もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 14

 「辰巳」と名乗った男は、まるで水か何かのように酒を呷り、また冷酒を注文した。
 
「はいよー」と威勢よく返事をしたおばさんが、すぐに徳利を持ってきた。

辰巳は、自分の猪口に酒を注ぐと、「ほれ」と言って壮太の方に徳利を差し出した。
仕方なく、壮太はまだほとんど残っていた酒を一気に飲み干した。

「結構いける口じゃないか。」

辰巳は含み笑いでそう言いながら、壮太の猪口に酒を注いだ。

酒は壮太の胃を焼いたが、酔える気分ではない。

「3年前に、この近くで発砲事件があったのを覚えていないか?」

オヤッさんが言っていた事件の事だろうか。
壮太は首を横に振った。

「この辺りはなぁ、いくつかのヤクザさん達が自分のシマにしようと裏でいろいろ動いているんだ。
 今、日本は好景気にわいてるが、もう長くは続かない。今のうちに土地を転がしてどんどん地価を上げて、稼いでおこうと考えてる奴らが、この土地に目を付けている。」
 
それがいったい、工藤とどう関わりがあるんだろうか。壮太にはいまひとつ、ピンとくるものがなかった。

「ここいらは古くからの地主がたくさんいるが、代替わりするときに相続税が払えずに土地を切り売りする家も多い。そして、この街には鉄工員の仕事を求めて、流れもんが多く集まる。そこに目をつけて、入り込んできたのが暴力団だ。」

「・・・。」

「工藤はな、そのスジの奴らには『コウモリ』とか『カメレオン』なんて呼び名で通っている。しかし、それが工藤だとはあまり知られていない。」

「なんですか、それは。」

「あいつは、いわゆる『情報屋』みたいなもんなんだ。」

「情報屋・・・?」

「そうだ。カッコイイ言い方をすれば『スパイ』だがな。」

「スパイなら、あの『銀龍会』に雇われてるって事ですか?それとも抗争相手に?」

「普通、情報屋と言ったらどこかの組に飼われていることが多い。自分の顔が効くところで情報を聞きつけてきて、それを流す。
 ところが、あの工藤って男は、そんな単純な事じゃすまされないんだ。」
 
辰巳は、そこでまた酒を呷った。
今度はまるで、その酒が苦いものに変わったかのように渋い顔で飲み干すと、手酌をしながら話を続けた。

「工藤はなぁ、その口のウマさであちこちのヤクザを渡り歩いて、情報を流しまくっているんだ。
 あっちの組で話を聞きつけこっちに流す。そこで報酬と信頼を得ておいて、またこっちの情報をあっちに流す。・・・そんな事を繰り返してきた。
 信頼された組長からは女と住まいをあてがわれ、ボディーガードまで付けられて好き放題だ。飲酒運転や小さな暴力沙汰、それに・・・婦女暴行未遂なんかを、ヤクザの手の回った警察や弁護士に帳消しにしてもらった事なんざぁ、数知れない。」
 
話を聞きながら、壮太の腹の中には酒の熱さと共に嫌悪と憎しみの感情が広がっていった。婦女暴行未遂だと・・・?

「3年前の発砲事件は、工藤が流した情報が元で起きた戦争だった。
 あいつは、裏で戦争を仕掛けて面白がっているんだ。自分だけは甘い汁をたっぷりと吸ってな。」

「そんな・・・そんな事をしていて許されるもんなんですか?バレたら殺されてもおかしくない。」

「普通は・・・な。ちょっとやそっとの処世術ではあっという間にヤラれる。
 しかし工藤は、その口のウマさだけじゃなく、冷酷非道な事を平気でやってのけてここまで生きてきた。
 一つの組にさんざん美味しいネタを流して吸い上げるだけ吸い上げておいて、今度はそこのネタを他に流して自分の身が危なくなる頃には戦争をしかけて、自分を狙う組を潰させる。
 そうやって潰された組には、潰されるだけのネタがあったのも確かだが、裏を辿っていけば潰れた元凶は工藤にある、なんていう話がいくつもあるんだ。しかも、巧妙に情報の出どころは隠されている。」
 
「・・・・・。」

「3年前に起きた発砲事件、工藤の流したネタが原因だと言ったがなぁ。実はあの時工藤は少しばかりヘマをした。まぁ、やつの裏切り行為がバレそうになって、他の組に潰してもらおうとしたのにしくじったんだな。そこへ、お前さんの友達を轢き殺すという事故まで起こしちまった。
 目撃者もいて現行犯逮捕となれば、後ろについていたヤクザさんたちにも手が出せない。
しかし・・・な。」

辰巳の次の言葉を待ちながら、壮太の脳裏には、あの裁判所で見た工藤の不敵な笑い顔が蘇っていた。

「裏で手を回せば、実刑判決を受けることも無かったかもしれん。警察や検察にはヤクザさんの息がかかった腐った連中はけっこうな数、いるもんだ。
 だが、あの時工藤は、甘んじて懲役を受け入れた。何故だと思う?」
 
「それは・・・。刑務所の中のほうが、安全だったから・・・ですか?」

辰巳はスーツの胸ポケットからタバコを取り出して火を点けた。
眉間に深いシワを寄せながら吸い込むと、蒸気機関車のように煙を吐き出した。

「その通りだ。
 自分の仕掛けた戦争が終結して、ほとぼりが冷めるまでの隠れ家を得た、というだけの事だったんだよ。しかも、警察にまで自分の情報を流してやったもんだから、ムショではVIP待遇だ。」
 
 
「くそっ・・・!」

壮太は思わず、テーブルの上に拳を叩きつけた。
ステンレスの灰皿や猪口が跳ね上がったが、満員の客の喧騒にかき消されて特に周りには気付かれなかったようだ。

辰巳も、片方の眉毛を少し釣り上げただけで、顔色を変えなかった。

「まぁ落ち着けや。
 これでわかったか?お前さんの手に負える相手じゃないってことが。
 下手に工藤に手を出してみろ。お前さんはいくつもの暴力団から狙われることになる。 わかったら、金輪際工藤をつけ回すような事はやめろ。」
 
「辰巳さん・・・あんたも、その『いくつかの暴力団』の中の一人なんですか?」

まだ拳を握りしめたまま、低い声で壮太は訊いた。

「いや・・・。だが、工藤ももうここまでだ。あいつは必ず制裁を受ける。
 何もお前さんのような前科もない若者が手を染めることは無いんだ。」
 
辰巳は微妙に、壮太の問いをはぐらかした。

「必ず・・・? 制裁・・・?」

「ある組織があいつを狙っている、とだけ言っておこう。
 あいつは生きていることに価値がない、それどころか諸悪の根源にしかならん、という結論が下されている。
 ハッキリ言っておくがな、お前さんはその制裁の邪魔をしていたんだ。
 お前さんが工藤に貼りついているから、組織は工藤に近付けなかった。さっさと手を引いてくれ。」
 
壮太は上目遣いに辰巳を睨みながら言った。

「その『ある組織』っていうのが、辰巳さんの正体なんですか? 暴力団でも警察でもなく?」

辰巳はそれには答えず、テーブルの方へ身を乗り出すようにして正面きって壮太の目を睨み返した。

「それよりも、よく聞け。お前さんにはやってもらわなきゃいけない事がある。
 ・・・小夜子を守れ。」
 
「小夜子を・・・?」

壮太の心臓が、ちくりと痛んだ。
逃げるように「てつ」の店内へ戻っていった後ろ姿が思い出される。

「工藤はもう、小夜子が、自分の轢き殺した男の恋人だったということに気付いているぞ。」

「なんだって?」

「あの小夜子って子は、大人しそうに見えるがなかなか鼻っ柱が強いな。お前さんも手を出せないわけだ。」

辰巳は愉快そうにニヤニヤしている。
猛烈に腹が立ってきて、壮太は再び辰巳を睨みつけた。

だが次の瞬間には、辰巳は厳しい表情をした。

「小夜子は、『てつ』に飲みに来ていた工藤に、自分が誰なのかわかっているのかと詰め寄ったんだ。工藤は最初、訳がわからないようだった。どこかで手を出した女の一人だったかなとでも思ったんだろう。しかし、その割にはカタギの女のようだし、見当がつかなかった。
 だが小夜子は余計な事を口走っちまったんだ。『3年前にあんなことにならなければ』とな。」
 
胃袋をつかまれたような衝撃があった。何かを思いつめた小夜子なら、そのくらいの事はしかねない。
先日の小夜子の様子がおかしかったのは、そんな事があったせいなのか・・・。

「自分を恨む可能性がある人間に関しては、臆病なくらいに情報を集めておく工藤のことだ。亡くなった梶田くんの身辺についてくらいは出所するときに調べておいたんだろう。まぁ、赤ん坊がいた事まではわからなかったはずだがな。
 それで工藤はピンと来たらしい。
 俺の部下が張り付いている時だったので、その会話が聞けたんだ。」
 
「部下がいるんですか・・・」

「『組織』だと言っただろう。とにかくお前さん一人で工藤に近付くのは危険なんだ。
 組織の力が無かったら、こんな所でこんな話もできん。個人的な恨みだけでできるようなことじゃないという事を腹に据えておけ。わかったな。」
 
 
なお一層ドスの効いた声で壮太に念押しをすると、辰巳は突然立ち上がった。
ポケットの札入れから千円札を二枚、テーブルの上へ置くと、「ごちそうさん」と賄いのおばちゃんに声をかけて店から出て行く。

壮太は呆然として辰巳の後ろ姿を見送った。

辰巳が出て行ったのを合図にしたかのように、少し遅れて壮太の周りの席にいた客達が勘定をしに立ち上がった。

それぞれ、少人数のグループや一人で立ち飲みをしている作業着姿や普段着の男達だったが、わりと年齢が若いということ以外、なんの不審も壮太は覚えていなかった。

だが、彼らはみな一様に、店を出ていく時に壮太にちらりと視線を送った。

「これがその『組織』ってやつなのか・・・?」

身動きもできないまま、壮太は自分が覗いてしまった深く暗い穴の縁で、ただ無力感だけを感じていた。
 
 



    つづく
    




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既に書けているからってどんどんupしていくと、あっという間に後が続かなくなる・・・(^^;

頑張って続きを書きますm(_ _)m


「キャラ投票」、記事の下にも貼り付けました。↓

やたらと1ページが長くなって、少々邪魔でしょうか・・・?ご意見ください(笑)

どうぞ、「一話一票」お願いいたします~~~(^^)
(もちろん、「一日一票」も大歓迎です・笑)
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Date:2011/11/05
Trackback:0
Comment:10
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

私も胃袋つかまれた。うぷ・・・
そういうことなんですかぁ。

いやぁ~、壮太、ここは引っ込んどきな。
で、小夜子を守ることに専念した方が良い。

げど、このことを知った壮太の行動がどう変わるのか、
変わらないのか・・・楽しみです。。。
2011/11/05 【けい】 URL #- 

* 辰巳♪

辰巳、なかなかいい男だなあ~ww
壮太になら、ここまで喋っても大丈夫と踏んだんでしょう。
そう、壮太に早く釘を刺しとかなきゃ、間に合わないような気がしてきました。
なんか、焦る。
小夜子が、なんだか危ない気が・・・。

工藤、思った以上に汚い奴ですね。
実際に、本業のヤクザより、こういった奴の方が手に負えなかったりするんですよね。
暴力団は、堅気の健全な個人には、なるべく関わらないように生きてるようですから。
工藤はそんなことお構い無いみたい。
ターゲットとして不足はないです。
いけ~~~、辰巳。
辰巳のカッコいいとこ、見たい!(見れない?)
2011/11/05 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* けいさんへ♪

壮太と一緒に胃が痛くなってくださったら本望です(オニ)(^^;

どうでしょうね、壮太。
もうこうなると引っ込むしかないだろう、というところまでに辰巳がしてくれたはずですから、無茶はしないと思います・・・。
2011/11/05 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* limeさんへ♪

辰巳、かっこいいですか?良かったぁ~~(笑)。
元々はかなりハードボイルドでかっこいいおっさんだったはずですものねぇ、辰巳は。
いやぁホント、すみません、私のせいで(^^;

ここまで壮太にしゃべってしまっていいのか、悩みました。
工藤の事はともかく「組織」を出してしまっていいものかどうか・・・。
でもそう、limeさんの仰るとおり、早いとこ壮太に釘をささなきゃならない状況だったんですよね。しかもかなり強力な釘を・・・(笑)。

工藤をOEAのターゲットにするためには、どういう役どころがいいかも悩みの種でしたね~。
あの『クリスマス企画』の時に思ったんですよ。ヤクザさんっていうのは、OEAのターゲットになりにくいんじゃないかなって。
もっと、OEAが狙うのは、一般人の顔をしていてなおかつ陰湿な闇世界の人間なんじゃないかなって。
それで、こうなりました。
もっとリアリティのある事が書きたかったけど、なんせよくわからん世界の事なので、「ターゲットとして不足はない」というお言葉に安心しました~。

さぁ、辰巳のカッコイイところ、見られるかな?
微妙だなぁ(笑)
2011/11/05 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

うーむ。堅実ですね。とてもとても、堅実。
なにが堅実なのかというと、秋沙さんの描写が。

ゆるぎない的確さでびしっと示して、文章が引き締まってみえます。で、その引き締まり具合がこの物語や辰巳というキャラと非常にしっくり合っている。うまい言葉がみつからないんですが…ハードボイルドともちょっと違うし。それにしても…辰巳さん、「苦い顔」しつつもやはり美味そうに酒を飲みますな(笑)

キャラ投票、しましたよ~。もちろんあの人に。。。
2011/11/05 【西幻響子】 URL #U8GV5vt2 [編集] 

* 西幻さんへ♪

わ~い西幻さん。お加減良くなったようで安心しましたよ~。
でも、まだまだ風邪も流行っているようですし、また涼しくなりますもんね、くれぐれも気をつけてくださいませ(^^)

堅実・・・というより、もうこの章の描写は、ト書きみたいになっちゃってますね。ほとんど脚本のように会話ばかりで(^^;
男二人の重い内容の会話ですから、ダラダラしないように・・・という事には気を遣ったつもりなので、そう言っていただけると嬉しいです(^^)

キャラ投票、とうとう真似っ子させてもらっちゃいました(^^)
また投票してくださいね~。
2011/11/05 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

ここまで追いつきましたよ!
いやあ、とても面白くなってきました。

工藤はただのチンピラじゃなかったわけですね。
それ以上にズルくてムカつく奴でした。

しかし今回は私の知り合いの寿司屋(おい!)が出る必要もなさそうですね。
あの組織が制裁を加えてくれるわけですし。

最後まで楽しみにしております。
2011/11/06 【ヒロハル】 URL #- 

* ヒロハルさんへ♪

なはは、追いつかれた(^^;

やっと動きが出てきました~(ToT)長かった。
読んでくださる方もしんどかったと思います。よくぞここまでついてきて下さいました。

工藤という男にはあまり表情もセリフも与えていなかったので、皆様に納得していただける「ターゲット」になり得るかどうかちょっと不安でした。

じゃぁ、万が一、あの組織が失敗でもしたら、やっぱり寿司屋さんにお願いしますね(^^)

2011/11/07 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

今の壮太を知っているから不思議には感じないけど、辰巳は目をつけていた事なんだよね。
例え釘を刺すにしても事情を話しすぎのきらいがある。
なんかやっぱ違うものを感じたんだろうな。
小夜子を守れか。
守るに易い女じゃないな。
壮太も大変だな。

気にしないでな。
私もぼーっとのんびりと続けられればと思っているんだ。
2011/12/13 【ぴゆう】 URL #- 

* ぴゆうさんへ♪

おぉぉ!?
ぴゆうさん・・・鋭い・・・。

実は・・・今upされている最新話あたりで、この時のことを辰已が語っているんですよ。
そこまでもうお読みになったのかと思っちまいました・・・。
今の壮太には、小夜子を守るということは一番大変なことかも知れないですねぇ(^^;


ありがとうございます。
お互い、のんびりと続けていきたいですね(^^)
(とは言え、ぴゆうさんの所は読者様の数もハンパないし、すごいなぁと尊敬申し上げております・・・。私のところへの訪問など、どうぞおヒマな時に思い出したら程度になさってくださいね~)
2011/12/13 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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