もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 19

 壮太は、助手席でうずくまるように身体を丸めていた。
耳を塞ぎたかった。いや、音だけでなく、世界の全てを遮断してしまいたかった。

 やがて、辰巳は話を中断して車をゆっくりと走らせ始めた。
ライトを付けずに、慎重に闇の中を進んで行く。
ほとんど、歩くような速度だ。

しばらくすると静かにブレーキをかけて、辰巳が声をかけた。

「見ろ。」

頭を抱えるようにしていた壮太は、そろそろと顔を上げた。

ゆっくりと動くワイパーの向こうに、工事現場にあるような投光器と回転する赤色灯の光が雨に滲んで見える。
向こうからは見えないように距離を取っているため見辛いが、目を凝らしてみると投光器に照らされながらゆっくりとクレーンに吊るされて持ち上げられていくのは、シルバーのセダンだった。
前の部分がめちゃくちゃに潰れているのがわかる。

目を見開いて放心状態の壮太をそのままに、辰巳は元の廃屋へ車を戻した。

停車するとたまらずに壮太は、車の外へ飛び出した。
小夜子が倒れていたという場所に立ちすくむ。
辰巳もすぐに降りてきたが、少し後ろで壮太を見守った。

激しくなってきた雨が、容赦無く二人を濡らす。

「誰が・・・信じるか・・・そんな話・・・。俺は信じないぞ・・・。」

地面をみつめたまま、うわ言のように壮太が呟く。

「小夜子は・・・小夜子はどこなんだ・・・? おい! 小夜子はどこだ!?」

壮太はまた、辰巳に掴みかかった。
しかし、辰巳は少し顔を背け、苦しそうにするだけで微動だにしない。

「小夜子に、小夜子に会わせてくれ・・・。頼む・・・。」

ずるずると、壮太はその場に崩れそうになった。
しかし、その途中でハッとしたように顔を上げた。

「ハル坊・・・。」

呆然と見開かれていた目が、突然焦点を結ぶ。

「ハルキは!? おい! ハルキはどうしたんだ! 小夜子と一緒じゃなかったのか!?」

ほとんどすがりつくように、辰巳の身体をゆさぶって壮太は叫んだ。

「ハルキは!? ハルキはどこだ!?」

「子供は・・・。」
辰巳の顔が、ますます苦しげに歪んだ。

「すまない・・・。」

「おい・・・まさか・・・!」

「子供は、工藤の車で眠っていたらしい。工藤も小夜子を殺してしまって焦っていたんだろう。とりあえず、子供を乗せたままでその場から逃げ出した。
 ・・・後部座席に寝かされていたから俺の部下からは見えなかったんだろう。
 事故で、車の外に投げ出されてな。
 部下が装置の回収をする時に発見して、慌てて組織の病院に運んだんだが・・・。」
 
壮太は、もう水溜まりに膝をついて辰巳の足にしがみついていた。

辰巳がゆっくりと、スーツのポケットから何かを取り出して、壮太に手渡した。

それは、泥と油で汚れた、小さな新幹線の模型だった。

「それを握りしめていたそうだ。」

壮太の中で、何かが壊れる音がした。鉄格子が落ちてくるような音にも、ダムが決壊するようにも、激しい火花がスパークするようにも感じられた。

何がなんだかわからぬまま、壮太はやおら立ち上がり辰巳の横っ面を殴りつけていた。

辰巳は2、3歩よろめいて立木でかろうじて身体を支え起こすと、無言のまま、また真っ直ぐに壮太の目を見ながら前に立ちはだかった。
壮太はまた殴った。

「お前らが・・・! お前らが殺したんじゃないか・・・!」

殴っても、殴っても、辰巳は黙って壮太の前に立った。

そして何度目かの時、勢い余って壮太は自ら地面に突っ伏した。
そのまま、立ち上がることが出来ずぬかるんだ泥に手をついて、獣のように泣き出した。
その顔を、涙と雨が後から後からとめどなく濡らす。

辰巳もただ雨に打たれながら、嗚咽し続ける壮太の傍らに立っていた。



◇     ◇     ◇     ◇




 「あれは・・・OEA史上、最悪のミスだった。」

辰巳が、珍しく暗い顔で呟いた。

「あの頃はまだ、組織ができあがっていなかったからな・・・。
 既に研修施設を立ち上げ目前だったが、あのミスがあった事で研修期間の大切さが上層部にも再認識されたもんだ。」
 
「・・・・・。」

外はすっかり夜の闇が降りていた。
開け放したバルコニーへの窓から、夏の夕風と共に都会の喧騒と雨音がひと固まりの雑音になって流れてきている。

「せめて、子供だけでも助けたかったなぁ・・・。」

辰巳は自分のグラスに新しい氷を入れ、ウイスキーを並々と注いだ。
先程封を切った瓶の中の琥珀色の液体は、もう半分ほどに減っている。

坂木も、すっかり氷の溶けてぬるくなった酒を呷った。

「陽は・・・帰ってくるかな。」

「なんだ?」
辰巳は、少し酔ってきたのかどんよりとした目を上げて坂木の顔をまじまじと見た。

「お前・・・陽に、俺の昔のこと、話しちまったんだろう?」

「なんでそれで、陽が帰ってこないって事になるんだ? あの、お前さんにだけは忠実な犬みたいな陽が。」

辰巳の口調には皮肉が混じっていたが、坂木はそんな事にはかまわず、ソファに身を沈めたままで言った。

「ハル坊の・・・ハルキの事を知ったら、あの陽だってどう思うか・・・。」

「あぁなるほど! お前さんはそれを気にしていたのか。」
辰巳は、初めて合点が言ったというような顔をした。
そして、グラスの酒を一口、ゴクリと飲むと、少しだけ複雑そうな顔をしていたがやがてニヤリと笑った。

「ハルキの事は、話してねぇよ。」

「なんだと?」
思わず坂木は、ソファの背から身を起こして乗り出した。

「ふん、話せねぇよ。俺にとってもハルキを死なせちまったことは忘れたくても忘れられないし、思い出すたびにハラワタが煮えくり返る気分になる事なんだからな。」

「おい、本当だな・・・? じゃぁ、いったい何をどこまで話したんだ?」

「まぁ、お前さんと一緒にラグビーをやっていた親友が酔っぱらいの車に撥ねられて死んだことと、その恋人だった女がお前さんの幼馴染で・・・。まぁ、お前さんもその女にぞっこんだったんだろうがという事は話したがな。」

「余計な事を・・・。」
「事実だろ?」
「うるせえよ。」

「その酔っぱらいが実はOEAのターゲットだったが、お前の幼馴染に手を出そうとして殺しちまったという事も話した。その夜、お前さんがその女にフラれたと思って飲み歩いていたこともな。」

坂木は舌打ちをしてため息をついた。

「その女がくちなしの花が好きだったらしいって事も話しておいたよ。ちょうど、殺されたのが今日みたいな梅雨の、雨が降る夜だったこともな。
 陽は、お前さんが梅雨時になると元気がない、と心配していたからな。納得したようだったぞ。」

「・・・・・。」

「だが、ハルキの事は一切しゃべっていない。その存在にも触れていない。これは断言できる。」

「そうだったのか・・・。俺はてっきり・・・。」

へなへなと崩れるようにして、坂木はまたソファーに沈み込んだ。

「俺にだってそのくらいの人情はある。」
苦笑いをしながら辰巳が言った。

「人情・・・? 自分の失敗を隠したかっただけだろうが。」
坂木にも、皮肉を言うだけの気力が戻ってきた。

「まぁそう言うな。とにかく今夜は飲もうじゃないか。ほら。」

坂木のグラスにも、氷とウィスキーが入れられた。
喉を通る酒が、やっと酔いを運んできてくれる気がしていた。
どこからかくちなしの花の香が自分を包み込んでいるような気がするのは、酔いのせいだろうか。

小夜子、梶田、ハル坊・・・
今頃はあの世とやらで、3人仲良く暮らしているんだろうか・・・。

初めて、坂木はそんな事をぼんやりと考えていた。




           つづく
           
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 読者様に怒られる・・・と思いつつ、やはり、ここは避けては通れませんでした。

私自身、こうなってしまう事がとても辛くて、今まで何回も頓挫しそうになったのは、ここを乗り切ることができずにいたため、とも言えます。
けれど、心を鬼にしてここを書いてしまったら、やっと他の部分も書き進めることができました。

あまりにも非情な運命に翻弄される壮太が、これからどうするのか・・・

最後まで見守っていただければ幸いです。
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Date:2011/11/24
Trackback:0
Comment:11
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

ああ、だめだ、だめだ…だめだ、泣くな、西幻!
私もうだめなんですよ、こういうの。
壮太の「小夜子は…小夜子はどこなんだ…?」の前後のセリフでもう涙が止まらなくなってしまいました (T_T)
そ、そのうえ、そんな私に追い討ちをかけるように、ハル坊まで…。(う、鼻水も止まらない…

いやいや、怒るなんてとんでもない!
物語の進み方はとても自然で、やはりこうなるしかなかったんだと思えます。

秋沙さんがそうだったように、壮太もここを乗り越えるしかない!
というか、乗り越えることができたんですよね。
次回、とても待ち遠しいです!
2011/11/24 【西幻響子】 URL #U8GV5vt2 [編集] 

* No Title

つくづく不幸な男だ壮太くん……。

まあわたしも重要登場人物をさんざん殺してきたからどうこういえる立場でもないですが、

ハルキ……。
2011/11/24 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* 西幻さんへ♪

西幻さ~ん、泣かせてしまってごめんなさい(>_<")
でも・・・泣いてくださるなんて、嬉しいです。

「せめて子供は助けたかった」という辰已のセリフは、そのまま私の心情でもあります。
やっぱり子供はどう考えても「巻き込まれた」だけなので、あまりにもかわいそうで。

壮太、乗り越えるというより、この歳の「坂木」になるまでどっぷりと引きずっていたわけですが・・・(^^;

次話から、またいきなり減速します。
まどろっこしいと思いますが、見守ってやってください・・・。
2011/11/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* ポールさんへ♪

いくらなんでも、周りで人が死にすぎだろう壮太、と言いたくもなりますが(^^;

小説書いてると、何人殺しちゃうことになるのかしら、と思ってみたりして。仕方ないことではありますが。

子供が絡むのはやっぱ辛いですねー。
私、ドラマや映画でも、子供の病気とか死をあつかうものは絶対に見ないというヘタレなので、もうここまで書くだけでもすごい消耗しちゃいました。

ポールさんもあんなにハルキの無事を祈ってくださったのに(^^;申し訳ないことです。
2011/11/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

あ"あ"ぁ~~な・み・だぁ~~
ミスとか言うもんじゃないっすよこれぇ~

陽、今すぐに坂木(と私とみんな)のために帰ってきて。。。

2011/11/24 【けい】 URL #- 

* けいさんへ♪

ホント、「ミス」で許されるもんじゃぁないですよね。
う~む、やっぱりちょっと設定に無理があっただろうか(^^;

そろそろ、陽に「帰ってこい」って言わないとダメっぽいですね。鉄砲玉なもんで・・・はい・・・申し訳ないことでございます・・・m(_ _)m
2011/11/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* ハルキ・・・・・・

ハルキ・・・・・・・・(T_T)

この展開は予想してたのに・・やっぱり、やっぱり辛いですね(>_<)
でも、秋沙さんの辛さもすっごくわかります。

現代の世に、ハルキが生きているはずないんですもん。
きっとハルキが生きていたら、坂木はOEAなんかに、入ってはいない。
わかってたんだけど・・・。

シーンが現代に切り替わって、正直救われました。
あれが、過去の話でよかった~。
長い時が、坂木の傷を少しは癒してくれたかもしれないし。

そして今は、陽がいてくれる。(なかなか帰って来ないけど)
辰巳も、過去の話を全部陽に話さなかったんですね。
話すのも辛いし、聞く陽も辛いもん。

でも、陽は辰巳の話を、どんな気持ちで聞いたんでしょうね。なにか、感じたんでしょうか。

・・・・はやく帰っておいでーーー!陽!
2011/11/24 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

limeさんにこのお話の原案を相談した時に、「辛いけど、やっぱりその子供は生きていない、ということになるよね」という話をしましたよね。

そう、坂木がOEAに入るには、こうなるしかないんですよね。

もう、現代に切り替えるしかなかったですよぉ(ToT)
でもまだ、実は、過去のお話しはもう少し続きます。

そして・・・陽は・・・辰已の話から何を感じ取ったか、ということですが、陽のことだから・・・ハッキリとは語らないかもですねぇ(^^;
相変わらず捉えどころのない子です(って、自分が生んだキャラクターじゃないのに、こんなこと言っていいのか?)

もしかしたら・・・皆さんすでに「???」な部分があるかもしれないんですが、陽が帰ってくるまでもうちょっと待ってあげてくださいね。
相変わらず、おっさん二人がまったり飲んでますので。
2011/11/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

悲しすぎる、お話です。
ハル坊が新幹線を握りしめていた所では涙があふれました。

小説は良いところばかり描いていても、リアリティがないですし、こういったシーンがあるからこそ、物語に深みが出るんですよね。きっと。
私もかつては「ヒロハル」さんの作品て、必ず誰か死にますよね(病死、事故死、自殺、他殺は問わず)って言われてました。笑。
2011/11/25 【ヒロハル】 URL #- 

* ヒロハルさんへ♪

ヒロハルさんまで泣いてくださるなんて(ToT)

どんな人間にも「死」という運命がついてまわる限り、それを避けては小説は書けないんですねぇ・・・。(いや、もちろん、その部分を書かない小説だっていくらでも書けますけれど)
坂木がOEAに入って仕事をしているのは何故か、と考えたら、やはりこのくらいの悲劇が必要になってしまいました。

そういえば、確かにヒロハルさんのお話には「死」がいつもあるかも・・・(^^;
だけどなんでしょう、ヒロハルさんの描く世界での「死」はとても静かで悲劇と言うよりは哀切がありますよね。(全部ではないですけれど)
結局、光があれば影ができるし、影がなければ光もないわけで・・・
ヒロハルさんのお話には、死の向こうに希望が見えます。(あ、死んだあとに希望があるって言うんじゃなくて、遺された人が死を乗り越えて生きる時に・・・ってことであって・・・(((^^;)(;^^) )))

人の死は突然に、慟哭をもたらしますが、そこを過ぎるとぼんやりと霞みみたいにやっぱり実感を伴わないと言うか。ただ漠然とした寂しさと哀しさを残すような気がします。
これから、そういう感じにお話が進んで行く・・・はずです(^^;
2011/11/25 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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2011/11/27 【】  # 

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