もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 17

 「てつ」の手前までたどり着いても、まだ壮太はぐずぐずしていた。
時折、ぽつりと雨が顔に当たる。

ワンブロックほど離れた所から曇りガラスに映る白い灯りを眺めているうち、まるでその店が、暗闇の向こうに浮かぶ異世界のように思えてきた。
届きそうで手の届かない、幻想の世界。

ガヤガヤと数人の客が引き戸を開けて出てきたので、壮太は現実に引き戻された。
おかみさんが店先まで出てきて見送っている。
話の内容まではわからないが、おかみさんのよく通る声が響いてきた。

早口で客に礼を言って、忙しそうに店内に引き返す。
やはり、また小夜子は二階に上がっているのだろうか。

そう考えれば、壮太の足はやっと前に進んだ。

遠慮がちに引き戸に手をかけ、そろそろと開けてみて顔をのぞかせる。
やはり休みの前夜だけあって満席に近い状態で、おかみさんが先程帰った客のテーブルを片付けているが、そこにはもう、別の席に無理やり詰め込まれていたほかの客が「やっとスペースが広くなった」とばかりに自分の酒や皿を置こうとしていた。

案の定、小夜子の姿は見えず、壮太はおずおずと店の中に足を踏み入れた。

それに気付いたおかみさんが、
「あら! 壮太さん!」
と声を上げる。

そのただならぬ様子に、何故か壮太の身体がびくりと反応した。

「壮太さん、小夜子さんと一緒じゃないの?」
「え・・・? 小夜子、いないんですか?」

おかみさんが慌てた表情になった。
仕事の手を止めて、ずんずんと壮太に近づいてくると、
「ちょっとちょっと」
と言いながら、壮太を店の外に押し出した。

「えっ、ちょっと、どうしたんですかおかみさん。」

おかみさんも店先に出て、後ろ手に引き戸をピシャリと閉めながら言った。
「どういうことか聞きたいのはこっちだよ。あたしゃてっきり、どっかで小夜子さんは壮太さんと待ち合わせてるのかと思ったんだよ。」

「いや、そんなことないです。すみませんが、説明してください。」

おかみさんは、明らかに困惑しているらしい顔をした。
何かを思い出すように、頬に手を当てる。

「1~2時間前だったかしらねぇ、お店に電話がかかってきて小夜子さんが出たのよ。
 もうお客さんがだいぶ入ってたんだけど、小夜子さん、なんだか深刻な顔して話していてね。
 そうしたら、その電話を切った途端に『ちょっと出かけてきていいですか』って言うのよ。」
 
どういうことだ? なんだその電話は。
壮太は一気に酔いが醒めて身体が震えそうになった。

「それでね、『ちょっとって、今日は結構忙しいし、どこへ行くのよ』って訊いたんだけど、小夜子さん、慌てて二階に上がっていって身支度を始めちゃって、『本当にすみません。すぐ戻ります』って、半分眠りかかってたハルちゃんを抱っこして降りてきて。
 よほど急用なんだなって思ったから、『仕方ないけどどういう事か説明だけしてちょうだい』って言ったらさ。
 『帰ったら説明します。それから、もし壮ちゃんが来たら「あの人が謝罪をすると言ってきた」と伝えてください』って。」

血の気が引く音が聞こえた気がした。

謝罪・・・?
工藤か!? 
いや、工藤に間違いない。
何のつもりだ? 謝罪だなんて・・・。

壮太の中の危険信号が、激しく点滅を始める。

「すいません、すぐに探してきます。」

踵を返そうとした壮太の腕を、おかみさんが掴んだ。
「ちょっと待っとくれよ! 壮太さんまで説明無しかい?

壮太は言葉に詰まった。

その手を離さずに、おかみさんが続ける。

「いったい、どうしたっていうんだい? このところ、なんだか小夜子さんイライラしてたり元気がなかったり・・・。壮太さんも店にあんまり来なかったり。
 だけど今日は割りと小夜子さん、落ち着いていたんだよ。あの電話が来るまではね。
 壮太さんがまた店に顔をだしてくれるようになったからかな、とあたしは思ってたんだけど?」
 
「・・・・。」

「小夜子さんねぇ、出掛けにこんな事も言ってたわよ?
 『これで、ちゃんとスッキリすれば前に進めるんです、私も。』って・・・。」
 
「小夜子が・・・? そんな事を・・・?」

何か熱いものが込み上げてくるのを、壮太はぐっとこらえた。
すがるように壮太の腕にしがみつくおかみさんの腕を、反対に壮太はぐっと掴んで、正面からおかみさんを見た。

「すいません。帰ってきたらちゃんと説明します。とにかく、今は小夜子を連れ戻しに行かないと・・・。」

壮太の気迫に押されたのか、おかみさんは手を引っ込めた。

「よくわからないけど、そういう事なら・・・。頼んだよ。」

「はい。」

おかみさんに頭を下げると、壮太はすぐに駅へ向かって走った。

まだ列車に間に合うはずだ。

走るとあっという間に汗が噴き出してくる。
ちょうど列車がホームに滑りこんできたので、飛び乗った。

壮太は、客の少なくなった列車の座席で呼吸を整えつつ、どうにかして気持ちを落ち着かせようとして、時折暗い車窓にぽつぽつと斜めに打ちつける雨粒を数えた。

こんなことになるのなら、初めからおかみさんには事情を話しておくべきだった。
しかし、そんな事を今更考えても後の祭りだ。

そうだ、工藤が謝罪して、小夜子の気持ちが収まるのなら、そして『前に進める』と言うのなら・・・。

一瞬、小夜子とハルキと三人、笑顔で「てつ」に戻り、全てをおかみさんとおやじさんに話して今夜の事を許してもらう絵を頭に思い描いた。

だが、辰已から告げられた工藤の「正体」が、その儚い妄想をかき消してしまうのだった。



永遠とも感じられた30分ほどの時間をかけて、やっと列車は1年半前まで壮太が暮らしていた街へ到着した。あれ以来、帰ってくるのは初めてだ。

降りる人もまばらで、かろうじて駅前の商店が何件か灯りを点けている以外はすっかり寝静まっているその街は、懐かしい場所のはずなのに、既にどこかよそよそしく感じる。

壮太は感慨に耽る暇もなく、まずは梶田が死んだ事故現場へ急いだ。
しかし、街灯もまばらなその交差点は、しんと静まり返っているばかりだった。

よく梶田と語り合ったあの公園、梶田の家の前、小夜子の実家、「お狐様」の赤い鳥居・・・。
汗だくになりながら壮太は走りまわったが、小夜子の姿も、シルバーのセダンも、どこにも見えなかった。

棒のようになった足を引き摺りながら駅まで戻ってみると、もう最終電車が出てしまっている。
仕方なく、通りかかったタクシーを拾った。

「そうだ、あちらは車だろうから、すれ違ったかも知れない。もう、小夜子は戻っているんじゃないのか・・・?」
必死に楽観的に考えて自分を奮い立たせるようにして、「てつ」の前でタクシーを降りる。

「てつ」は暖簾は片付けられているが、店内の灯りはついていた。
引き戸を開けると、洗い物をしていたらしいおかみさんが厨房から飛び出してきた。

「壮太さん・・・! 小夜子さんは?」

主人も心配そうに目を見開いて、おかみさんの後ろから顔をのぞかせている。

「まだ・・・帰ってないですか・・・。」
壮太は思わず、その場に崩れ落ちそうになった。

「帰ってこないよ。連絡もないし。」
おかみさんの声が、不安と苛立ちで甲高くなっている。

壮太はもう一度ぐっと足に力を込めた。
「俺の家に来ているかも知れないから見てきます。
 それで・・・小夜子に会ったらちょっと話もしなきゃならないし、すいませんが、今日はもう、先にやすんでいてください。」
 
「そんな事言ったって、ちょっと! 壮太さん!」

おかみさんがまだ何か叫んでいたが、壮太は通りへ飛び出した。

いつの間にか、ぽつぽつと落ちていた雨粒は、霧のような小雨に変わっている。

アパートまで辿り着こうと言う時、自分の部屋のドアと隣家との狭い隙間に、人の気配があった。

「小夜子・・・! こっちへ来ていたのか・・・。」

安堵感で全身の力が抜けそうになる。

しかし、近付くに連れ、その人影は女にしては大きく、闇に紛れそうな黒尽くめの服装なのが見えてきた。

不安と恐怖で心臓が口から飛び出すのではないかと思いながら、そっと足音を忍ばせて近づいていく。

こちらの気配に気付いたのか、その黒い人影が振り向いた。

壮太の姿を認めて、眉を吊り上げて睨みつけてきたのは、あの、辰已だった。





      つづく
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 いよいよ、(と言うか、やっと)物語は佳境に入ります・・・。

次話から、また「現在の坂木」と「壮太」のお話、行ったり来たりが始まります。
おそらく、一瞬「???」となるのではないかと・・・(^^;

皆さん、頑張ってついてきて~~~~(ToT)
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Date:2011/11/18
Trackback:0
Comment:11
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

うわ~、これはやばいですねぇ。
これは、やばい。
小夜子~~っ。
た、辰巳さんが…「眉を吊り上げて」って…。
それはもしかして「悪い知らせ」?
あ~、恐い!!その知らせ、知りたくない (T_T)
だって小夜子はハル坊も連れてるわけだし…

(…と、ここで一旦落ち着いて…)
今まで工藤への「怒り、憎しみ」が、小夜子をがんじがらめにしていたんですかねぇ?
そうだとしたら、凄く悲しいこと。
工藤が「謝罪する」と言ってきたらそれにすがるように出ていってしまっても無理ないかもしれないけど…
あぁ、次回、読みたいような、読むのが恐いような…
(このおかみさん、とてもリアリティありますね)
2011/11/18 【西幻響子】 URL #U8GV5vt2 [編集] 

* No Title

謝罪なんて、奴にあるわけないじゃないですか~!

壮太、小夜子を守るんだ。でないと、辰巳に何で小夜子を守らない、と、怒られるぞ・・・

小夜子とハル坊は今どこにぃ・・・
2011/11/18 【けい】 URL #- 

* No Title

(壮太にとって)最悪の展開しか思い浮かばないんですけど……(汗)
2011/11/18 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* 西幻さんへ♪

やばい事になってきました。

さて、辰已はなんの用事でやってきたのか・・・
知りたくない場合は次話は読まないでください(^^;

小夜子をがんじがらめにしていたのは、やっぱり「工藤が反省していない」という事への怒りなんでしょうね。
憎しみよりも怒りが強いのかなぁ。

これ、作者が解説しちゃうのかっこ悪いんですけど(^^;
小夜子はそういう気持ちを抱いたままで、壮太の気持ちを受け入れて梶田の死を乗り越えてしまうのはいけないことなんじゃないか、と持ち前の正義感で思ってしまってるんだと思うんです。
(あぁぁ、こういう内面をうまくお話の中で表現できなかったのは、まったく私の力不足であります)
だから、「謝罪する」と言われて、思わず飛び出して行ってしまったんでしょうね・・・。
なんというか、清らか過ぎますね。

おかみさん、リアリティありますか?(*^_^*)
まぁ、ありがちなキャラクターですので書きやすいです(笑)
2011/11/18 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* けいさんへ♪

お忙しいのにコメントに来てくださってありがとうございます♪

工藤がそういうやつだってこと、小夜子にも話しておいたほうがよかったかも、ですよねぇ。
さあ、壮太は小夜子を守れるんでしょうか。

でも、辰已が現れちゃいました。
2011/11/18 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* ポールさんへ♪

一話が長くなりすぎるので、ここで区切ってしまいましたが、決してもったいぶるつもりはなく・・・(^^;

はい、もう、わかりやすい展開ですみませんm(_ _)m
2011/11/18 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

ああ!更新見逃してた~~。

いや、もう、どきどき!こっちの心臓が飛び出しそうです。
嫌な予感しかしないけど、先が知りたくてたまらない~。
小夜子はハルキを連れて行ったんでしょう?
もう、なんか更に嫌な予感が(>_<)

小夜子の決心、わかりますよ。
ここから、気持ちを切り替えて壮太を受け入れようと思っていたに違いありません。
むおおおおお。
壮太・・・(>_<)

その場所に辰巳がいるって、どういうことなんでしょう。
辰巳~~。あんた、ちゃんと仕事してたの?

次回は現在の辰巳の回想にもどるんですね?
どんな話になるのか・・・。
はやく~!次の更新、待ってますからね!

2011/11/19 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* No Title

うわーっ! ここで切るかーっ!
先が気になって仕方ないじゃないですか。

辰巳はメッチャ怒ってるっぽいし。
小夜子の身に何が・・・・・・更新、早くしてね! 笑。

2011/11/19 【ヒロハル】 URL #- 

* limeさんへ♪

やっとどうにか、ここまで書くことができました。

リアリティを出すために細かい部分の設定を悩んだのはもちろんですが、やっぱり、心情的に辛かったのも正直な所ありまして・・・。
この先の2話ほどは、だいぶ前に既に書き上げていたところです。

小夜子、ちゃんと前向きに考えていてくれたはず・・・と私も思っています。
さて、辰已はちゃんと仕事してるんでしょうかね(^^;

はい、また坂木の(辰已のじゃないですよ)現在に戻ります。
陽は・・・もうちょっとお待ちください(^^)
2011/11/19 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* ヒロハルさんへ♪

もうね、べつにストーリー的にはなんのトリックもなく行き着くべき所に行き着くだけなので(^^;、どこで区切ろうと関係ないと言えば関係ないんですが。

ここまでダラダラと来た割には、次話からは現在と過去を行き来しつつも、あっけなくお話が進みますので・・・。
2011/11/19 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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2011/11/20 【】  # 

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