もうひとつの「DOOR」

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□ 旅路 □

旅路 (9)

 部屋に戻るとすぐに、坂木はテーブルの上に地図を広げた。
陽は一目見ただけで、それが昨夜のターゲットの別荘付近のものだとわかった。
それほど頭の中に叩き込まれている。

「やり残した事って・・・?」

陽の質問に、坂木はまず大きく一つため息をついた。

「あのターゲット、かなりやばい仕事を指揮していたらしい。
自分の会社を引退したとみせかけて、裏の仕事ではまだまだ現役だったんだそうだ。」

「まぁ、それだからターゲットになったんだろうね」

「あぁ。奴の会社は生物兵器になるような機材を、第三国を通じて北朝鮮に輸出していたらしい。
しかも、奴の個人的なコネクションによってそのルートを確保しているそうだ。
そこには大物政治家も絡んでいるらしくてな。
しかし、問題は・・・」

陽は無表情に地図を眺めながら、坂木の話を聞いている。

「そのコネクションや輸出に関する証拠の一切合財を、奴が死ぬことで警察が見つけ出す手段だったんだが、やっこさん、かなり用心深い性格でな。主が自宅で病死したくらいでは捜査が及ばないところに隠しやがったらしい。」

「それを探し出すんだね?」

「・・・そうだ。まぁ、大体の場所はつかめているらしいんだが・・・。
警察が捜査に入れるのには期限がある。何の証拠もあがってないだけに、大掛かりな捜査はできない。
もう一度、捜査が入るだけの理由を作る必要がある。」

話しながら、坂木の口調はどんどん苦々しくなってくる。

「・・・隠し場所の鍵を、秘書の一人が肌身離さず持ち歩いているんだと。」

「わかった。・・・で?」

坂木は一度言葉を止めた。

こういうときの陽には、仕事の理由など話しても意味がない。
もうその瞳には、なんの感情も読み取れなくなっている。
ただ、機械のように命令された仕事をこなすことに徹する時の目だ。

「段取りを説明する。」

二人はまた、地図に視線を戻した。


------------



 ふらふらと街を散策しながらも、加奈子は上の空だった。

いつの間にか太陽は雲に隠れていて、古い町並みは一層暗い感じがした。
もうパトカーが通ることも無い。

陽という青年は、いったいどんな人生を歩んできたのだろう。
「心が死んでしまった」・・・。
その意味を噛みしめようとするが、どうも実感が伴わない。

「心が生きているなら大丈夫だと思った」。
私の心はまだ生きている? そうかもしれない。
だから、痛みも感じるし、怒りも感じる。死にたいと思うのだって心が働いているからかもしれない。

「誰かのために、死のうとまで思いつめたんじゃないの?」と聞かれたとき、なぜかそうだと答えることができなかった。
私は優一のために死のうとしたんじゃなかったのか? でも、優一のためってなんだろう・・・。優一のせい、だと思っていたけれど、それは優一のため、とは違う・・・。
それに私は、優一のために生きていたんじゃないわ。
優一のことは本当に好きだったけれど、私の人生だもの・・・それは当然よね?

なのに・・・陽って人は・・・誰かのために生きているっていうの?


どうしてもわからなかった。

あたりがますます暗くなってきたのは、天気のせいだけではなかった。気付けばもう夕刻だ。
湿った風が強く吹き付けてくる。

加奈子はホテルに戻って夕食を済ませ部屋に戻ったが、その頃には雨が激しくなってきていた。
時折、強い風と雨が窓に当たり、ざーっという音を立てる。

なんとなく落ち着かなくなって、バーのカウンター席に一人でしばらく座ってみたが、あまり酔えなかった。
坂木か陽が来るのではないか・・・と少し期待する気持ちもあったのだが、あらわれる様子がない。


気付けば、自分の人生のことよりも陽の人生を想像してばかりいる。
あの太陽の光に溶けそうな存在感は、なんだろう。
「死」というと暗い闇を想像するけれど、陽の雰囲気は暗闇の中に一筋、光が差し込んでいるような不思議なイメージがある。けれどそれは、宗教画にでもありそうな、天国へと続く光・・・?

もう、バーの閉店時間が迫っていた。

部屋に戻ろうとエレベーターに乗ったとき、自分の部屋のフロアではなく、陽と坂木が降りたと思われる階のボタンを押していた。

部屋番号までわかるわけでもない。それに、もうとっくに二人は眠っているだろう。

廊下はしんと静まり返っている。
絨毯を踏む足音でさえ響いてしまうような気がする。
時折、ドアの隙間からテレビの音がかすかに漏れ出ている部屋もあるが、人の話し声は全く聞こえない。

何をやっているんだろう、私・・・。

廊下の先には非常口の扉が見えている。

「馬鹿みたい。自分の部屋に戻ろう。」


そう思って戻りかけた時だった。


急に風と雨の音が聞こえた。
振り向くと、ゆっくりと非常階段に続くドアが開き、全身黒い服を着てずぶぬれになった男が入ってきた。
男は、加奈子の存在に気付いたのか気付いていないのか、うつむき加減に廊下に踏み込みドアを閉めると、耳の辺りに手を持っていった。
そのまま、急にふらついて廊下の壁にもたれかかった。

加奈子は、声にならない短い悲鳴をあげた。
その男は陽だった。

駆け寄って声をかけようとすると、陽のほうが先に囁き声だがするどく言い放った。
「声を出さないで。こんな時間だ。迷惑になる。」
その気迫に、思わず加奈子は言葉を飲み込んだ。

陽はそれだけ言うとまた、ぐったりと身体を壁にあずけている。
まるで服のまま泳いできたかのようにびしょぬれで、乱れた髪からは滴がぽたぽたと垂れている。

小さな声で「どうしたの?」と訊きながら身体を支えようとして、その熱さに驚いた。
「熱があるじゃないの!」

陽は、荒い息をしているだけだ。

ふと、黒ずくめの陽の姿の中に違う質感のものを感じてもう一度全身を眺めた。
なぜか、いつも襟元に見え隠れしていたクロスのペンダントを手に握っている。
濡れて鈍い銀色に輝くそれは、非常灯の緑色の光を受けて艶めかしいような不思議な光を放っていた。

その時、非常口に一番近い部屋のドアが開いた。
飛び出してきたのは坂木だった。一瞬、加奈子を見たその表情が凍りつく。
しかし、すぐに陽を見て駆け寄ってきた。

「おい、大丈夫か。」
坂木が声をかけると、苦しげに目を閉じていた陽は壁から離れ、坂木の腕の中に倒れこみそうになった。
慌ててその身体を支えた坂木は、仕方ないというようにため息をつくと、加奈子に「一緒に来い」と目で合図をして部屋のドアを開けた。


   
   つづく





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Date:2010/09/06
Trackback:0
Comment:6
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

*

組織の論理からいえば加奈子さんに死んでもらうしかない状況だけれど、陽と坂木はそんなこと絶対にやらないだろうしなあ。

どんなふうに事態を収拾して軟着陸させるのか楽しみです(ハードランディングかもしれませんが……)
2010/09/08 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* ポールさんへ♪

なはははは。

ここで加奈子を消さずに逃がしたら、きっとポールさんから「もうOEAはダメだな」と突っ込まれるんじゃないかってビクビクしてました(笑)。

しかし、さすがにlimeさんのお話を熟読してくださっていただけあります。
鋭いご意見で(^^;

ま、この段階で加奈子さんは、陽が何をしてきたのかはまったく知らないわけでありまして。

普通に暮らしている人であれば、例え殺人事件のすぐそばにいたとしても、にわかにはその状況がつかめないもんではないかと思っています。
真夜中にジョギングをしている人を見かけたら、「あぁ、この時間なら涼しいもんね」くらいにしか思わないのが現実じゃないでしょうか。
「あの人もしかしたら、さっき人を殺してきたのかもしれない・・・」なんて思ってその人を見るのは、お巡りさんとミステリー小説家くらいかもしれません(笑)。
2010/09/08 【秋沙 】 URL #- 

*

そうですね、ここでは流石に加奈子を消せという指令は出さないでしょう。あの黒崎でも。(忘れられてる?笑)
逆に足がついてしまうかもしれませんし。

最近、ジョーカーという堺さん主演のドラマを見ていて、キーワードの端々が、白昼夢に似てるなあ・・・とか思ったりしてます。法で裁けない奴らを裁く、仕置き人みたいな感じ。
あの人達、「仕事」を見られたら、どうするんだろう。
・・・あ、最初の目撃者(?)は、仲間にしちゃったな。

「仲間にする」って手もありますね、ポールさん・笑

さて・・・10話も。楽しみにしてます(*^-^*)
2010/09/08 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

黒崎でも・・・ですか?(笑)
黒崎だったら「殺せ」って言うかと思った(^^;

ジョーカー・・・
絶対に白昼夢に似てるだろうと思って見たかったのに、第一回を録画しただけだ・・・(涙)

なるほど、仲間にするという手があったか(笑)
意外に加奈子さん、行けるかもね(^^;
2010/09/09 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* まずいことに…。

あの癇癪持ちの過激派さんがまた黒い指令を出すんじゃないかとヒヤヒヤ…。

加奈子さんも進んで巻き込まれに行ってるしなあ…ハラハラ…陽君と坂木さん、「彼女をどうする」んでしょう?

なんかヤバい気配であります…。
2011/12/01 【有村司】 URL #- 

* 有村さんへ♪

「癇癪持ちの過激派」(笑)。

坂木、どうするつもりなんでしょうね(^^;

もうね、次の章を読んでいただくと、「秋沙にはミステリーは書けない」という事がおわかりいただけるかと・・・(笑)

2011/12/01 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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