もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 18

◇     ◇     ◇     ◇

 
 ホテルを移ってから数日が過ぎた。陽が第二支部に向かってから1週間を超えている。
 
 午後になってから起きだした坂木は、一日中ホテルの部屋でちびちびと酒を飲んで過ごし、気付くと外は黄昏の時間になっていた。
梅雨の終わりの雨がジメジメと降っていて、暗くなるのが早い。
 
部屋を変えてみたところで、気分はさして変わらず、相変わらず昔のことばかりが思い出される。何故こんなにも、鮮やかによみがえるのか。

「第二支部の仕事なんかが来るからだ。」

明かりもつけずソファーに身を沈めて、投げやりにそんな事を呟いたとき、チャイムが鳴った。

一瞬、陽が帰ったのかとも思ったが、何の連絡も無しにいきなり帰ってくる事はまずない。
ノロノロと重い身体でドアスコープを覗きに行くと、よく見知った黒ずくめの男が立っている。
仕方なく、坂木はドアを少しだけ開けた。

「よお。」

問答無用でドアをぐいっと押し開け、辰巳がずかずかと部屋に入ってきた。
スーツの肩や腕が雨で濡れているのを、ハンカチで叩いている。

「何の用だ。」
ドアを閉めながら坂木がむっとして尋ねると、
「どうせ今夜は、うだうだと湿っぽい酒を飲んでいるだろうと思ってな。ほらよ。」

ニヤリと笑うと、辰巳は手にしていた紙袋からウイスキーの瓶を出して見せた。
言葉を返すのも面倒で、坂木はまたソファーにどっかりと腰をおろした。

「ほう、見事な夜景だな、この部屋は。」
群青色に暮れていく空と雨に滲む街明かりを眺めてから、辰巳は勝手に自分のグラスを用意すると、向いのソファーに座ってウイスキーの栓を開けにかかった。

「お前と昔話なんかする気分じゃないね。」
坂木の憎まれ口にも、辰巳はまるっきり動じない。
「まぁいいじゃないか。俺にだって今日は、お前さんと酒を呑むだけの理由はある。」

「・・・・。」

自分のグラスに注いだ酒を一口、ゴクリと飲んだ辰巳は、やっと落ち着いた、と言うようにソファーの背に身体をあずけた。

「今日でちょうど、16年、だな。世間でいうところの『十七回忌』ってやつか。」



◇     ◇     ◇     ◇




「なんであんたがここに・・・。」

壮太の問いかけが終わらないうちに、辰巳が切り返した。

「どこへ行っていた。」

壮太は返答に詰まった。
まさか、小夜子の顔を見辛くてべつの店で飲んでいたために、今しがた慌てて小夜子を探しに行っていたなどと言えるわけがない。

仁王立ちで壮太を睨んでいた辰巳は、
「来い。」
と一言だけ言うと、通りへと出て行く。
慌ててついて行くと、3軒ほど先の空き地に黒塗りの車が停めてあった。

「乗れ。」
運転席のドアを開けた辰巳が、助手席を顎で示す。
壮太が乗ったのを確認すると辰巳は乱暴にドアを閉め、すぐさまエンジンをかけると急発進で空き地から道路へ出た。

小雨の夜の街を、車は進んでいく。
時折ちらりと盗み見してみるが、辰巳の横顔は厳しく、眉間に深くシワを寄せて真一文字に口を結び、まっすぐに前だけを見て運転している。
とても話しかけたり質問できるような雰囲気では無いので、壮太は黙ってライトが照らし出す行く先をみつめていた。
壮太の不安を煽るように、雨が段々本降りになってきている。

車はバス通りを、工藤が住む町の方へ向かっているようだったが、いつしか横道に入り、周りを畑と雑木林に囲まれた細い道を走っていた。
街灯一つなく、ライトが照らし出す範囲だけに鬱蒼とした草木が浮かんでは消えていく。
すれ違う車も無い。

やがて、辰巳が車を停めたのは、何やら廃屋があるらしい小さな空き地だった。
道路からは生い茂る夏草に隠されてしまい、夜の闇では車が停まっているとは気付きにくいだろう。

辰巳が無言のままで車から降りたので、壮太も後に続いた。雨粒が頬に当たる。
崩れかけた建物は民家にしては小さいと思ったら、どうやら神社か何かの祠のようだった。
朱塗りがほとんど剥げ落ちた格子戸や、白い瀬戸物の酒器などが、点けっ放しの車のライトに照らし出されて雨に濡れている。

辰巳もまた、濡れるのを気にもしていない様子で、廃屋の横にある背の低い木が茂るあたりをじっとみつめていた。

「なんなんですか、ここは・・・。」

壮太が、やっと口を開いた時だった。
辰巳がゆっくりと壮太の方へ向き直った。
そして、低く押し殺した声で告げた。


「小夜子が死んだよ。」


「なっ・・・。」

その言葉の意味を理解するのに、数秒の時間がかかった。
雨の音さえも消えた気がする。

全身が凍りついたようになり、頭の中は全力でその言葉を否定しようとしていた。

「何を言ってるんだ・・・!! そんな事が・・・。」

辰巳は、先程みつめていた低木の下をもう一度見ている。
「そこに、絞殺されて倒れていたらしい。」

「いい加減にしろ! 誰がそんな冗談を信じると・・・!!」

思わず壮太は、辰巳に突進していき、襟首をつかんでいた。
しかし、辰巳は表情を変えず、重い口調で続けた。
「工藤は、小夜子を騙して車に載せ、この場所で乱暴しようとして抵抗されたんだろう。 絞め殺して、遺体をここに捨てて行った。
 ・・・おい、どこへ行く!」

反射的に壮太は、辰巳を突き飛ばすようにして車の運転席へと走っていた。
今度は血が逆流して沸騰しているかのようだ。

「工藤を殺す!」
「おい!待て!」

乗り込もうとしたところを、辰巳の太い腕でむんずと掴まれて引き出された。
辰巳が怒鳴る。

「工藤も死んだんだ!」

「な・・・ん・・・だと・・・?」

呆然と立ちすくんだ壮太は、辰巳に腕を引っ張られて助手席に押し込まれた。
辰巳も運転席に乗り込むと、フロントガラスの内側が白く曇った。
辰巳は、ルームエアコンのスイッチを入れると、低い声で経緯の説明を始めた。




 辰巳の属する組織では、工藤が出所する時からその存在を、これからも無用の犠牲者を出す可能性が高い「悪」とし、神に代わって裁く、すなわち抹殺することが決定していた。

そして、綿密に行動が監視され、その実行方法が着々と練られていた。
しかし、そこで思わぬ邪魔が入った。それが壮太だ。

「素人らしい男性が一人、工藤を監視していて仕事が実行できない。」

辰巳の部下が困惑しており、そこで辰巳が壮太の前に現れたのだった。
危険な賭けだったがそれが功を奏して、壮太は工藤に張り付くのをやめた。
組織は計画実行へと再び動き出した。
すでに予定よりも大幅に遅れており、策は練られている。早速、今夜がその実行日となった。

計画は順調に進んでいるかのように見えた。

工藤がいつものように女の車で出かけ、行きつけの居酒屋で酒を飲んでいる隙に、路上駐車された車のブレーキに細工がなされた。
酒を飲んだ工藤が警察の目を避けて、夜間は人や車の通らない林道を抜けて帰宅することがわかっていたので、その途中にあるカーブに差し掛かるとき、あらかじめ現場に仕掛けられた発信機からの電波を受けて、ブレーキが効かなくなる仕組みだ。

カーブを曲がりきれなくなって車はその先の斜面から転落、即座に発信機と受信機は回収され、後は警察が飲酒運転による事故として処理する、という筋書きだ。


そこからは工藤が車に乗り、帰路に着くのを待つばかりだったのだが、居酒屋を出る前に工藤は店の公衆電話からどこかへ電話をしていた。
しかし、かけた先と内容までは、監視していた辰巳の部下にはわからなかった。

辰巳はべつの場所で待機していて、部下からその報告を受けた。
その電話はおそらく気にするほどの事はないだろうが、一応計画が遂行されるまで監視を怠らないようにと指示を出した。

予想通り、酒を飲んで上機嫌で車に乗り込んだ工藤を、辰巳の部下たちは怪しまれない程度の距離を取って尾行し続けた。

部下が慌てたのはそれからしばらくしてからだった。

工藤がまっすぐに林道に向かわずに、途中で「てつ」の近くで子供を抱いた小夜子を車に乗せたのだ。
計画を中止するべきか。部下たちは焦った。
小夜子たち親子を乗せたままであのカーブに差し掛かれば、巻き込んでしまう。

現場となるカーブ近くに潜んでいた部下は、いつでも発信機を切れるように待機した。

一方、尾行を続けていた部下は、林道に母子を乗せたままの工藤の車が入ったのを確認したのだが、ほどなくして見失ってしまった。発信機のある場所にも、工藤の車は現れない。

部下たちは大いに焦ったが、ライトを付けて走りまわれば、もしも付近に工藤がいた場合、滅多に車の往来のない場所のことなのですぐに気付かれてしまう。

仕方なく、尾行舞台は車を降りて林道の脇の茂みに身を隠しながらターゲットを探し歩いた。
「まだ見つからないのか。こちらにも来る様子はないぞ。」
「道沿いに車のライトは見えない。どこに行きやがった・・・」

そんな無線でのやり取りを別の場所で聞きながら、辰巳もじりじりとしていた。

30分ほど経っただろうか、辰巳が「計画中止」を決断しかけた時だった。
尾行部隊からの無線が叫んだ。

「ただの茂みだと思っていたところから、急に工藤の車が出てきた! どうやら車内には工藤一人の模様! かなりのスピードでエックス地点に向かっていく!」

辰巳も即座に応じた。
「エックス地点! 工藤が一人なのを確認できたら実行しろ!」

「了解。」

それから間もなくだった。
「工藤の車のライトが見えた! 運転しているのは工藤。助手席、後部座席に人影無し! 実行する!」

工藤の車が出てきた茂みを尾行部隊が見に行き、倒れている小夜子を発見したのと、計画通りにエックス地点でシルバーのセダンがガードレールを突き破って崖へ飛び出したのは、ほぼ同時の事だった。




       つづく




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 ・・・もう、何も言いますまい。

次話をお待ちくださいませ。
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Date:2011/11/21
Trackback:0
Comment:13
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

陽が出てきてうれしい…と思ったら、まだ帰ってきてなかった!(笑)
シーンが「現実」に戻ると不思議と「夢からさめた」ような気分になりますね。

とちゅう、辰巳の「十七回忌ってやつか」というセリフを見て「あちゃー」。
そしてその数行あと、「ああ、やっぱり・・・」
悲しい結末。

しかし、工藤もしんでしまったのでは、壮太の怒りの向けどころがなくなってしまう!!
ああ~、きっとこのあと壮太は自分を責めるんだろうなあ・・・ (T_T)
壮太はこの辛さ・苦しさをどうやって乗り越えるんだろう?
2011/11/21 【西幻響子】 URL #U8GV5vt2 [編集] 

* 西幻さんへ♪

あは。すいません、陽はまだ帰ってないんです。
まったくどこをほっつき歩いてるんだか・・・(^^;
終盤で、たっぷりとその辺を語ってもらいますのでもうちょっとお待ちくださいね。

「十七回忌」という言葉を入れるかどうかはちょっと悩みました。
だけど、その後の悲しい展開を、いきなり書くことがどうしてもできなくて・・・。
なんとなく、ワンクッション置いてしまいました。
「皆さん、覚悟してください」という感じでしょうか。
臆病な作者です(^^;

壮太、やりきれないですよね。
どうなることやら・・・作者も不安です(^^;
2011/11/21 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* (>_<)

うううう・・・・・。
現代のシーンで、辰巳が「今日でちょうど、16年、だな。世間でいうところの『十七回忌』ってやつか。」・・・って言った時。ぞわぞわ~~っと鳥肌がたちました。

そのあと、16年前の、二人のシーンへつなげるあたり、さすが!って思っちゃいました。
こういう切り替えに、ぞっこんです!

ああ、でも、ついに。
壮太は一番聞きたくない事実を、辰巳に聞かされたんですね。
そりゃあ・・・信じたくないですよ。
つらいなあ~~。
辰巳もきっと、やりきれないですよね。
そして・・・一番気になるのは・・・・・あの子。あのこは???(;_;)

現代の坂木。
陽のいないこんな日はきっとずっと思い出しちゃうんだ~(>_<)つらいなあ。
早くかえっておいで、陽。
2011/11/21 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

ついに・・・ここまで来ちゃいました。
いやはや、ここを乗り越えるのは本当に辛かったです。
で、西幻さんへのコメントにも書いたとおり、ワンクッション置いてしまいました。

過去と現在の切り替えは、悩むところでもありますが、ちょっと楽しい(^^)
我ながら「この切替はいいぞ」とほくそ笑んでしまったりする事も・・・(自己満足)。

そう、あの子・・・あの子については・・・
次話をお待ちください。

陽が帰ってくるまで、もうちょっとおっさん二人のまったりとした時間を過ごさせてやってくださいね(^^)
2011/11/21 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

小夜子、なぜこんなことに・・・・・・。
恐らくそういうことなんだろうな(勝手な推理です。当たってるかな?)

私も陽登場~! なんて叫んでしまいましたが、名前だけでした。笑。

いやいや、現在と過去に切り替え方、本当に絶妙だった気がしますよ。
2011/11/22 【ヒロハル】 URL #- 

* ヒロハルさんへ♪

はい、おそらくそういうことです(^^;
いや、もう、なんというか作者が「チキン」ですので、これ以上いわゆる「殺人」について細かく説明することができませんでした。不親切ですみません。

あはは、ヒロハルさんがPCに向かって「陽登場~!」と叫んでいる所を想像してしまった(笑)。

うわぁ、現在と過去の切り替え、お褒めいただき光栄です(^^)
うん、たぶん、「くちなしの墓」前後編あわせて、ここの切り替えが一番だったかも(手前味噌)。
(あ。しかもまだこれから書く部分でも切り替えなくちゃいけないのに、すでに諦めている)
2011/11/22 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

どうも。PCの調子が悪くて、開いたらいきなり、
「工藤も死んだんだ!」のセリフから始まり、

ちがーう!! とあせって、ピューッと上に上がり、
始めの現在のところからじっくりと、もちろん、
切り替えの部分を、さっすが~、と感動しつつ、

辰巳が低い声で経緯の説明を始めた。

と読み進めていたら・・・ 飛んだっ! おい!
経緯っ経緯っ と、数十分、あたふたたた

あきらめて2時間ほど放置。で、
やっと今、読了。。。

それだけで今日は・・・
・・・もう、何も言いますまい、の心境です。。。

次話が待てません・・・
2011/11/22 【けい】 URL #- 

* けいさんへ♪

ありゃりゃりゃ。
そりゃぁなんだかもう、録画しておいたサッカーかなんかの試合の結果を、先に聞かされちゃった感じですね(^^;

そんな大変な中、読んでくださってもうなんと申し上げてよいやら・・・(ToT)
ありがとうございました、お疲れ様です(^^;

次話・・・
なんだかもったいぶってるような感じになるので、早めにupしちゃおうかな、とも思ったんですが、続きがまとまっていないので、やっぱりちょっとお待ちくださいね。
2011/11/22 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2011/11/23 【】  # 

* No Title

子供が生きていますように子供が生きていますように子供が生きていますように……。
2011/11/23 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* No Title

ポールさんのコメが逆にこわい・・・(°∇°*)
2011/11/23 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* ポールさんへ♪

( ̄□ ̄;)!!

そ、それは、脅迫・・・・?(^^;

さ、さぁ、どうなりますことやら。
もうこの続きは書き上がっていますので変更はききまへんm(_ _)m
2011/11/23 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* limeさんへ♪

コワイよー(ToT)どうすりゃいい?(^^;
2011/11/23 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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