もうひとつの「DOOR」

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□ 旅路 □

旅路 (11)

 翌日は、夕べの嵐が嘘のように晴天になった。
空も新緑も、雨に洗われて鮮やかな色に輝いている。

加奈子が目覚めたのは、もう昼近くだった。
答えの出ないことを悶々と考えながら眠った割には、頭がすっきりと冴えている。
この天気のおかげかもしれない。

外の空気が吸いたくてホテルの喫茶店のテラスに出て見ると、坂木が一人、座っていた。

いつもならふんぞりかえって新聞を広げているのに、今日は背中を丸めるようにして何か細かいものをいじっている。
よく見ると、折りたたんだ新聞紙の上にあるのは陽のクロスのペンダントだった。
鎖が切れてしまっているのを修理しているらしい。

『これ以上は立ち入らないでくれ』
『今夜のことは忘れろ』
夕べの坂木の言葉を思い出すと声をかけるのはためらわれたが、陽の具合も気になる。

少しの間、テラスの入り口で加奈子は黙って坂木の様子を眺めていた。

昨晩のことがよみがえってくる。
陽は、坂木がそばに来た途端にその緊張の糸が切れたかのように倒れこんだ。
それを支えて部屋に連れて行き、着替えをさせる坂木の一連の動きは素早く的確で見事だった。

しかし今、くわえタバコで細かい作業に没頭する坂木の姿は、なんとも微笑ましかった。

意を決して、加奈子は坂木の向かいに座った。

「陽さんの具合、いかがですか。」

坂木はちょっと顔を上げて複雑そうな表情を見せたが、またすぐに憮然として作業を続けた。

「あんた、まだいたのか。いい加減に帰ったらどうだ。」

この物言いにも慣れてしまった。ちょっと楽しい気分にすらなってくる。

「夕べ夜更かししちゃいましたから、寝坊しちゃって。・・・陽さん、大丈夫ですか?」

「あぁ。」顔も上げずに坂木は答える。
「今朝一度目を覚ました。水を飲んでまた眠ったがな。熱も下がってきたしもう大丈夫だろう。」

「そうですか、良かった。・・・それ、陽さんのペンダント・・・直りそうですか?」

「・・・・・」

「よっぽど大事にしているんですね、そのペンダント。雨の中で探すなんて・・・」

その言葉に、ぴくっと反応するかのように坂木の手の動きが止まった。
そして、背中を丸めたままぼそっとつぶやいた。

「あいつの・・・おふくろさんの形見だ。」

「えっ・・・? じゃぁ、お母様はもう・・・?」

急に坂木が顔をあげて正面から加奈子を見据え、低く、重い声で言った。
「自殺したんだ。まだ少年だったあいつを残して。」

加奈子は絶句した。胃の辺りに重い石でも乗せられたかのような苦痛を感じた。

坂木はまた手作業に戻りながら続ける。

「あいつの母親はな、人生に絶望して、息子を守ることができない自分にも絶望して、死んでいった。
発見したのはあいつだった。それで・・・あいつは・・・。」

湧き上がってくる感情を押し殺すように、坂木はぐっと手に力をこめて、小さな鎖の部品をペンチで締め付けた。

加奈子はただ呆然と、「心が死んでしまったんだ」とつぶやくように話していた陽を思い出していた。

ペンダントの修理が終わったらしい。
坂木はその一見不器用そうに見える太い指で、つなぎめを確認し、いとおしい物に触れるようにそっと銀の十字架を撫でた。

「それからのあいつは、生きるのも死ぬのもどうでもいいって感じだった。ガラス玉みたいな目をしてやがった。何も求めない何も感じない・・・そういう目だ。俺は・・・あいつに何をしてやればいいのかわからなかった。
ただ、とにかく生きて欲しかった。生きたいと・・・思って欲しかった。」

加奈子の頭が、やっと少し働き始めた。
それと同時に、涙があふれてきた。とめどなく頬を伝って涙がこぼれる。

坂木が、ずっと押し黙ったままの加奈子の顔をちらっと見て少し驚いたような表情をした。
「なんだ?」

「私・・・陽さんの前で、なんてことを・・・」

加奈子は、また自分の自殺未遂を坂木になじられるのではないかと覚悟をしたが、意外にも坂木は穏やかな声で言った。

「あんた、やっぱりそんなに馬鹿じゃなさそうだな。」

「でも、私、なんと陽さんにお詫びしたらいいのか・・・」

涙で言葉を詰まらせると、坂木はだんだんそわそわと落ち着かなくなってきた。

「とにかく、あんたが泣くことはないだろ。陽はそんなに気にしちゃいないさ。
 ・・・俺は、部屋に戻ってあいつの様子を見てくるからな。」
 
「・・・はい。」
加奈子が小さく答えると、坂木はそそくさとホテルの中へ戻っていった。


テラスに一人になった加奈子は、しばらくそのまま涙が流れるのにまかせていた。

今ではあの、崖で助けられた時の陽の言動の意味もわかる。
そして、光に透けてしまいそうな儚い存在感と、裏腹に見せる野生動物のような鋭さの意味も。

自分が陽に投げつけた、無神経な言葉の一つ一つが思い出されて、いたたまれなくなった。
こんなにも自分を恥じたのは、生きてきて初めてだ。

喫茶店のウェイターが怪訝そうな顔をしてちらちらと自分を見ていることに気付いた加奈子は、しかたなく涙をふいて自分の部屋に戻り、ベッドに身体を投げ出してしばらくの間声を殺して泣いた。



少し経って落ち着くと、今度はいろいろなことがクリアに見えるような気がしてきた。

そういえば坂木は、陽を少年の頃から知っているような口ぶりだった。
ただの仕事仲間ではないのだろうか。
それに・・・。

陽が言っていた「僕に生きろと言ってくれた人がいたんだ。その人のためになら死ねる」という言葉・・・。
なんとなく、誰かのために生きていると聞いて恋人などの女性を想像していたが、もしかして・・・。
「とにかく生きて欲しかった」
坂木は確かにそう言った。そして、陽の身体を気遣う坂木の行動・・・。

陽に謝りたい。
そんな気持ちももちろんあったが、それよりも坂木ともっと話がしたい、と加奈子は思い始めていた。

一昨日の晩、バーでさんざんな言われようだったことも、今思い出してみるとその通りだったかもしれない。
あの人は・・・陽を生かした。そして、私にも何か大事なことを教えてくれたかもしれない・・・。


気付けば、もうだいぶ日が傾いていた。
海がきらきらと黄金色に輝いている。加奈子はあの崖の上の遊歩道を歩いてみたくなった。

ここの海は、いつでも荒波がたっている。
海から吹き付ける強い風を受けながら、加奈子は自分も波と風に洗われていくような気がした。

陽に助けあげられたあの場所に立ち、柵のこちら側から海を見下ろしてみる。
白く泡立つ波は、相変わらず見ているだけで吸い込まれそうな気持ちにさせる。

だが今の加奈子は、しっかりと地面に足をつけて立っている、そんな気がした。

(馬鹿みたいだわ。あんなことで死のうとしたなんて。もう、優一のせいにも、若菜のせいにも、あの女のせいにするのもやめよう。
 自分勝手で、ちっぽけな世界で自分ばかりかわいそうだと思っていたんだわ、私。)
 
そんなことを考えて、なんとなくクスッと一人で笑った。
その場を離れようと振り向くと、あの時と同じちょっと離れた場所に陽が立っていて、やはりあの時と同じようにたばこをふかしていた。

(いつのまに・・・この人は足音ってものがないのかしら。)

謝らなくては。
そう思って近づいていったが、すぐには言葉が出てこなかった。
やっと
「具合は良くなったの?」
とだけ尋ねた。

「うん、もう大丈夫。」
陽は涼しい顔で答えた。

「こんな海風にあたって大丈夫なの? あんなに熱を出していたばかりなのに。」

陽は、
「もう横になってるのも飽きちゃったよ。」
と言うと、いたずらっぽい目をしてにっこりと笑った。

「そう・・・? あ、あの・・・私・・・あなたに謝らなくちゃと思って・・・」

「ん? あぁ・・・もういいんだよ、そんなの。坂木さんから聞いた。
 坂木さん、貴女が泣き出しちゃったからどうしたらいいかわからなくなって、さっさと部屋に戻ってきちゃってさ。どうやってなぐさめていいかわからなかったんだよ、あの人。意外に女性の前に出ると照れ屋なんだよねぇ。」
 
陽はくすくすと楽しそうに笑っている。
加奈子は、肩の荷が軽くなったような安心感を覚えた。

「じゃ、僕はそろそろ戻るね。坂木さんに“病み上がりなのに無茶するな”って怒られちゃうから。」

立ち去ろうとする陽に、加奈子は思わず声をかけた。

「あ、あの、陽・・・さん。あなたが“その人のために生きている”って言ってたのは・・・」

立ち止まった陽は、ゆっくりと振り向いた。そしてまた少年のように微笑んだ。
「そんなこと言ったら“ばかやろう!自分のために生きろ!”って怒られそうだから、内緒にしてね。
 その人はきっと、今夜もホテルのバーで飲んだくれてるかもしれないね。」

加奈子も、思わず微笑んだ。
「大好きなのね。」

陽はそれには答えず、くるりと丸い目を動かすとホテルのほうへ立ち去っていく。
ウェーブのかかった髪が、夕陽に照らされてオレンジ色に輝いていた。


・・・・・つづく





 かなり無理やりな話の進展のさせ方ですね(^^;

でも、まぁ、ペンダントを修理している坂木の姿は、お気に入りです(自画自賛)ポリポリf^^*)

私、人間は誰もが「灰色」のほうが魅力的だしぐっと現実味があると思っていまして、ドラマなんかで最初は意地悪で嫌なやつだったのが途中からころっといい人になっちゃって可哀想な境遇の主人公の味方になっちゃうような、安易で極端な展開が大っ嫌いなんですが・・・

まさにそれじゃん( ̄□ ̄;)!!


すみません・・・力不足を感じます・・・。

あと2話です。

う~む、次回作の執筆が間に合わない・・・。




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Date:2010/09/13
Trackback:0
Comment:11
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

*

うんうん、私も、一生懸命背中を丸めて鎖を修理してる坂木が大好き♪
秋沙さんの坂木は、とにかくかわいいんですよね。
不器用で、素直じゃないけど、嘘がつけなくて。

加奈子はもともと悪い人間じゃないから、素直になっても全然おかしくないですよ。
私はねえ、加奈子みたいな女性を描くことができなかったから、このお話とっても楽しく読ませてもらいましたよ。
あと二話!新鮮な気持ちで読むぞ~!
2010/09/13 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

*

あと2話ですか。

ちょっと坂木さんしゃべりすぎのような気がしましたが、まあ隠すところは隠していますね。そこらへんの処理はうまいと思いました。

あとは、加奈子さんが秘密を胸に秘めて生きていくタイプの人間かですね、問題は……(^^;)
2010/09/13 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* limeさんへ♪

limeさんが描くような、素敵な女性がなかなか書けないんですよねぇ。

李々子にしても、長谷川さんにしても、ほんと魅力的。
あぁ・・・「サクラ」のノゾミも好きだったなぁ。

あたしが書く女性は、深みがないったら・・・(^^;
自分に似るのかな(笑)
2010/09/15 【秋沙 】 URL #- 

* ポールさんへ♪

なにげにお人よしというか、嘘がつけないまっすぐな人なんでしょうねぇ、坂木って。

狂言自殺をした加奈子に、陽という人物の前でそれをやろうとしたという意味を伝えたかったんでしょう。
ま、現在の仕事のことには触れてないから、よしとしてください(^^;

で、加奈子さんですが・・・
秘密を胸に秘めていけるようなタイプじゃなさそうですねぇ(笑)
でも、ほら、何をどう秘密にしていいんだか、さっぱりわかってませんから、今のところ(^^;
2010/09/15 【秋沙 】 URL #- 

*

いや、なんとなく、加奈子さんって、油断していると、

「あたし、○○っていうホテルで、陽っていういかした子と、それにくっついている変なおじさんに逢ったのよ。そうしたらさあ、陽くん、ホテルにずぶぬれで帰ってきたのよ。黙っていてくれって。きっとわけありなのね。新聞で読んだんだけど、あのあたりで事故もあったみたいなのよね。陽くん、あんな目に遭わなくてよかったわね~」

なんて中年女性みたいなセリフを、ぽろっとどこかで漏らしてしまいそうな気がしまして(^^) 松本清張なんかではそこから「鬼刑事の粘り強い執念の捜査」が始まるのがパターンでして(^^)

まあこの場合は組織が裏でもみ消し工作をしてくれるし完全に事故に見せかけているだろうから大丈夫でしょうけどね(^^)

もしかしてわたし変なミステリの読みすぎ?(^^;)
2010/09/15 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* ポールさんへ♪

だはははは。

そ、それはもしかすると、変なミステリというよりは、2時間サスペンスの見すぎ・・・?(笑)

加奈子さんってそんなに軽薄でお馬鹿に見えます・・・?(泣)


変なミステリとか変なハードボイルドを読みすぎている私は、
きっと、OEAはこれだけの組織なので、その気になれば警察のお偉方の一人や二人、まるめこむこともできるんではないかと思っていますよ。
いや、すでに、警察の内部にも組織に絡んでいる人間がいるんじゃないですかね。
んじゃなきゃ、これだけの事やってる組織なのに、警察に捕まって足が付くってことがないなんておかしいですもん(笑)。


話がそれましたが、加奈子がそんな女じゃないことを祈っていてください(^^;
2010/09/15 【秋沙 】 URL #- 

* 徐々に秘密が分かっていく過程

そういうstory展開好きです。何しろ、fateはサスペンス系が大好きで、犯人は誰? 動機は? とわくわくする性質なので(^^)

それに、謎は謎のままであんまり気にならないのだ。
なんというのか。
最近、ショートショートを読みなれて、あれって、前後のstoryがすっぽり抜けて、その一画面だけを語るモノなので、前後は勝手に想像して楽しむ、ということを覚えたので。
それに、最後の最後の秘密って、じらして明かすか、秘密のままにしておくか。それは作者さまと読者の信頼度みたいなものの気がして。

‘仕事’内容って、簡単に明かしてはいけません。
特に、世間的に秘密なものは!
これはこれで、一つの完成した世界ですし、fateはここで恋愛論に酔ったり、明かされる陽さんの過去に絶句したり、実はこの二人の男はものすごくお互いを大事に思ってたんだ…ということに感動したりしております。

裏稼業って、どこにでもありますね~
表裏の顔を持っている人間も。
そういう世界には無条件に反応するので、明かされなくても、とてもゾクゾクして楽しいです。

あと少し! (2話?)なんか終わってしまうのは残念ですが、またお邪魔いたします!


2011/11/10 【fate】 URL #- 

* fateさんへ♪

この前の章で、なんとなく陽と坂木の「仕事」はわかってきたかもしれないですね。どうでしょう?

あぁそうか、坂木と陽がお互いを大切にしていること、「白昼夢」未読のfateさんにはあまりわからない事だったですね?
そうですよねぇ、いつも憎まれ口叩き合ってばっかりですものね、この二人(^^;
うおー新鮮だ。
なぜこんなにも、お互いが大切なのか、ということについては、いつかlimeさんの本編でじっくりと謎解きしてくださいね(^^)

終わってしまうのがもったいない・・なんて言っていただけるだけでもう感涙ものです。
2011/11/12 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

ペンダントを一生懸命修理する坂木さんいいなあ…^^

加奈子さんも本来の賢さが戻ってきたようですね。

あと、何気にスルーしてたんですが、陽君タバコ吸うんだ!?

でも、この「旅」もあと二話ですね…なんか寂しくなってきました。

(骨董屋今日も開店してますw)
2011/12/03 【有村司】 URL #- 

* No Title

そう、陽はタバコ吸うんですょ^^
(なぜか突然割り込むlime.)
結構気に入ってるんです。タバコを吸う陽。

坂木には「吸いすぎるな」っていうくせにねえ。
もしかしたら、坂木に合わせてみたのかな。
ねえ、秋沙さん^^
2011/12/03 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* 有村さん & limeさんへ♪

おお、ちょうど返信しようとしたらlimeさんが!(^^)

そうなんです、タバコ吸うんですよね、陽。
私の書くスピンオフは、「月」でも「旅路」でもタバコを吸う陽が出てくるんですが、最初、私も「陽ってタバコ吸うっけ・・・?」って悩みました(笑)。

実は私自身がヘビースモーカーなのもありますし、タバコを(かっこ良く)吸う男性が好きでして(*^_^*)
「たしか吸ってたはずだ!」ってもう一度limeさんの白昼夢シリーズを目を皿のようにして読み返して、タバコを吸ってるシーンを探しちゃいました(笑)。

そうですね~。
きっと、坂木と一緒にいるうちに吸ってみようかなって思っちゃったんでしょうね(笑)。
でもたぶん、そんなに本数は多くないですよね。
仕事があんまり無いときとか、ちょっと一息入れたい時とか、気分転換に少しだけ吸うぐらいのようなイメージですけど、どうでしょlimeさん(*^_^*)
2011/12/03 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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