もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 13

 工藤は、上着のポケットに両手を突っ込んだまま、ぶらぶらと壮太の10メートルほど先を歩いて行く。
 
商店街から横道に入り、小さな民家やアパートの立ち並ぶ、細くて暗い路地を進み始めると、ぽつぽつと灯る、かろうじて真下だけを照らす程度の街路灯の下に、時々工藤の姿が現れてはまた闇に紛れる。

壮太は息を殺して、慎重にその後を追った。

雨は上がっているが、空気はまるで霧が立ち込めたように湿っていて、街路灯や家々の明かりも、水たまりに反射する光も全てに霞がかかって見える。

やがて、いつも路上駐車をしている公園の脇に出ると、工藤はポケットからチャラチャラと音を立ててキーを取り出した。
街路灯の白い光にぼんやりと、路上駐車されたセダンの銀色の車体が浮かび上がっている。

壮太は尻ポケットからナイフを出した。じっとりと汗ばむ右手でナイフを握りしめ、工藤との間合いを詰めて行く。
工藤は車の横に回り、ドアを開けて乗り込もうとしている。

今しかない。
ナイフの刃を出した。
まだ工藤はこちらに気付いていない。

壮太が突っ込んでいこうとした、その時だった。

横合いから何者かが壮太の腕を掴んだ。
次の瞬間には、声を上げる暇もなく民家の外塀の間の狭い場所に引きずり込まれ、口を抑えられた。

突然の事にパニックを起こしそうになった壮太は、その腕をふりほどこうともがいた。
しかし、びくともしない。
ナイフはとうに、腕を掴まれたときに落としてしまっている。

そうこうしているうちに、工藤の車は動き出し、テールランプが遠ざかって行く。
壮太は後ろから羽交い絞めにされたまま目だけでそれを追ったが、やがて、その赤い光は路地を曲がって見えなくなった。

しくじったのか、俺は。

後ろの人物が誰なのかを考えることも忘れて、壮太はしばし呆然とした。


「村井壮太くんだね。」

不意に頭の後ろから押し殺した低い声が聞こえ、壮太はハッとして再び身体を緊張させた。
同時に今の自分の状況を思い出し、一気に恐怖と怒りが押し寄せる。

「大声を出さないでくれ。危害を加えるつもりはない。いいな?」

後ろと言うより上から降ってくるドスのきいた声と、まったく身動きができないほどに自分を拘束する腕の力の持ち主を相手に、刃向かうことなどできるわけがない。
壮太は全身をこわばらせながら、口を塞がれたままで小さく頷いた。

それを合図に、後ろから回されていた腕が、力を抜きはじめた。
まるで、ゴムタイヤの空気を小さな穴から抜くかのように、スムーズにゆっくりと。
万が一壮太が暴れたり大声を上げようとでもしたら、また瞬時に締め付けることができるように、隙のない動きだ。

後ろにいるのは制服を着た巡査だろうか、それともくたびれたコートを着た刑事ドラマで見るような私服刑事だろうか、いや、工藤が関係しているヤクザものなのか。
そんなことを考えながら、身体が自由になるのを待った。

完全に腕が離れたとき、壮太はゆっくりと振り向き、相手を睨みつけようとしてみた。
しかし最初に目に入ったのは黒っぽいネクタイにとめられた、四角くカットされた石の光るピンだった。

暗がりの中で光沢のある黒いスーツが、鈍色にわずかな光を反射している。
視線を上へと移すと、壮太より頭一つ分高いところから見下ろす鋭い目があった。

こんな上等そうなスーツを着込んだ警官はいないだろうな、と言うのが、まず壮太が考えたことだった。
だとすれば、やはり暴力団関係者か。
任侠映画に出てくるヤクザの幹部はよくこんな格好をしている。
だったら、なぜ、工藤を襲おうとした自分に危害を加えるつもりはないなどと言うのだろう。
これから恐ろしい脅しが始まるのだろうか。
相手は一人だけのようだ。

一瞬の間に、壮太の脳はフル回転してこの状況を読み取ろうとしている。

対する大男は、しかめっ面で壮太を見下ろしていた。

「落ち着いたか。」

押し殺してはいるが、腹の底から響いてくるような低く通る声だ。

「・・・あんた、誰なんだ。」

自分より年上だろうと思われる相手だが、壮太は敵意と警戒心を剥き出しにした。

しかし、男は余裕の笑みを浮かべた。

「とにかく、ここでは話ができん。ついてこい。」

それだけ言うと、さっさと路地に出て行く。ついでに、先ほど壮太の手から落ちた飛び出しナイフを拾いあげて、壮太に手渡したのだ。

壮太は、付いて行こうかどうか逡巡した。
男は振り向きもせずに路地を進んで行く。
当然壮太が後を付いてくる、と確信しているようだ。

このナイフで切りつけることもできる。付いて行かずに逃げ出すこともできる。
そうは思ったが、男の広い背中からは、悠然と歩いているように見えても、いつでも獲物に飛びかかれるような隙の無さと殺気のようなものが伝わってくる。

何故だか、この男にはかなわない気がする。結局、壮太は付いて行くことにした。


 商店のほとんどの店は営業を終えてシャッターを下ろしていたが、ところどころにある赤提灯からはにぎやかな声やテレビの音が漏れている。
 
その中で、男が入っていったのは、広めのガレージのような場所を客席にしている居酒屋だった。
ドアも何もなくオープンになっていて、左側の壁沿いには調理スペースとカウンターがあり、客たちは立ち飲みをしている。
その他のスペースには細い縁台のようなものと椅子がいくつか置いてあり、座って飲むこともできるようになっていた。
作業着姿や、ワイシャツにノータイでスラックスというラフな格好の男達と、威勢よく客の間を行ったり来たりする賄いのおばちゃんの声が、商店街のアーケードにこだましている。

ちょうど、右の壁際の奥の、二人が向い合って座れる小さなテーブルの客が立ち上がって店を出るところだった。

男が当然のようにその席に座ったので、壮太もおずおずと向かい側の椅子に座った。

壮太に確認も取らずに冷酒が注文され、それが運ばれてくるまで男は言葉も発さず、くつろいでいるかのように見える。

壮太は、あらためてその男を観察した。

「強面」という表現がぴったりだ。
太く吊り上がった眉、真っ直ぐな大きな鼻、切れ長で鋭い目。後ろへ撫で付けられた黒々とした髪。
暗がりの中では光沢のある黒一色に見えたスーツは、明るいところで見るとストライプの織り模様が入っている。
肩の筋肉の盛り上がりが威圧感を与えるにはじゅうぶんで、ネクタイを締めたワイシャツに隠されてはいるが首筋は無駄な肉が一切無く、少しエラの張った顎へのラインが目立つ。

ヤクザの幹部に見えなくもないが、それにしては歳が若いだろうか。
おそらく、30代の半ばか。しかし、その落ち着き払った物腰は、年齢をわからなくさせる。

少なくとも、工藤が関係しているらしい暴力団事務所に出入りしているチンピラ風情とは、「上等さ」が違うような気がする。

壮太が無遠慮にジロジロと見ていることも気付いているのだろうが、一向に気に留めていない様子で、注文した冷酒がくると互いの猪口に注ぎ分けて、「まぁ飲めや」と言うとぐいっと自分だけまず一杯目を飲み干した。

自分の猪口に酒を注いでいる男に、壮太は再度問いかけた。
今度は敬語だった。

「いったい、どういうことなんですか。」

男は、二杯目にちびりと口を付けると、正面から壮太を見据えた。

「単刀直入に言おう。工藤のことはこれ以上、つけ回すな。」

「これ以上って・・・あんた、いったい・・・」

「工藤は、お前さんのような素人の手に負える相手じゃぁない。」

「なっ・・・。だけど俺はあいつに・・・!」

「親友を殺された、か?」

「なんでそれを・・・。」

「お前さんの事は、調べさせてもらった。その友達は気の毒だったな。『てつ』で働いているのはお前さんの幼馴染で、彼女の子供は、亡くなったお前さんの親友の忘れ形見だそうだな。」

「あんた、何者なんですか。どうやって調べたか知らないが、そこまで知っているのなら・・・。
ただ、俺は、これ以上あいつに小夜子に近付くなと・・・。」

「お前さん、あの工藤って男を、飲酒運転の常習犯の、ただの女好きなチンピラだと思ってるんだろう。」

「・・・。」

「あの男はな、かなりの曲者だ。ただのチンピラではすまされん。・・・お前さん、腹は減ってないか?」

男は、テーブルの上に乗っているプラケースに入れられたメニューを持ち上げながら言った。

「減ってません。」

「そうか? まぁいい。」

男は、メニューを元に戻してまた酒を口に運んだ。
壮太も観念して、自分の猪口の中の酒に口をつけた。

その様子を上目遣いにちらりと見た男は、話を続けた。

「お前さん、あの工藤って男を付け回して、おかしいと思わなかったか?
 暴力団の事務所に出入りしている割には、ヤクザ稼業をしているようにも見えない。
 特に仕事をしているようでもないが、羽振りが良くて毎日のようにどこかで酒を飲んでいる。
 どうやって生活しているのか不思議にはならなかったか?」
 
「それは・・・女のヒモみたいな生活だからなんじゃ・・・。あいつと暮らしている女は夜にスナックをやっているようだし。」

「まぁ、そうだな。よく調べたじゃないか。素人にしちゃあ上出来だ。」

「あんた・・・刑事なんですか?」

男は皮肉な笑いを顔に浮かべた。
「警察なんかが、あの男の尻尾をつかまえられるもんか。」

「どういうことです? あんたはいったい・・・。」

「あんたあんたと呼ぶな。俺の名前は『辰巳』だ。」




     (つづく)

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またいつ、行き詰ってしまうかわからないので、行ける所では行かせて頂きます~(^^)

はい、登場致しましたよ、まだ少し若い辰巳が。

緊迫してきたとみせかけて、呆気無く壮太が失敗しましたので、またダラダラしたお話に戻ってしまいそうな・・・(笑)。
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Date:2011/11/02
Trackback:0
Comment:10
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

えーーーーーー!
まさか!辰巳だったんですか??

俄然面白くなってきました。
壮太に関わったOEA関係者って、辰巳だったとは~!
あのおっさん!(もう、秋沙さんのせいですっかりイメージがのん兵衛のおっさんww)

それにしても、最初の方、壮太とシンクロして緊張しました。追うところの描写がいいですねえ。ここでOEA出てくるとは思わなかったから、工藤の味方に見つかったかとヒヤヒヤ・・・・。
まんまと騙されました。

いいですねえ、ころっと騙されるの、快感です。
そして、もっと辰巳を見たい。
早く次を・・・・!
2011/11/02 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* No Title

工藤って、そんな大物だったんですかッ!

人間、話を聞いてみるまでわからんもんだなあ。

辰巳さんの次の説明に期待です。
2011/11/02 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* No Title

おお~っ。意表をつかれました。ここで辰巳さんが出てくるとは!ヤクザもかくや、と言わんばかりの迫力ある登場でしたね。かっこいい!
2011/11/02 【西幻響子】 URL #U8GV5vt2 [編集] 

* No Title

辰巳さん、めっちゃハードボイルド系・・・
黒いスーツの反射する光にやられたぁー
声、聞きたいです。。。

工藤がどんだけのワルなのか、聞かせていただきたい。
2011/11/02 【けい】 URL #- 

* ポールさんへ♪

ポールさんが驚いたのはそこでしたか(^^;

どうでしょう、読者様を納得させられるほどの説明が、辰巳から出てくるかどうか・・・(笑)。
そうですねぇ、本当にそんなに大物だったら、ただのスケベな酔っぱらいと思わせていた工藤のカムフラージュ、見事なもんです。

あぁもう、本当にね、ヤクザさんなんかに絡ませたのを後悔している・・・と前にも申し上げましたが(^^;
2011/11/02 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* limeさん、西幻さん、けいさんへ♪

まとめレスでごめんなさい。
内容が重複してしまうので、ご勘弁を・・・。

そうですか!驚いていただけましたか!
いや~、そんなに騙すつもりはなかったんですが(笑)。
結構、壮太の行動を止められた瞬間で、皆様には「辰巳だ!」とわかってしまうのではないかなぁと不安でした(^^;

辰巳・・・最初にlimeさんのお話の中に登場した時には、「いかにも幹部」という感じの、一癖も二癖もある人物・・・だったのに、私のせいですっかり「コメディ担当」になってしまいましたので、ちょっとばかり名誉挽回してあげたいな、と思いまして(^^;
(って、実は新しいキャラを作るのが面倒だったという話も・・・?)

まだ若い辰巳です。(すでになんだか親父っぽいですが・・・それに、若いといっても30歳くらいにはなってるかな)
その辺、頭切り替えて下さいませ(こんなことを読者様に要求するってどうなんだ?)
酔っ払って赤鬼みたいな顔してカラオケで演歌歌ってる辰巳のことは、一旦忘れて~~~(無理だろうなぁ)。

私、スーツ萌(笑)なんで、ついついスーツ姿って細かく描写したくなります。
いかにも金持ちなオヤジさんが着そうな、シルクのてかてかしたスーツ大好き(*^_^*)(どこまでオヤジ好き)


limeさん、こんな展開に勝手にしちゃってごめんなさい・・・。
2011/11/02 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* とりあえず、良かった…

止めてくれて良かった。
まず感じたのはそれでした。
fateもこういう展開をどうやって止めようか、よくもがき苦しみます。で、たまに止められないことがあるんです(バカ???)。
そして、行き詰ってごっそり描き直すか、そのままの展開で、死にそうに辛くなりながら、まぁ、結局は泣きながら物語を進めて収拾のつかない悲劇で終わる…。

ラストを考えずに人物に任せて進めると、たまにそういう悲劇が起こります。で、だいたいそういうハナシはさっさと切り上げたくて短編になる。
『蒼い月』が実はそうでした(--;

しかし、良い役じゃないですか、辰巳さん!
この方は何気に苦労人で、中間の役職っぽい人なので、上にも気を使い、下の面倒もみる…的な挟まれた苦しい立場の方ですね~

復讐とか自己犠牲とか、無償の愛とか、テーマがそれになってしまうとどうしても悲しい展開になって、なかなか厳しい世界ですな~

普段は一気に最後まで辿り着くfateですが、展開の悲しい不穏さに、ちょっとびくびくしてこっそり物語を追っております…(^^;

2011/12/06 【fate】 URL #- 

* fateさんへ♪

出張お疲れ様でした~(^^)

そうですね~、私ももし、なんの制限も無く書いていたら、登場人物たちがどんどん勝手に(?)動いていって収集付かなくなるんだろうなぁ。

私は、とりあえず最初の段階でラストだけは決めてるんです。たぶん、それが無ければ書き進めることができない。
まぁ、このお話は「過去」の話ですので、暴走しようが無いんですしね~。絶対に、limeさんの「白昼夢」につなげていかなければいけないですから(^^;

それでもやっぱり、悲惨な展開は書くのも読むのも辛いもんですね~。
ゆっくり読んでくださいませね。

辰已、少し挽回させてあげました(^^)
2011/12/06 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

おっと、辰巳ちゃーーーーん。
いいなぁ、この感じ。
フムフム、想像するだけでワクワクするね。
これからなんだね。
辰巳にしたら素人にウロウロされたくないものね。
うーーーー楽しみ。
2011/12/10 【ぴゆう】 URL #- 

* ぴゆうさんへ♪

辰已ちゃん、出ました(笑)

ここへ至るまでのダラダラとした展開、お読みになっていて退屈で辛かっただろうと思います。
よくぞここまで来てくださいました。ありがとうございますm(_ _)m

まだまだぴゆうさんを怒らせてしまいそうな展開が待っておりますが(^^;、たぶん・・・ラストでは・・・納得していただけるかと・・・(自信がない)


ワタクシ事ですが、ちょっと外出続きで訪問&コメが途切れがちの私で申し訳ありません!
猫ちゃんたちに癒されに行きたい~~~といつも思っております~\(^o^)/
2011/12/11 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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