もうひとつの「DOOR」

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□ 旅路 □

旅路 (5)

 深夜。
 
坂木はホテルの部屋のソファーで、ヘッドセットをして腕時計を睨みつけていた。
 
午前1時を少し過ぎた。
「仕事」の実行の時間からもう15分ほど経つ。
いつものことだが、陽は声も物音もたてない。
さっきまでは、狭い部屋のようなところにこだまする水の音が聞こえていたが、
やがて何も聞こえなくなっていた。
時々かすかに、風が木の葉をゆらすような音が聞こえる以外には。

そろそろいいだろう、と思い、そっとマイクに向かって話しかける。

「・・・済んだか?」

じっと構えていると、ほどなくして陽の静かな声が聞こえた。

「もう、お酒を飲んでも大丈夫だよ、坂木さん」

ふうっとためいきをつき、ヘッドセットを外す。
あの声の調子なら、全て計画通りに運んだのだろう。
特にむずかしい仕事でもなかったが、やはり緊張して待っていたのか
体がガチガチになっていることに気付く。

部屋に置いてあるホテル内の施設の案内を眺めてみると、
まだもう少し、バーのラストオーダーまで時間がある。
喉が渇いていた。

小さな機器類を片付けて、シャツをはおると坂木は部屋を出た。

本当は、パートナーが無事に戻るまでは気を抜いてはいけない。
部屋にある酒を飲んでもいいのだが、坂木は「仕事」を終えた直後の陽を見るのが苦手だった。

まず、いつにもまして口数が少なくなる。
そして、あの目だ。
全てをシャットダウンしてしまうあの目つき。
外の世界の全てを、そして自分の心の中までも。
「One Eyed Angel」。
陽は見事なまでに、良心の呵責やためらいには目をつぶる。
しかしそうすればするほど、坂木には陽の中の傷ついた少年のままの剥き出しの心が見えてくるようで、ヒリヒリと感じて仕方がない。


凝り固まった首や肩をほぐすように回しながらエレベーターで階下におり、バーのドアを開ける。
二組ほどホテルの浴衣を着てにぎやかに飲んでいる客がいるらしいボックス席には目もくれず、カウンターの一番端に座った。

黙って近づいてきたバーテンに水割りを頼むと、背もたれに深く体をあずけて大きく息を吐き、目を閉じた。
カウンターにグラスが置かれて中の氷が揺れる音と、バーテンの「どうぞ」という低い声が聞こえた時、自分の隣に誰かが座る気配を感じた。

(・・・陽か? もう戻ったのか?)

そのままの姿勢で目だけうすく開けて隣を見ると、昼間テラスで話しかけてきたあの女性がいた。
少し驚いたが態度に出さないようにして、「なんだ、あんたか」と言う。

女性は、「遠山加奈子です」と、自分のグラスをみつめたまま答えた。

「何してるんだ、こんな時間に」
「ちょっと眠れなくて・・・。飲んでいたらあなたが入ってきたので。
 サカキさんこそ、こんな時間までお仕事ですか?」

(やれやれ。名前を覚えられちまったか。)
面倒になった坂木は、黙って水割りに口をつけた。

「もう一人の方とは、あまり一緒に行動なさらないんですか?」

(やっぱり陽のことが気になっているんだな、この女。
 どうも、陽ってやつは女から見ると放っておけない存在らしい。
 いや、女だけじゃないか・・・。
 本人は素っ気無いのになぁ。)

そんなことを考えて苦笑いをしながら、坂木は煙草に火を点けた。

「私、まだあの方にちゃんとお礼も言っていないし・・・それに・・・」

「あいつなら、部屋で仕事の片付けでもしてから寝ちまうだろう。酒はそんなに飲まないほうだからな」

「そうですか・・・。」

坂木はあらためて、女性の姿を横目で眺めてみた。
昼間はスーツ姿だったが、今はシンプルな女らしいラインのワンピースを着ている。
気が強そうなハッキリとした顔立ちに、大人っぽい服は良く似合っていた。
なるほど、仕事ができそうなタイプだ。頭も良いんだろう。

「あの方は・・・そのぉ・・・恋人、なんているんでしょうか」

(そら来たぞ。)
坂木は内心、笑いをかみ殺す。

「さぁな。あんまり女は好きじゃないみたいだからな」

「・・・男が好きなんですか?」

坂木は思わず、煙にむせて咳き込んだ。

「あんたなぁ・・・。」

「違うんですか?」

「そういう意味じゃねぇよ。あんまり自分から女性に深く立ち入ったりしないってことだ」

「そうですか・・・。なんだかわかります。あの人、冷たいですよね?」

「んぁ? 冷たい? 命を助けておいてもらって、その言い草はないだろう」

「でもあの人、私が泣いているのを見て笑ってたし、柵を乗り越えて崖のほうに行こうとしても、最初は黙って見ていただけなんです。」

「・・・あんた、あいつに見られていることを意識して、そうしたんだろ。」

「えっ・・・?」

「あいつは最初からわかってたんだろうよ。あんたに死ぬ気なんかないってことをな。」

「・・・・・」

「それか、失恋くらいのことで死ぬようなやつは、この先もちょっとしたことで死にたくなるようなやつだから、ここで助かってもまた死にたくなるだろうと思ったのかもな」

「・・・!あんまりじゃないですか?それって。心が弱い人は生きていてもしょうがないっていう意味ですか!?」

「ふふん。やっぱりあんたはそんなに弱いやつじゃないだろ?それだけ言い返せるんだからな。
本当に弱いやつに、こんなことは言わねぇよ。それに陽は・・・あいつはそんなふうに考えるやつじゃないよ」

「ヨウ・・・という名前なんですね?あの人」

(しまった)
坂木は口をすべらせたことを後悔した。
仕事を終えた後は、少し警戒心が緩んでいるのかもしれない。
(まぁしょうがない。そのくらいのことは知られてもどうってことないだろう。)

「あの、さっきから、『失恋くらいで』っておっしゃいますけど、失恋だって死にたくなるほどつらい場合だってあるんじゃないでしょうか」

(すぐムキになる女だな・・・。めんどくせえ。)
そう思いながらも、酒も手伝ってかついつい答えてしまう坂木だった。

「相手の男が死んだとか?」

「・・・いえ・・・そんなことではないですが・・・」

「じゃぁなんなんだ?死にたくなるほどつらい失恋ってのは」

「・・・裏切られたんです。」

「んぁ?」

「裏切りです。」

空になったグラスを両手で握り締めるようにしていた加奈子は、突然顔を上げてバーテンを呼び、
おかわりを頼んだ。

坂木は、聞きたくもない失恋話を聞かされるハメになりそうなことにうんざりしたが、部屋に戻るのは陽が眠ってしまってからにしたかった。

(しかたねぇ・・・)

半ばやけくそで、坂木もダブルのロックを注文した。



(つづく)




坂木のシーンを書くのは、至福の時です(笑)。

仕事をする陽を書くのはなんとなく恐れ多かったので(笑)、それを待つ坂木を書いてみました。

さぁ、次回は加奈子さんと坂木の会話劇です。
かなり「白昼夢シリーズ」の本筋からは外れます(^^;ご容赦願います。


あ、わたくし、本日帰宅予定です。





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Information

Date:2010/08/22
Trackback:0
Comment:6
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

*

坂木さんうかつだなあ……プロでしょあんた、と思いました(^^)

少なくとも、陽くんにかわって女をうまくあしらえるくらいの話術がないとサポートはできないのでは……。

坂木さんがどれほど事態を悪化させるか楽しみ(ええー)
2010/08/22 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* こんばんは^^

秋沙さんの所で、まだ「仕事」をしている陽の様子が読めた・・・・・

何だか今夜は、それだけで胸がイッパイです。
「あ~小説って生きてるんだ・・・」
そんな感じがします。

次回、加奈子の失恋話を聞かされた坂木がどんな反応をするのか・・・・・・

ぷぷ。
ちょっと(かなり)楽しみですv-398
坂木や陽のように、闇の部分をイヤと言う程見て来た人間にとって、加奈子の受けた「死ぬほどの辛さ」ってどんななんだろう。
楽しみにしてますねv-290
2010/08/22 【】 URL #9dnUgMTg [編集] 

* ポールさんへ♪

うひゃ~一番つかれたくないところをつかれた~~~\(>o<)/ギャー!
なはははは。
さらに事態を悪化させますよ、坂木さん(^^;

もうねぇ、ポールさんには絶対怒られる。覚悟しておきます(^^;
2010/08/24 【秋沙】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 蘭さんへ♪

limeさんの白昼夢は、もう終わりに近づいてますもんね・・・。
やめろと言われても、生きてる陽を書き続けたいと勝手に思っているわたくしでございます(^^;

ぷぷ。
楽しみにしてもらえて嬉しいです。
もう、このお話は、ミステリーとしての細かいプロットは抜きにして、会話劇を楽しんでいただければ・・・。
2010/08/24 【秋沙】 URL #mQop/nM. [編集] 

* こんばんはー。

なんだか気になる加奈子さんです。

そんな訳で、また来てしまいました^^

「ブルータスお前もか!?」
じゃありませんが、やはり陽君のことが気になる加奈子さんと、陽君のこととなると気が気でなくなる「おかん坂木さん」どんな舌戦が繰り広げられるか次回が楽しみです^^

それにしても坂木さん、皆さんが仰るように「プロ」としては迂闊すぎる…パートナーが陽君で良かったですねえ^^;
2011/11/27 【有村司】 URL #- 

* 有村さんへ♪

もうここからの加奈子と坂木の「舌戦」は、「白昼夢シリーズ」とはまるっきり関係ないと申しましょうか・・・(笑)


ほんと、坂木の言動は「迂闊」なことが多くてハラハラしますよね。limeさんのお話しの中ではこんなにまで迂闊な人では無かったはず(^^;
どうしても私は、この坂木という人物を、「生身の人間」の部分を強調して書きたくなってしまうんですよね~。

ますます、坂木の行動が事態を悪い方向へ(?)持って行きますので楽しみにしてください(^^)
2011/11/28 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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