もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第一部 □

濃緑の葉 1 (くちなしの墓・第一部)

 街路灯の白い明かりに照らされながら、二人の男が歩いていた。
半袖のシャツでは少し涼しいが、梅雨の湿気を含んだ空気が肌にまとわりつく。
 
その先のゆるい坂道を下って路地を2本ほど横切れば、深夜でも眠らない喧騒の街があるとは思えないほど、高級住宅街は静まり返っている。
まだ、さほど遅い時間でもないが、高い塀や生け垣に囲まれた屋敷から時折飼われている犬の吠える声が響くくらいだ。

先を歩いていた背の高い、若い男がふと、空を見上げて言った。
「降り出しそうだよ。少し急ごう。」
くるくるとしたウェーブの髪が湿気を含んでいるのを気にしている。

後ろを歩いていたがっしりした体型のヒゲにメガネの男は「あぁ」と気の無い返事をして、大気の中の湿り気を確かめるように大きく息を吸い込んだ。
そのとき、どこかの家の生け垣からだろうか、クチナシの花の香りが男の鼻腔をくすぐった。

その刹那、男はまるで電気に撃たれたかのように立ち止まり、宙を見上げて動かなくなった。
声にならない声が漏れる。

「小夜子・・・。」

姿は見えないのにむせ返るほど甘い花の香りとともに、男の脳裏にフラッシュバックのように様々な画像が思い出されては消えていく。

先を歩いていた青年が振り向いて立ち止まり、男に声をかけた。

「坂木さん? どうかした?」

男はハッとして、
「いや、なんでもない」
と答えると、また重い足取りで歩き出した。


◇      ◇      ◇      ◇
      



 風に乗ってかすかに、祭囃子の笛や太鼓の音が聞こえる。

壮太は、扇風機の風をいっぱいに受けて、畳の上にひっくりかえっていた。
白いランニングシャツと短パン姿で、日焼けした逞しい足や腕を投げ出している。
今日はラグビー部の練習も無い。


「壮ちゃん! 壮太!」
階下から祖母の呼ぶ声がする。
壮太は大儀そうに起き上がると、古い階段を軋ませて祖母の声のするほうへ下りていった。

台所に入ると、祖母が薄茶色の油紙で包んだものを差し出した。

「今週はうちがお稲荷さんの当番なんだけど、ばあちゃん、今日は膝が痛くてなぁ。
壮太、あんた代わりにお稲荷さんに油揚げ、供えてきてくれんか。ついでに神社のお祭りにでも行ってきたらええ。」

「祭りなんか。子供じゃあるまいし。」

「まぁそう言わんと。友達も行ってるかもしれんしなぁ。とにかく、油揚げ頼むわ。」

壮太はしぶしぶ包みを受け取って、自転車にまたがった。

ノロノロと漕いで通りに出ると、はしゃいだ様子で神社へ向かう浴衣姿の子供たちが追い越していく。
祭囃子がだいぶんハッキリと聞こえるようになってきた。

途中から、神社に向かう人波とは反対方向に向かう。
民家や小さな商店が並ぶ路地の一角に、周りを生け垣に囲まれた祠があった。
この地域の人達に昔から守られてきた「お狐様」だ。
壮太は自転車を置き、腕にとまろうとする蚊を叩きながら小さな赤い鳥居をくぐって入っていき、油揚げを供えるとぞんざいに手を打ってそこを離れようとした。

そのとき、「壮ちゃん?」と生け垣のほうから声をかけられた。
見ると、幼なじみの小夜子が立っている。
手に団扇を持ち、紺地に白く桔梗の花を染め抜いた浴衣を着た小夜子は、いつものように穏やかに微笑んでいた。
高校を出て地元の小さな会社で事務員をするようになってから、妙に大人っぽくなったように壮太には見える。
白いうなじがまぶしくて、壮太は小さく「おう」と答えながら目をそらした。

「今日は壮ちゃんちがお稲荷さんの当番?」
「あぁ」
「お祭り、行かないの?」
「あぁ。待ち合わせか?」

壮太の問いかけに、小夜子はほんのりと頬を赤らめてうつむきながら答えた。
「うん、梶田君と。」
「そうか。」


梶田は、小夜子の恋人であり、壮太の親友でもあった。
それだけではない。壮太にとって梶田は、口に出してこそ言わないが「恩人」のようなものだ。
今、壮太が奨学金をもらって大学でラグビーをしていられるのも、高校時代に梶田がラグビー部に壮太を誘ってくれたおかげだった。

幼い時に両親を亡くし祖母に育てられた壮太は、中学生の頃は悪い友達ばかりと付き合っていた。
ケンカやカツあげ、タバコ。酒に酔って、仲間内の年上の女に体の相手までさせられた。
ただ、勉強は割とよくできるほうだったので、中学3年生の時の担任の教師は、熱心に壮太を進学させようと試みた。
壮太は、その熱血教師に「お祖母ちゃん孝行をしてやれ」と説得されて受験勉強に一念発起、そこそこの進学校へ進むことができた。

しかし、高校に入った壮太は孤独だった。
中学生時代の評判は他の中学校にまで知れ渡っていたので、クラスメートの誰もが壮太を怖がって敬遠していたのだ。
始めのうちこそ気にせずに勉学に集中しようとしていた壮太だったが、次第につまらなくなっていき、また昔の仲間との付き合いが戻りかけてきていた。

そのまま高校時代最初の夏休みを迎えていたら、確実に壮太はまた以前のように不良仲間と夏を過ごし、退学処分を受けるほどの悪さをしていただろう。
しかし、夏休みに入る前日の放課後のことだった。
クラスメートの梶田が突然、帰り支度をしている壮太に話しかけてきた。
梶田はクラスメートの中で一番背が高く、がっしりと肩幅が広くて顔も二枚目、そしてさわやかで明るい性格だった。

「お前、ラグビーやってみないか?」
「あぁ? ラグビー? そんなもん、ルールもなんも知らないぞ。」
「お前の得意なケンカだと思ってやればいい。ルールなんてその後だ。
 この学校は進学校でおぼっちゃんが多いからな。なかなか根性のあるやつが揃わないんだ。
 お前、いい体してる。ケンカにばかり使うのはもったいない。」
 
どうせ、不良仲間と遊んでいてもケンカに明け暮れる毎日だ。
それに、進学校へ入ったことでその仲間たちからもなんとなく白い目で見られていて面白くなかったところだ。
あまり深く考えもせずに、壮太はその日、梶田に連れられてむっとするような男臭さの漂うラグビー部の部室についていったのだった。



「あの・・・壮ちゃん?」

小夜子の声に、回想から我に返った壮太だった。
「あぁ?なんだ?」

「今度の試合・・・見に行くね。」

「あぁ。」

梶田はまだだろうか。
なんとなく、小夜子を一人残して立ち去るわけにも行かず、壮太は祭りに向かう人の波に視線を泳がせていた。
子供の頃は、何も考えずに小夜子と二人で遊んでいたのだが、今は何を話していいかわからない。

「あ・・・。いい香りがすると思ったら。」

小夜子が、生け垣に歩み寄りながら声を上げた。

「くちなし・・・まだ咲き残ってたんだ。」

薔薇のようにも見える白い八重咲きの花をみつけ、うれしそうに小夜子はかがみこんでいる。

言われてみれば、先程から甘い香りがほのかに空気に溶けていた。

「あたし、くちなしの花って一番好き。本当は、一重咲きのほうが好きなんだけど。」

確かに、一重咲きで、清楚な六弁の花びらをつけた白い花は、小夜子によく似合う・・・と壮太はぼんやりと考えていた。
子供の頃からそうだった。
時々、その白い花を髪に飾って遊んでいたこともあったのを、壮太は覚えている。

中学生の頃だっただろうか、妹のように思っていた小夜子が、突然美しい女性に見えてどぎまぎしてしまったあの日も、小夜子は髪にクチナシの花を挿していた。

「おう。待ったか。」
その声に壮太と小夜子が振り返ると、赤い鳥居の下に梶田が立っていた。
日焼けした顔に、白い歯をのぞかせて微笑んでいる。
ラグビーの練習中には決して見せない、優しい表情だ。

「ううん、今来たところ。」

小夜子がぱっと表情を明るくして答えている時、梶田は壮太に気付いた。

「おう、壮太も来てたのか。祭り、一緒に行くか。」

「いや・・・俺はいい。」
ぶっきらぼうに壮太が答えると、
「一緒に来ればいいのに・・・」と、小夜子が同意を求めるように梶田をちらっと見ながら言う。

梶田は笑いながら、
「なんだ? 気を遣ってくれてるのか?」と冗談めかして言う。

「そうだよ。邪魔者は消えるよ。仲良くデイトしてくれ。」

「はっはっは。そうか?悪いな。じゃぁな。小夜子、行こう。」

屈託なく笑って、梶田は小夜子の手を軽く引いて歩き出した。

「え? うん。ごめん、壮ちゃん。またね。」

「あぁ。」と小さく答えた壮太に、梶田は片目をつぶって見せると、祭囃子の方へ向きを変えた。

壮太も素っ気無く自転車にまたがって、家のほうへと漕ぎ始めた。

少し行ってから、そっと壮太は二人の方を振り返ってみた。

梶田は、小夜子を優しいまなざしで見下ろして、先程のくちなしの花を小夜子の髪に飾っていた。
小夜子は、団扇で口元を隠しながら、節目がちに梶田にされるがままになっている。
その頬は、幸せに輝いているように見えた。

少しの間二人を眺めていた壮太だったが、急に踵を返すと全速力で自転車を漕いで家に帰り、まっすぐに部屋に向かうとまた、黄色く焼けた畳の上にひっくりかえった。



つづく




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Date:2010/11/14
Trackback:0
Comment:15
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

始まりましたね。
初っ端から甘すっぱくて、切ない予感。
古い映画のような情景がいいんですよね~。
進んでいくうちに悲しい展開がまっているんでしょうか。
いえ、今はだまって、初々しい恋を眺めていますね。

そうだ、こんなふうに、ちょこっと陽が出てくるんだ♪
2010/11/15 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

前にお話しましたが、時代考証がめちゃくちゃですね(笑)。
私の頭の中には、なんだか昭和初期みたいな情景が繰り広げられちゃってて(^^;

いやいや、坂木はそんなに年寄りではないはず・・・と、必死になって現代に近づけるようにしております。

祭囃子が遠くから聞こえてくる夏の情景・・・大好きなんです。
夏が好きってわけでもないんだけど、そういう「日本の夏」っていう感じの情景を感じていただけたらうれしいです。


そうそう、今回は陽はちょこちょこと登場。
いつにもまして、とらえどころのない陽の言動です(^^;
2010/11/15 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

どこから坂木くんが暗黒街に足を踏み入れることになるのか楽しみです。

たぶん、今度の坂木くんと陽くんの標的は梶田なのではないかと思いますが……(わたしの先読みは常に外れる(笑))
2010/11/15 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* こんにちは^^

いよいよ始まりましたね^^

なんと言いますか・・・「金鳥の夏・日本の夏」のCMが頭に浮かんできた今回のお話。
ちょうど、昭和30年・40年代辺りの匂いがプンプンしてます。

クチナシの香りから始まった今回の回想録。
どんな道を辿ってどこへ辿り着くのか・・・・楽しみですv-290
2010/11/16 【】 URL #9dnUgMTg [編集] 

* ポールさんへ♪

そうですねぇ。
坂木がOEAに入るきっかけまで、ちゃんと書き切れればわかると思いますが(笑)

ほほう・・・ターゲットは梶田・・・
面白い(V)o\o(V)ふぉふぉふぉ
2010/11/16 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 蘭さんへ♪

なかなか、蘭さんのブログにコメント残せなくてごめんなさ~~い。
2~3日おきにまとめて読ませていただいてるんですが(^^;


金鳥の夏、確かに!!(笑)
時代を感じていただけでうれしいです~(^^)

どこへたどり着くのか・・・作者の私も非常に不安なのでありますが(ダメじゃん)、頑張って書いていきますのでよろしくです~。
あ、陽がちょこちょこしか出てこなくてごめんなさいね(^^;
この後、ほとんど出てこなくなっちゃいます(笑)
2010/11/16 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 素敵です!

なんか、重松清の作品を読んでいるようで、その懐かしくも温かい世界観のようなものに感嘆しました。
こういう、ごく普通の日常をこんなに清らかに描ける技術が羨ましいな!と思います。
fateは現実を生きてないせいか、現実に根ざしたstoryが描けないようですな。
続きを楽しみに、またお邪魔いたします!
2011/10/19 【fate】 URL #- 

* fateさんへ♪

早速のご訪問、ありがとうございます(^^)

重松清。。。読んだことがないんですが(ごめんなさい、ホントに私勉強不足で)そんな有名な作家に例えてくださって恐縮ですm(_ _)m

いや、しかし、今読み返してみると、やっぱり連載のはじめなのですごく力をいれて書いてます、まだこのあたりは(^^;)

現在第二部を連載中なんですが、だいぶ描写が雑になってきちゃいました・・・反省\(__ )
ゆっくりゆっくり更新していますので、お時間のあるときにでもちょっと覗いてみてくださいね~。
2011/10/19 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

うふふ・・・
遅ればせながら・・・ついに、こちらにお邪魔です。
これからの展開が楽しみです^^

2011/10/22 【けい】 URL #- 

* けいさんへ♪

ありがとうございます♪

まだ未完のお話なので、すぐに追いつかれてしまうと思いますが・・・(^^;)

それに、いっぺんに読むと、だんだんに文体が変わってきちゃっているのもバレるかなぁ、と不安ですが、よろしくお願いしますm(_ _)m
2011/10/23 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

訪問をありがとうございます。

文章がとてもいい流れで読みやすかったです。
坂木の甘酸っぱい思い出なのか、それともですね。
祖母、神社、祭り、ライバル、幼なじみ・・・
そのファクターだけで燃えますなぁ~
また読みに来ます。

ポチして帰ります。
2011/11/07 【ぴゆう】 URL #- 

* ぴゆうさんへ♪

うわぁぴゆうさんΣ(´∀`;)
ご訪問ありがとうございます!
わたくし、ぴゆうさんの所にコメントを残さずに読み逃げしてしまったというのに・・・(ToT)
そ、それについての言い訳は後ほど、ぴゆうさんの所に・・・(^^;

「読みやすい」とおっしゃっていただけるのは、何より嬉しいです。
一章がとても長いし、どうしても説明的な文章が多くなる癖があるので、読みにくいのでは・・・というのが常に気になっておりまして。

またいらしてください♪お待ちしております(^^)
2011/11/07 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2011/11/07 【】  # 

* No Title

こんばんは。

ついに「くちなしの墓」にたどり着きました。
くちなしは私も大好きな花です。

が…何だか悲しい思い出の象徴のようで…。
2011/12/10 【有村司】 URL #- 

* 有村さんへ♪

よくぞここまでたどり着いていただきました、ありがとうございますm(_ _)m

はい、このお話、私の書いたものの中で(ってまだ3作目ですが)最も重い内容になっております。

細かい描写にこだわってみたり、いろいろなつじつま合わせで説明的になったり、紆余曲折しながら自転車操業で書いておりましたので、読みにくいところや中だるみと感じられるところも多々あるかとおもいます・・・。

おそらく、今月中に連載が終わる予定ですが、ゆっくりと、有村さんのペースで読んでいただければ、それだけで嬉しいです(^^)
過去の坂木の姿の「壮太」。かわいがってやってくださいね(^^)
2011/12/11 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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