけて出ていったのよ。」

「えっ!? 小夜子がですか?」

「そうなのよ。あたし、『ハッキリ断ってやんな。もうこの店に来なくなってもかまわないから。』って小夜子さんに声をかけてやったよ。」

「それで・・・?」

「割りとすぐに、戻ってきたわよ、小夜子さん。真っ白な、怒ったような顔をしてね。
 『言ってやったのかい?』って聞いたんだけど、その時に二階でハルちゃんが泣き出してね。慌てて上に上がっちゃったのよ。
 まぁ、あの様子なら、たぶんかなりキツイこと言ってやったんだと思うけど。」
 
「そうでしたか・・・。」

猛烈に腹が立った。
工藤という男に、そして、迂闊だった自分に。

「小夜子、戻ってきませんね・・・。」

「まだ眠らないのかねぇ、ハルちゃんは。」

その時、客の一人が空になったグラスを掲げて「おかみさ~ん」と声を上げた。

「はいはい、おかわりね。お茶割りでいいの?」

厨房に戻ろうとするおかみさんに、壮太は声をかけた。
「おかみさん、ちょっと様子見に上がっていいですか。」

「あぁ、お願いするわ。」

階段を上がって襖の前に立ち、ノックをしようとして壮太は迷った。
もし、ハルキが眠りかけているのなら、かえって邪魔になりかねない。
そっと襖に耳を当ててみると、階下の客の声が途切れた瞬間に、中からぐずぐずと泣いているハルキの声が聞こえた。

壮太はそっと襖を叩き、細く開けた隙間から「俺だ、入るぞ」と小さく声をかけてから中へ入った。

小夜子はハルキに添い寝してなだめていたらしく、慌てて上半身を起こして
「あ・・・壮ちゃん・・・来ていたの・・・。」とかすれた声で言った。
仕事着のままで、慌ててほつれた髪を直している。

「どうしたんだ? ハル坊。お母ちゃん、困ってるじゃないか。」

側へ言って声をかけると、ハルキは泣き声をあげて小夜子の体にしがみついた。

「困ったやつだなぁ。」

部屋はハルキのおもちゃで散らかっていた。小夜子がいろいろと苦戦していたのだろう。
先日、壮太が買った新幹線も転がっていたので、それを拾い上げてハルキに手渡してみたが、不機嫌に投げ捨てられてしまった。

「おいおいハル坊・・・。」

小夜子は、硬い表情でじっとしている。

壮太は小夜子に向かって言った。
「下が忙しくて、おかみさんが困ってるぞ。ちょっと俺がハル坊をおぶってそこら辺歩いてきてやるから、手伝ってこいよ。今はちょうど雨も上がっているし。」

「えっ、でも・・・。」
小夜子の声には、安堵と迷いが現れている。顔には疲れがにじみ出ていた。

「いいから。」
壮太はさっさとハルキを抱き上げ、一度立たせると自分の背中に捕まらせて背負いあげた。
店に降りていくと、常連客から「おっ、ハル坊じゃないか、まだ起きていたのか?」と声がかかった。
不機嫌なハルキは、壮太の背中で小さく呻いて反対方向に顔を背けた。

「あら、お散歩してきてくれるのかい? 悪いわねぇ壮太さん。」
おかみさんが声をかける。

「ちょっとその辺を歩いてきますよ。外の空気を吸えば、落ち着くだろうから。」
おかみさんと、心配そうに後ろをついてきた小夜子にそう声をかけて、壮太は引き戸を開けて外へ出た。

外は雨上がりで湿気はあったが、店の中のように蒸し暑さはなく、ひんやりと心地よかった。そのせいか、背中のハルキは、すぐに泣き声はあげなくなった。
まだ時折、顔をこすりつけたり足をばたばた動かしていたが、壮太が歩きながらでたらめな昔話を語ってやったりしているうちに、静かになった。

熟睡するまではこうしていてやろうと、壮太はほとんどの店が閉まっている商店街や、寝静まった住宅街をゆっくりと歩きまわった。

やがてハルキが規則的な寝息を立て始めたのを確認して、「てつ」の近くへ戻ってきた時、通りに出てきょろきょろと辺りを見回す小夜子が見えて、二人をみつけると駆け寄ってきた。

小夜子は、壮太の背中でぐっすりと眠っているハルキを見ると、安堵の溜息をついた。

「ありがとう壮ちゃん。もう常連さんも帰ったし、あとは大丈夫だから。」
そう言いながら小夜子は、ハルキを壮太の背中から受け取って抱きかかえた。
ハルキはそれでも目を覚まさないほど熟睡している。

ゆっくりと、「てつ」へ向かって歩きながら、壮太は低い声で言った。
「工藤が来たんだってな。」

小夜子は何も言わない。ハルキを抱え、ただ足元だけをみつめて歩いている。

「おかみさんが心配していたぞ。あいつ、しつこく小夜子にせまったそうじゃないか。」

固く口を結び、眉を顰めてうつむいた小夜子の横顔には、何か底知れぬ決意のような物が見え隠れしていて、壮太を不安にさせた。

「言ってやったのか? もうここには来るなって。なぁ、小夜子・・・。」

小夜子は、ハルキを抱く手に力を入れて、呟くように言った。
「あたしは、許せないわ。」

もう「てつ」の引き戸は目の前だった。おかみさんが片付けたのだろう、暖簾はもう出ていないが、曇りガラスの中の明かりがぼんやりと湿った空気を照らしている。

「おい、許さないって言ったってお前・・・。」

急に立ち止まった小夜子は、真っ直ぐに壮太をみつめた。
「許せないでしょう?」

「いや、確かに許せないが・・・だけど、あの事故の刑罰は受けたんだし・・・。」

「たったの3年よ!?」

ハルキを起こさないように小声ではあるが、激しい口調だった。

「たった3年で罪を償ったって言えるの? しかも、ちょっと失敗しただけくらいに思っているのよ?あの男は。」

曇りガラス越しの蛍光灯の光で、小夜子の肌は一層白く見えた。
ほつれて白い三角巾からこぼれ出ている髪の毛が、くっきりと黒くその顔に影を作っている。

「あの人は・・・梶田くんは帰ってこないのに。何年待ったって帰ってこないのに。ひどすぎるじゃないの!」

壮太は思わず、唸るように声を上げた。
「そうだ・・・! 梶田は帰ってこないんだよ。もう帰ってこないんだ! 工藤を許そうと許すまいと、帰ってこないんだよ!」

言ってしまってハッとしたが遅かった。

壮太を見る小夜子の黒い瞳はいっぱいに見開かれ、溢れ出しそうな涙の膜が揺れていた。
その唇は、小刻みに震えていた。




      つづく


← BACK         目次へ         NEXT →
関連記事

にほんブログ村 小説ブログへ 人気ブログランキングへ←こちらもぽちっとお願いします(^^)

→ 「くちなしの墓 第二部」目次へ戻る
*    *    *

Information

Date:2011/10/26
Trackback:0
Comment:8
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

あああ~、小夜子。
工藤を追っかけて、何か言ってしまったんでしょうか。
怖い~。
壮太が仕掛けるなら、まだいいけど、小夜子が直で工藤に接触するのは怖いです。
何か、言ったのかな・・・。
壮太の背中で眠るハルキが可愛い。
でも、おぶっている壮太が切ないね。

恨みからは、何も生まれないけど、人間に備わっている以上、逃れられないですね(>_<)
2011/10/26 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* No Title

うーむ、やっぱり情景の雰囲気作りうまいですね、秋沙さん。リアルだ ^^

それにしても小夜子、工藤になにを言ったのでしょう?
気になる・・・。泣いちゃうし・・・。

それに、色っぽい。このシーンの小夜子。
壮太でなくとも、男だったらぐっときちゃう美しさですね。
2011/10/26 【西幻響子】 URL #U8GV5vt2 [編集] 

* No Title

永遠と3年の違いは明らか。

小夜子と工藤がどんなやり取りをしたのか気になります・・・

壮太、小夜子とハル坊を守ってあげてください。

そして、私にもでたらめ昔話を聞かせてくださいっ^^
2011/10/26 【けい】 URL #- 

* limeさんへ♪

何かやらかしてなければいいんですけどね、小夜子。

ちょっと意固地になって恨みの感情に囚われてしまっている小夜子に、実はイライラしながら書いてます(^^;)
なんだか壮太がかわいそうになっちゃってねぇ。

でもまぁ、壮太も何やらこそこそと動き回っているから、どっちもどっちか・・・。
あぁ、若さって若さって・・・(ToT)
2011/10/26 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 西幻さんへ♪

えっ、ホントですか?リアルな情景、感じて下さいましたか?
じ、実を言うと、最近天気とか空気のことを描写することを忘れがちだったので、慌てて書き足した感がありまして・・・(^^;)
どうにかして、「くちなし」だけにほぼ全編、じとーっと湿った空気を醸し出したいと思っているんですけどねぇ。

あら、小夜子、色っぽいですか?(笑)
それは作者はまったく意図していませんでした(^^;)
あ、でも、実は小夜子のこの意固地になっている所が読者様の反感をかわないかと少し心配していましたので、「美しい」とおっしゃっていただけるのは、本当にうれしいです。

さぁ、小夜子の行動と、その小夜子の美しさにぐっときた(笑)壮太が、そろそろお話を進展させていくと思われます・・・。
2011/10/26 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* けいさんへ♪

理不尽ですよね。
意図的にではなくとも、殺されてしまった人の遺族にとって、「3年」という刑はあまりにも軽く思えるでしょうね。

今のところ、小夜子と工藤が何を話したのか、知っているのは本人達だけ(のはず)なので、どうにも明らかにしようがありません。

壮太・・・・小夜子たち母子を、しっかり守ってほしいですね。

「でたらめな昔話」(笑)。
具体的に何か書こうかとも思ったんですが、長くなっちゃうので割愛しちゃいました(^^)書きたかったんですけれど。
そこに食いついてくださる方がいて、嬉しい(笑)。
2011/10/26 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

これから坂道を転げ落ちるように事態が急速に悪化していくんですね。

うわあああ……。
2011/10/26 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* ポールさんへ♪

ふっふっふっふっふ('-'*)
2011/10/26 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://akisadoor.blog118.fc2.com/tb.php/130-a8ad9fe1
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。