もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 27(終)

◇     ◇     ◇     ◇



陽がどら焼きを受け取って改めて挨拶をすると、それまでずっと黙っていた老人が急に言葉を発した。

「そろそろ小夜子も勤めから戻る頃じゃて。もう少し待ってなせえ。」

「え?」と思わず陽も老婆も、それきりまたぼんやりと薄く微笑みながら生垣の向こうを眺める老人の顔を見た。

やや間があってから、老婆が「あぁ。」と合点がいったように声を上げた。

「わかりましたよ、この人が誰とあなたを間違えたのか。」
「そうなんですか?」
「えぇ。たぶん、ですけどね。孫娘の婚約者だった若者ですよ。ラグビーの選手でねぇ、もっと筋骨隆々の色の黒い人だったんだけれど。どうして間違えたのかしらねぇ。」

老婆は、まじまじと陽の顔を眺めている。

「あぁ、でも・・・背が高くて・・・はっきりした眉毛と大きな目が少し、似ているかもしれないわねぇ。」

「あはは。そうですか。どう見ても僕はラグビーをやってるようには見えないと思うけど。」

老婆もまた朗らかに声を上げて笑った。
「そうよねぇ。本当に失礼しました。」

丁寧に頭を下げる老婆に、
「いいえ、僕も本当に楽しかったです。お邪魔しました。それじゃ、お元気で。」
と、陽も頭を下げて歩き出した。

門扉を出て閉めようとしている時だった。

「あの、もし、ちょっとお待ちになって。」

縁側のほうから老婆の呼びかける声がする。
何事だろう、と思って待っていると、老婆が縁側からつっかけを穿いて追いかけてきて
「あの、見ず知らずの方にお願いするのもなんなんですけどね・・・。」
そう言いながら、古ぼけた写真を一枚、陽に見せた。

若い、清楚な雰囲気の女性と、その腕に抱かれて満面の笑みを見せる小さな男の子が写っている。女性は、白い割烹着姿で頭には三角巾を巻いている。

「これが孫の小夜子と、ひ孫のハルキ。もう来年でハルキは二十歳になるはずなんですけどね・・・。」

ハルキという名の男の子は、色白で、母親と口元がよく似ているが、目はくるりとして大きかった。きっと、その部分は父親似なのだろう。

「もしもどこかで、この二人を見かけたりしたら・・・私達がまだここにいると・・・伝えてはもらえませんかねぇ。ほんと、こんなことをお願いするなんておかしいんですけどねぇ。」

「わかりました。小夜子さんとハルキくんですね。覚えておきます。」

老婆は再度、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。どうぞよろしく・・・。」

そして、思いついたように付け加えた。


「ハルキはね、太陽の『陽』に『生きる』と書いて、『ハルキ』と読むんです。」



◇     ◇     ◇     ◇




「坂木さんらしいや。」
陽はくすくすと思い出し笑いをした。
この事は、坂木にはずっと黙っていよう、と陽は思った。
辰巳も、小夜子のことは話してくれたが、「陽生」の存在には触れなかった。
それなりに気を遣ったのだろう。

その時、「カキーン」と爽快な音がして、子供たちから歓声が上がった。

見ると、陽の頭の上を通り越して向こうの空き地へと、白いボールが放物線を描いて飛んでいくところだった。

打席にいた、先程ピッチャーをしていた少年がバットを放り投げて走り始めながら楽しげに叫んだ。

「仕返しだよ! お兄さん!」

ベンチの二人組の男も手を叩いて大笑いをしている。
辰巳に至っては、「いいぞ! 坊主!」と、ヤジまで飛ばす始末だ。

「やられた~!」

陽も笑いながら叫んで、夏草の生い茂る空き地へボールを追って突っ込んで行った。



    (くちなしの墓・完)



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Information

Date:2011/12/23
Trackback:0
Comment:18
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* あ~~~~・・・

もう・・・秋沙さんたら(>_<)

惚れていいですか(>_<)

ハルキが、どうしてカタカナ表記なのか、そう言えば考えもしませんでした。
やられました!本当に泣きました。
ぞわぞわ~~って来ました。

私が本編で描いた大きなループと別なループを、秋沙さんは描いちゃいましたね。
最終地からぐぐっと、坂木と陽の出会いのシーンへ、読者を再び誘うループです。

ああもう、脱帽です。
やられちゃったなぁ~。

陽と坂木は容姿的には全く似てるところが無いはずなのに、老人に間違わせる。
けれど、「そんなばかな」、ではなくって、姿形以前の何かを、きっとその老人は見たんだと思わせる、不思議な説得力がありました。

何でしょうね、悲しい坂木の過去の物語なのに、この優しい余韻は。

ほら、まだ野球の最中なのに。ぼーっとしてる間に、打たれちゃったよ。

探しに行っておいで、茂みの中に。

ちゃんと、帰っておいでよ。・・・坂木のところへ。

早くね。

・・・だって、もう、あんまり時間がないんだよ。

分かってるの? 陽


ごめんね、何だか涙が止まらなくなりました。・・・マジで。向こうで泣いてきていいですか。

ありがとうね、秋沙さん。
2011/12/23 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* No Title

「もう来年でハルキは二十歳になるはずなんですけどね・・・。」

というところでドキッとしてしまいました。
そうか、生きてればハルキは二十歳…。
でももうそのハルキはこの世にいない。小夜子も…。
そのことが改めて実感されて、胸がつまりました。

小夜子の祖父母が、「孫娘とひ孫の2人がまだ生きている」と思っているという事実もなんだか切ないです。でも祖父母にしてみたらあんな経緯で死んでしまったことなんて知らないほうが幸せなのかもしれませんねぇ。

そしてハルキが、「陽生」だったという事実にまたびっくり。
カタカナ表記だったのはそういうことだったんですか。

ああ、そうか。もう連載終了なんですね。
お疲れ様でした(さびしい…。新連載、お待ちしております
そして素敵な物語を、ありがとうございました ^^
2011/12/23 【西幻響子】 URL #U8GV5vt2 [編集] 

* No Title

陽生、だなんて・・・う”・・・

秋沙さん、物語をここまで温め、引き伸ばし、最後にバンと出すなんて・・・天才です。

「陽」は「生きる」はずなのに・・・あ”~~~

二人の「陽」と坂木と生と死が、絡まり、渦巻き、もう、脳が崩壊しそうです。このジレンマと切なさに耐えられなくて・・・

ベンチでガハハと笑っとるおっさん二人に慰めてもらいたい。どうぞよろしく。

秋沙さん、きらきらしています。素敵なお話をありがとうございました。しばらくは余韻に浸りそうです。。。

2011/12/23 【けい】 URL #- 

* No Title

ああ、そうか、そういうことなのですね。

すとんと腑に落ちました。途中、ちょいとドス黒いものがあって、どうなるやら…とヒヤヒヤしてたのですが、すがすがしい読後感でいっぱいです。

連載お疲れ様でした。
2011/12/23 【綾瀬】 URL #- 

* No Title

なるほどね。こういう最後を用意されていたので、あそこで締めなかったわけですね。

悪なのかそれとも正義かわからぬ組織の中で、過去を捨てたと言いながらも、人としての心のぬくもりを捨てきれず、親友の子への思いを今のパートナーに馳せる一人の男の姿を見事に描ききったお話でした。

こういうハードボイルドな奴をまたやってみたくなりました。
ありがとうございました~。
そして連載お疲れさまでした。

PS.ハルキ=春樹で、KEEP OUTとの密かなコラボでもあったのかと考えた私はアホです。
2011/12/23 【ヒロハル】 URL #- 

* No Title

小夜子さんみたいな人が、またなにか、違う形で坂木さんの前に現れたらいいのですが。

コツコツコツコツコツコツコツコツ(笑)。
2011/12/23 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* limeさんへ♪

惚れて(*^_^*)

そうなんです。
ハルキという名前、カタカナにしましたが、もうとっくに皆さんにはバレてるんじゃないかとヒヤヒヤしてました。
でも、運良く(?)limeさんのところや西幻さんの所に「春樹」が出てきてくれたおかげで、カムフラージュになっちゃった(笑)。

ループ、描けていましたか?嬉しいです。
やはりスピンオフを書くからには、本編につながる意味を持たせたい、と常々思っていました。
・・・って、あとがきを書こうと思っているので、ここではあまり詳しくは語らないでおきますね(^^)


ただ・・・limeさん・・・1つだけ・・・。
小夜子のおじいちゃんが人違いをしたのは、坂木ではなくて梶田のつもりだったんですが・・・。
あぁぁぁぁ文章力がなくてごめんなさい!!(^^;
2011/12/23 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 西幻さんへ♪

小説の中で、一気に時間を経過させてしまうのって難しいですね。
読者様を置いてけぼりにしてしまう。
これが映像だったら、小夜子のおじいさんとおばあさんの容姿だけで年月が過ぎたことが一目でわかるんですが、そうもいかないので、「ハルキは二十歳に・・」というセリフを入れました。
でもそれを、西幻さんはこんなふうに受け取ってくださって、作者冥利につきる(そんな言葉ある?)ってもんです(^^)

なぜハルキがカタカナ表記なのかという事を、どなたかに突っ込まれたらどうしようかと思ってました(笑)。
なので、「ハルちゃん」「ハル坊」などの呼び方をちょこちょこ入れてみたりしてました。

長い間、「くちなしの墓」読んでくださってありがとうございました。
新連載・・・まだな~んも考えておりません(^^;
さぁどうしたもんだか。
2011/12/23 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

あ!(タイムリーな時に来てしまった)
本当だ!
ああああ。
ちゃんと「婚約者」だって書いてあったのに~。
なんかもう、小夜子と壮太は結ばれる運命だったのに・・・って想いが強すぎて(>_<)
だめだなあ、最近、思いこみが強すぎて。ごめんよ~~~。
高野山で修業してきます・汗
滝は・・・ちょっと冷たそうだ・・・。

いや、しかしねえ。
昨日は本当にマジ泣きしちゃいました。
もう、後はだまって、後書きを読みます。

あ、そうそう。
高野山に向けて荷づくりしなきゃ・・・。i-201
2011/12/23 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* けいさんへ♪

ちょっと引っ張りすぎたかも知れませんが(^^;
いろいろな事実が明かされていく中、やはりハルキが「陽生」であるという事は、一番最後まで明かさずに置きたかったんですよ~。
それこそが、坂木が陽に一番知られたくなかった事でもあるわけで・・・。

そうなんですよね、「陽生」から「生」を抜いた名前をつけた陽の運命を考えると、ちょっと可哀想すぎたかなぁとも思って悩みました。
でも、その「陽」を坂木は一生懸命守り、気付いたらどっちが守られていたのかわからない状態になっていましたが(^^;、その生を全うさせてあげることができた、という事にしておきたい・・・と。って作者がここまで語っちゃうのは反則ですね(^^;

けいさん、後から一気にここまで読んでいただいて、大変だったと思います。ありがとう。
余韻に浸っていただけたら、もう本当に幸せです。
2011/12/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 綾瀬さんへ♪

よかった、腑に落ちていただけて(^^)

悲惨な展開になってしまったし、読んでくださる方も辛かったと思います。
どうにか読後感を爽やかにしたい・・・と思いながら書きましたので、読了してくださってそういう感想をいただけて本当に嬉しいです。

思い入れが強すぎて、まだ次の作品のことがあまり考えられていないのですが・・・(笑)、「小説を書く」「読んでいただく」ということの楽しさにもたくさん出会えた作品でした。
時間はかかりそうですが、また長いお話も書いてみたいです。どうぞこれからもよろしく・・・(^^)
2011/12/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* ヒロハルさんへ♪

もう、このお話の主題を見事に言い表してくださる感想をありがとうございます!!
なんか、感激です。

そう、名前も変えて「過去は捨てた」と言いながら生きている坂木の、まるっきり捨て切れていない思い出と、人間らしさ、が表せたら・・・と思いながら書きました。

えへへ、この事実を明らかにするために、あそこで締めるわけにはいかなかったんですよ(^^)
ハードボイルドになりきれない中途半端な雰囲気になってしまいましたが・・・
私もなんだか、もっとハードボイルドで硬派なお話か、思いっきり恋愛ストーリーの甘酸っぱ~いやつか、なんか極端なのを書いてみたい気もしてきました(笑)。

そう「ハルキ」という名前、ちょうどlimeさんが「KEEP OUT」に「春樹」を登場させたのは、まるっきりの偶然だったんです(笑)。私は「ハルキ」=「陽生」であることがバレるとお話がだいなしになるので、皆さんの頭の中に「春樹」がインプットされて大助かりだったんですが(笑)。

ヒロハルさんも、私がしょっちゅう「書けない」と騒いでいる時に、笑ってくださったり励ましてくださったり、ありがとうございました!
2011/12/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* ポールさんへ♪

またそういう、ハードルを上げるようなことを言って~~~(ToT)
そういう事にはならないような気がしますけど(笑)。

いやまったく、今回、ポールさんの執念には脱帽です(^^;
2011/12/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* limeさんへ♪

じゃぁ、ちゃんと説明しきれなかった私は比叡山へ・・・ってぉいぉい。

梶田と陽が似ているってことは、ハルキと陽も似ているって事で・・・う~~~ん、無理やり過ぎたかなぁ(笑)

2011/12/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

そうか!
そういう意図があったんですね!
ああ、私はなんてバカなんだ。
最初のコメ、あの部分を消しちゃってもいいですか?

そうか、大事な部分じゃないですか!
そんな繊細な想いが隠れてたんですね・・・。
坂木・・・(T_T)
2011/12/24 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

いやいやいや、私の文章力の不足が原因ですから、消さなくていいですよ~。
(他にもそう思ってた方、いるかもしれないし・・・)(^^;

ちょっと坂木、可哀想過ぎましたかね・・・。
limeさん・・・なんか、坂木にもっと救いのあるお話、書いてあげてくださいよ~。
(あ、その前に辰已をいじめちゃう?)(笑)
2011/12/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 今回もfateは最後に…

いつもfateは皆さんのご感想が出尽くした辺りにやってきて茶々を入れてますが…

いや、単にノロマなだけで、狙っている訳ではありません。(たまにはわざとのときも確かにありますが…(^^;)


「亡くなった人のお通夜の席で、最初はその人の死を悼み、悲しみに暮れますが、その後の精進落しの席では故人の生前の話をして笑って、盛り上げて、「まぁいい人生を送って逝ったよね」と遺された人たちは思えるようになるのが、一番理想的な送り出し方だと思っているんです。 」

↑これ、すごく真理だと思いました。
今、益々そういう方向に向かってますね。
それで良いと思うし、そういう終末を迎えるためには、延命治療は無くすべきと思います。
ちょっとハナシは違ってしまうので、これ以上は突っ込みませんが。
命の終焉には敬意を持って、そして、覚悟を決めて挑むべきと思うので。

皆様が言い尽くしてしまっているので、fateが言うことないわ~、とは思いましたが、確かに、ハルキくんの漢字表記には、ああ…と、涙が出ましたね。
こんな風にlimeさんの世界を本気で共に描いていること、素晴らしいの一言です。
これ、合作で本を出してくれたら、fateは買うのになぁ、と思います。
そのときは、お二人に本にサインをしてもらって「fateさんへ」と書いてもらって~
とかって。
いつか、西幻さんにも言ってたわ~(--;
でも、そうなったら嬉しいなぁ!!!

辰巳さんをいじめる話も、坂木さんに救いのある話も、楽しみにしてますからね~ん(^^)
2011/12/24 【fate】 URL #- 

* fateさんへ♪

いえいえ、いつでもご都合の良い時にいらしてくださいね♪
私も、いっぺんにコメレスするより、こうやって一呼吸置いてからだと、また新たに見えてくるものがあったりしますし♪

命の終焉の迎え方、また、それを送る周りの人達の心構え・・・このへんは、本当に語り始めたらキリがないですね(^^;
延命治療もね・・・頭ではしないほうがいいとわかっていても、やっぱり身内が意識不明になったら、どうにかして生きていて欲しいと思ってしまうんではないかと・・・。たとえ0.1%の望みでも、すがりたくなってしまうんではないかと・・・
って、このへんにしておきましょう(^^;

「陽生」という名前に皆さん驚いてくださって、よかった~と今、とてもホッとしています。

limeさんの著書、出たらいいのにね~。
私のスピンオフは本当に蛇足なので、必要無いです~(笑)。「ネット限定」くらいでちょうどいいかも?(^^;

辰已をいじめるお話も、坂木の救いのお話も、limeさん書いてくれないかな~(^^)(他力本願)
2011/12/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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