もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 15

 身体が布団にめり込んでいるのではないかと思うほど重かった。
引き剥がすようにして起き上がり、台所で冷たい水で顔を洗う。
やっと覚醒が訪れて、あとはただ習慣的に身支度をして仕事に向かう。

昨夜のことは全て、夢だったのではないか。
そうだ、きっと夢だったのだ。
その証拠に、夕べからの出来事はみんな、霧の中みたいに霞んでいたような気がするじゃないか。

しかし、部屋の文机の上に無造作に置かれた飛び出しナイフが、現実を突きつけているのだった。

外は相変わらずぐずぐずとハッキリしない天気で、壮太は傘も持たずに出かけた。
何もかもが、煙ったようにぼんやりとしている。

辰巳という男から聞かされた工藤の正体、そして工藤を狙っているという辰巳の「ある組織」。にわかには信じ難い話ばかりだ。
何度も何度も辰巳と交わした会話を思い出しながら作業が上の空になり、「お前は小夜子を守れ」という辰巳の声が聞こえたような気がしてハッと我に返る。

そんな事を繰り返すうちに、終業時刻になっていた。

「お疲れさん。」
後ろから肩をぽん、と叩かれて、壮太は飛び上がりそうになるほど驚いた。
ちょうど、昨夜いきなり辰巳に腕を掴まれた時のことを考えていたのだった。

「あ、あぁ、おやっさん・・・。お疲れ様です。」
精一杯の作り笑いを浮かべて答えたが、佐藤は怪訝そうな表情で壮太の目を覗き込む。
胸の内まで見透かされそうな気がして、壮太は思わず目を逸した。

「元気が無いな。疲れてるんじゃないのか?」
「そ、そうっすかね。夕べ、蒸し暑くてあまり眠れなかったもんで・・・。」
「そうか? じゃぁ今日は帰って早く休めよ。」
「そうします・・・。じゃぁ。」

佐藤と飲みに行って、少しでも話をすれば気持ちが楽になるんじゃないか・・・と内心ではぐらついていた。
しかし、あの立ち飲み屋でまた工藤と出会ってしまったら・・・。
それに、もしもあちらへ行っている間に、工藤が「てつ」でまた小夜子と顔を合わせたら・・・。

そうだ、小夜子だ。
辰巳の話では、小夜子は工藤に、梶田の恋人であった事を気付かれるような事を話してしまったというではないか。
工藤がどう出るか・・・。

「てつ」へ行かなければ。
少なくとも、小夜子の側についていなければ。

やっと自分の行くべき所を思い出したような気分で、壮太はまず部屋へ戻った。

作業着から普段着に着替え、しばらくの間、文机の上のナイフをみつめる。
悩んだ挙句、それをまた尻ポケットに滑りこませると、部屋を出た。

足取りは重く、すぐに「てつ」へ向かう気にはなれなかった。

古本屋の店先に積まれた本を読むでもなく手に取ってみたりしてブラブラと歩いてから、近くの定食屋で、店の中のテレビをぼんやりと眺めながら、ビールで飯を流し込む。

気付くと、かなりの時間を潰してしまっていた。

「てつ」の前の通りへ来てみると、早番と遅番の鉄工員がちょうど入れ替わる時間帯で、出てくる客もあるが、どやどやと入っていく者たちもいる。
壮太もそこへ紛れて暖簾をくぐった。

「あぁいらっしゃい。」
おかみさんも小夜子も、忙しそうに動き回っている。
一見するといつも通りの小夜子だったが、壮太のところへは来ようとしない。
おかみさんも忙しく、そんな小夜子と壮太の微妙な空気を感じ取っている場合ではないようだ。

壮太は、週刊誌を眺めながら、ちびちびと酒を飲んだ。

しばらくすると、客の入れ替わりは落ち着いてきて、あとは常連客達がゆっくりと飲んでいる。
空いたテーブルを拭いていた小夜子が、
「あ。」
と、小さく声を上げて手を止めた。

「いけない。ハルちゃんがお手洗いに起きる時間、過ぎてるわ。」

言われてみて耳を澄ますと、階段の方からかすかに子供の泣き声が聞こえた。
さすがに母親だ。
どんな騒音の中でも、自分の子供の泣き声は聞き分けられるのだろう。

「起きちまったかい? いいよ、行っておいで。」
おかみさんに言われて小夜子は、
「すみません。」
と、小さく頭を下げると、そそくさと二階ヘ上がっていってしまった。

おかみさんは、おしゃべりな常連客の話し相手をしている。

小夜子はなかなか戻って来ない。
手持ち無沙汰でだいぶ、酒が進んでしまった。
仕方ないので、壮太はおかみさんに会計をしてもらった。

「ちょっと小夜子と話をしてきていいですか? ハル坊がぐずってるようだったら、またこの前みたいに散歩してきますよ。」

「あぁどうぞ。」
おかみさんは客の相手に忙しく、軽く承諾してくれた。

階段を上がり襖の前に立つと、壮太はノックをせずに
「小夜子、入るぞ。」
と声をかけた。

小さな声で小夜子が「どうぞ」と答える。

豆電球の薄暗いオレンジ色の灯りの中で、タオルを布団代わりにかけたハルキの身体を、軽くぽんぽんとゆっくりとしたリズムをつけて叩いている小夜子の姿があった。

「眠ったのか?」

「えぇ、今さっきやっと。」
小夜子は、壮太の方は見ずに答えた。

壮太は母子から少し離れて座卓の横に座り、しばらくハルキの寝顔を眺めた。
階下から、客たちの話し声が漏れ聞こえてくる。

いつの間にか、小夜子はハルキの身体でリズムを取るのをやめていた。規則的な寝息をたてるハルキは、もうずいぶん熟睡したらしい。

それを確認したかのように、小夜子が立ち上がりなら言った。
「お店に戻らないと。」

「いや、ちょっと待ってくれよ。」
壮太は慌てて声をかけた。

「なぁに?」
小夜子は座ろうともせず、壮太を見下ろして答える。

「いや・・・その・・・とにかく、ちょっと座ってくれ。」

小夜子は、仕方なくという感じで、もう一度その場に座り居住まいを正した。
工藤の話を出されることは覚悟している、というふうだった。

それならば・・・と壮太も覚悟を決める。

「なぁ、小夜子。お前・・・もう工藤の事を考えるのはやめないか。」

小夜子は唇をかみしめて、目を壮太から逸らしている。
俺は最近、小夜子のこんな顔しか見ていないな・・・と、ふと壮太は気が滅入る。

「最近ハル坊がよくぐずるのも、小夜子のそういう不安を感じてるからなんじゃないのか? 子供は母親の気持ちを察すると言うじゃないか・・・。」

言い終わらないうち、小夜子が顔を上げて壮太を睨んだ。
「いや・・・もちろん、お前はいい母親だと思ってるよ。だからこそ・・・。」

いきなり一番言ってはいけない事を言ってしまった、と壮太は自分に腹が立った。
小夜子はまた、怒ったような顔でうつむいている。
しばらく、気まずい沈黙が流れた。

沈黙を破ったのは、小夜子の方だった。

「私だってね、あんな男のことばかり考えるのはイヤなのよ。だけど・・・やっぱり許せないの。人を一人殺してしまったっていうのに、ヘラヘラして、お酒飲んで、しかも懲りずに飲酒運転。梶田くんはなんのために死んでしまったの? どうしてあの男だけが元通りに暮らしていけるの?」

「それは、わかる。わかるが・・・だけど小夜子。だからってお前がどうする事もできないじゃないか。あいつにはもう関わるなよ。」

「関わるなよって言ったって、また平気な顔してお店に来るかも知れないじゃない。」

「来ない。あいつはもう来ない。だから忘れろよ、小夜子。」

「なんで壮ちゃんがそんな事を言い切れるの? わからないじゃない。あの男は人殺しをしたっていうのにまた飲酒運転をするような男なのよ?」

「それは・・・。」

壮太は無意識に、尻ポケットをさすっていた。
俺は失敗したが、あの男にはいつか制裁が下るからだ、なんて事は言えそうにない。

「私はね、壮ちゃん・・・。」
小夜子は自分を落ち着けるように、深呼吸を一つした。

「ただ、あの男に自分のやったことをわかってほしいだけなの。
 ちゃんと本心から、自分が犯してしまった罪を認めて謝罪して、改めてくれたら、べつに店に来たって、楽しそうに飲んでいたってかまわない。
 それだけなのよ。」

そんな事、あいつが考えっこない。だってあいつは、冷酷非道な男なんだ・・・。
壮太は喉元まで出かかっている言葉を必死に飲み込んだ。
しかし、代わりに出てきてしまった言葉は、酒のせいか自分でも何を言っているのかわからなかった。

「謝罪だろうがなんだろうが、とにかくあいつがお前に近付くのは許さない。
 なぁ小夜子、忘れろよ。もう全部忘れて、ハル坊と一緒に穏やかに暮らせればいいじゃないか。もう・・・梶田が死んだことだって取り返しはつかないんだ。忘れろよ。」
 
語気が荒くなってくる。それでも止められなかった。

「お前はじゅうぶんに苦しんだじゃないか。俺だって苦しんだ。もういいじゃないか。
 俺は・・・俺は! もうそんなお前を見ているのは辛いんだ! お前にはもうハル坊がいるじゃないか! 俺だって・・・。」
 
言いかけて、ふと小夜子の表情を見て壮太はハッとした。
小夜子はまるで、怯えたように目を見開いて、壮太をみつめていた。

俺は・・・。今、何を言おうとした・・?




      つづく
      
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Date:2011/11/10
Trackback:0
Comment:10
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

うーん。壮太のもどかしい思いが伝わってきます…。
小夜子のために何かしてやりたい、守ってやりたいと思っているのに、辰巳さんの出現で拍子抜けみたいなことになっちゃって、少し焦ってしまったかな?

小夜子の気持ちもわかるんだけど…やっぱり壮太がちょっと気の毒。
2011/11/10 【西幻響子】 URL #U8GV5vt2 [編集] 

* No Title

次回の修羅場が怖い(^^;)

「あなたわたしをそんないやらしいめでみていたのねっ」

みたいな展開だったら……壮太くんやさぐれちまうぞ(^^;)
2011/11/10 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* No Title

もう何と言うか、そこまで出掛かっているのに、本当のことを言えない歯痒さ・・・・・・。
辰巳ちゃん、早く動いてあげて!
2011/11/10 【ヒロハル】 URL #- 

* No Title

うぅ・・・
しか言えない・・・

この二人の会話を透明人間になって脇から見ているのは大変です。

誰がこの展開をまとめるんですか。
秋紗さん、頼みますよぉ~
とにかくハル坊だけは幸せに・・・を希望。
2011/11/10 【けい】 URL #- 

* 西幻さんへ♪

ちょっと小夜子の意固地さは、行き過ぎな感じがしますよね・・・。正義感が強い性格なのでしょうが、壮太が気の毒になりますよね(^^;

壮太、辰巳に言われたことを信じきっていいのかどうかもわからないし、「自分は失敗した」という思いもあるしで、かなり複雑だと思います。
私の脳内の壮太は、どこまでも鈍感と言いますか、素直じゃないもので、ここまで言わせるのにも非常に苦労してしまいました(^^;
2011/11/10 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* ポールさんへ♪

ははは(^^;
「いやらしい男ねっ!」とか言われちゃったりして。

結構、そんな展開だったりするかも(ぇ)
2011/11/10 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

工藤が、目の前に現れちゃったのが、いけなかったんですよね。
そうじゃなきゃ、小夜子も悲しみを恨みに変えずにすんだのに。
壮太の想いも強いけど、まだまだ、役には立ってないかんじですね。

んもう~~、辰巳!
さっさと仕事しなさい。出遅れたら、お仕置きよ!

・・で、壮太は「いやらしい男ね!」って・・・言われちゃうのねww
(ちょっとそのシーン見てみたい)
2011/11/10 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* ヒロハルさんへ♪

もうなんだか、壮太にも「何が言ってもいいことで、何が言っちゃいけないことなのか」がわからなくなってるっぽいですね(^^;
(っぽいですね、って作者はお前だろうが・・・<私)

おぉっと!辰巳を「辰巳ちゃん」と呼んだのは、ヒロハルさんが初です!(笑)

2011/11/12 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* けいさんへ♪

ホント、「誰か通訳か仲裁、してやれよ!」って感じですよねぇ・・・。

さぁ、誰がこの展開をまとめるんでしょ(^^;
2011/11/12 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* limeさんへ♪

「いやらしい男ねっ!」も見たいけど、

limeさんが辰巳に、月に代ってお仕置き(古)するところのほうが見たい(^^)

そうですねぇ、やっぱり工藤が目の前に現れて、しかも変な誘いをかけてきちゃったりしたら・・・。
壮太がちゃんと想いを伝えてあげられればいいんですが・・・相変わらず鈍いやつですから、壮太(^^;
2011/11/12 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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