もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第一部 □

濃緑の葉 4

 寝苦しい夜だった。
 
古いビジネスホテルのエアコンは、「適度に」という言葉を知らないようだ。
つけておけば寒くなり、消せば梅雨のむっとする暑さと湿り気があっという間にこもってしまう。

坂木は何度も脈略のない、途切れ途切れの夢を見ては目を覚ましていた。
覚醒したときに、なぜかいつも白い六弁の花のイメージだけが頭に残っている。
隣のベッドでは、陽が静かな寝息をたてていた。

眠ることを諦めてタバコの箱に手を伸ばしたとき、遮光カーテンの隙間が異様に赤いことに気付いた坂木は、窓辺に歩み寄って空を眺めた。

まるで東の空が燃えているような、朝焼けだった。

「今日も蒸しそうだな。」
小さく独り言をつぶやくと、陽のベッドで衣擦れの音がした。

やがて、「もう起きてたの?」と眠そうに陽が声をかける。

「起きたと言うより、眠れなかったんだよ。」

不機嫌に坂木が答えると、陽はベッドに起き上がった。
「じゃぁ、これから少し眠ったら?僕は先に本部に行くよ。
 辰巳さんに電話で頼めば、許してくれるんじゃない?
 坂木さんは今日の午後からフリーなんだし。」

「なんだって?」

(今日がフリーだなんて聞いてないぞ。
 じゃぁ、なんだって朝早くから本部に出向かなくちゃいけないんだ?
 次の仕事の指示を、陽と二人で聞くためじゃないのか?)

坂木が寝不足の頭でぐずぐずと考えていると、陽が説明した。

「本部に行った後、僕はそこからべつの人と仕事に出かけるらしいよ。」

「なんだそりゃ。他のパートナーと組むって事か!?」

「うん・・・今回だけね。第二支部の仕事なんだ。」
陽が坂木から少し目をそらして言った。

坂木がハッと息を呑む。

陽はそれから無言で身支度を始めた。
坂木も押し黙ったまま、ベッドに腰をかけてタバコを吸っていたが、
そのうち不貞腐れたようにまたベッドに横になった。

しばらくすると、陽が声をかけた。
「そろそろ行く時間だけど・・・眠るんだったら辰巳さんに電話したら?」

陽に背を向けたままの坂木が答える。
「誰が辰巳に頼みごとなんかするか。お前が先に行ってうまいこと説明すればいいだろ。」

陽は小さくため息をつくと、
「わかったよ。辰巳さんに言っておく。でも夕方までには本部に顔を出してね。
 ・・・おやすみなさい。」
と静かに答えた。

それから黙って身支度を整えたらしい陽は、一人、そっと部屋を出て行った。

パタン、とドアの閉まる音を背中で聞いてから、坂木は独り言を言った。

「くそっ。なんで辰巳は第二支部の仕事なんかもってくるんだ!?
 他のやつにやらせりゃいいじゃないか!」

第二支部は、小さな地方都市にある。坂木が育った街だ。
今、第二支部は街外れにある使われなくなった鉄工所の建物を使っていると辰巳に聞いたことがある。
顔見知りに会ってしまう事を避けるために、そこの仕事は坂木にはまわってこないという暗黙の了解があった。

しばらく無理やりに眠ろうと目を硬く閉じていた坂木だったが、やがて毛布を蹴散らすようにイキオイ良く起き上がると、エアコンの温度設定を思い切り下げて、またベッドの中に潜り込み毛布を頭まで被った。



     ◇      ◇      ◇      ◇      
     
     
     
 壮太は、父親のことはあまり覚えていない。
 
父が生きていた頃は、今の祖母の家から列車で三十分ほど行った街に母と三人で暮らしていた。
日本有数の鉄工所の町で、父もそこの工員だったらしい。

おぼろげに残る父の記憶と言えば、酒に酔って母や壮太に何か怒鳴っていた姿だけだ。
母は明るく朗らかな女性だったが、父親の前では決して歯向かう事が無かった。

いつか身体が大きくなって力をつけたら父親を殴ってやる、と幼い頃から壮太は思っていたが、父は酒の席で卒倒してあっけなく帰らぬ人となった。

そうして母は、まだ小学校に上がったばかりの壮太を連れて実家に戻ってきた。
祖母は、亡くなった祖父の遺したわずかばかりの土地を売ってどうにか一人で暮らしていたが、娘と孫の生活まで面倒をみられるほど豊かではなかった。
仕事に出た母は、もともとあまり体が丈夫ではなかったのか日に日に弱くなっていき、
二年程で儚い人となってしまった。

小さな町のことなので、壮太の家の事情は知れ渡っていた。
祖母は人付き合いもよく隣近所からも好かれていたので、初めのうちこそ大人たちは壮太に同情的だった。

しかし、子供たちは残酷だった。
親のいない壮太を馬鹿にしたり除け者にしたりする。
壮太は母が亡くなった時にも人前で涙を流したりしなかったが、自分を馬鹿にするものには容赦なく立ち向かって行った。
そういった喧嘩が何度か繰り返されるうち、次第に普通の友達はあまり近づいてこなくなり、大人たちも祖母にこそ今までどおり接するものの、壮太には冷たい視線を向けるようになっていた。

ただ一人、小夜子だけは違っていた。

小夜子もまた、両親を事故で失くし、祖父母に育てられていた。
明るい性格と比較的裕福な家庭のおかげか、壮太ほど仲間はずれにされたりすることはなかったものの、やはり友達は少なかった。

小さな町工場を興し、今も現役で働く祖父母は壮太の祖母と昔馴染みだったので、壮太と小夜子はよく祖母に連れられて互いの家を行き来していた。


ある日、小学校の帰り道で、近所の悪がきどもに小夜子が囲まれて、親の無いことを罵られている場面に壮太が遭遇したことがある。
小石を投げつけるものまで出てきたところを見た壮太は、一心不乱に悪がきたちに立ち向かい、自分も傷だらけになりながらも、4~5人の相手が泣きながら逃げていくまでなぎ倒していった。

その事があってから、小夜子はよく黙って壮太の後をついてくるようになった。
照れ隠しに、壮太はわざと険しい藪の中の道を登っていったりしてみたが、懸命に追ってくる。
ひざこぞうをすりむいたりしながらも食い下がってきて、壮太がちょっと気になって様子を見に戻ると、にっと白い歯を見せて笑ったりする。
そんな時は壮太も観念して、小川で一緒になって小魚をつかまえたり、雑木林の中で木の実を集めたりと言うような他愛のない遊びを二人でして過ごした。

さすがに中学生になった頃から二人で遊ぶことはなくなったが、度々壮太の祖母を訪ねてやってくる小夜子と、顔をあわせればぶっきらぼうながら話をする仲が続いていた。
壮太が悪い仲間と遊び歩いて近所から白い目で見られるようになっても、小夜子の態度は変わらず明るかった。


高校生活最後の夏休みが終わりに近づいていた。

推薦入学を取るためには、受験勉強ほどではなくともある程度の成績を収めていなければならない。
壮太も梶田も、ラグビーの練習と勉強で忙しく、あまり話をする余裕がなかった。

結局、あの公園での会話以来、梶田と壮太の間で小夜子の話題が出ることは無いままだった。


ある蒸し暑い夕方。
急激に空が雲に覆われてぽつぽつと雨が落ちてき始めた中を壮太が部活動から帰宅すると、小夜子が祖母を訪ねてきていた。
いつものように、榊の枝を持ってきたのだろう。

「壮ちゃん、おかえり」
二人が声を揃えて言うのに「あぁ」と無愛想に答えて壮太が二階へ上がろうと階段に足をかけたとき、外ではざーっと雨の音が激しくなった。

「あぁいけない。降り出しちゃった・・・。」
小夜子が困惑したような声を出している。
「夕立だろうからじきに止むのと違う? まぁゆっくり雨宿りしていきなさいな。」
祖母がのんびりと答えてるのを聞きながら、壮太は自室に入った。


「壮太! 壮太!」
階下から呼ぶ祖母の声で目が覚めた。
教科書と格闘していた壮太だったが、練習の疲れからかいつの間にか机に突っ伏して眠っていたらしい。

のろのろと起き上がり、すっかり夕闇で暗くなった部屋から明かりの灯る客間に下りていくと、まだ小夜子がいた。

「雨が上がるのを待っていたら、すっかり暗くなっちまったからね。壮ちゃん、あんた小夜ちゃんを送って行っておやりよ。」
「大丈夫だって。一人で帰れるから、私。」
「いかん。夜道を年頃の女の子一人で歩かせるわけにはいかん。」

小夜子がちらりと壮太を見る。

壮太は目だけで小夜子に「行くぞ」と合図を送って、先に立って玄関を出た。

群青色に沈む景色の中に、水溜りだけが時折家々の明かりを映して鏡のように光っている。

壮太は自転車を押しながらゆっくりと歩き、小夜子も歩調を合わせてついてきていた。

時折小夜子がラグビーの事や勉強のことを話しかけるのだが、どれも会話になるほどは続かなかった。
小夜子も、いつもより口数が少ない。

雨上がりの空気の中に、クチナシの甘い香りが溶けている。
行く先に「お狐様」の赤い小さな鳥居が見えてきた頃、小夜子の足取りが段々に遅くなってきた。何も話しかけてもこない。
どうしたのだろうと思いながらも、壮太はその歩調に合わせて速度を緩めながら、小夜子の少し先を自転車を押しながら歩いていた。

「あの、壮ちゃん?」

鳥居の前まで来たときに、小夜子が口を開いた。


   (つづく)





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Date:2010/11/23
Trackback:0
Comment:9
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

次の回ではどちらにとっても残酷なやりとりが交わされるんでしょうなあ……。

読むのがちょっと怖かったりして(^^;)
2010/11/24 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* ポールさんへ♪

ふっ、ふふふふ・・・( ̄ー ̄)
さぁどうでしょう。

なんせ、あまりに純真で鈍感ですから、二人とも(^^;
2010/11/24 【秋沙 】 URL #- 

* ああ、更新されてた!

壮太と小夜子はそんな風に出会ったんですね。
強い絆だ・・・。
それなのに、上手いこといかないもんですねえ。
小夜子の言葉を聞くのが辛いです。
壮太が鈍感でよかった(^_^;)

それにしても、現代の陽が気になる。
坂木を置いて、どこいくんだ~~。
そうか、第2支部は坂木の故郷・・・・。
そんな偶然もありますよね。
(でも、私が扱ってない第2支部を出してくるあたり、さすが!!!)
2010/11/24 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

幼馴染がそのまま結ばれるってことは、あんまり無いのが世の常でしょうねぇ(^^;
でも大丈夫です。
今の時点では壮太も小夜子も、かなり鈍感です(笑)。

第二支部、今までの白昼夢シリーズをひっくり返して確認しましたよ~?
出てきてないかな?って(笑)
さて、これは偶然でしょうか、必然でしょうか。

とりあえず、陽は一人で行っちゃったのでしばらく出てこないことでしょう(^^;
このへんが悩みどころなのです。
相変わらず、先が書けずにおります。どうなることやら(^^;
2010/11/24 【秋沙 】 URL #- 

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2011/11/12 【】  # 

* No Title

陽のベッドで衣擦れの音がした。
もーーーーそこだけで涎が出てるのは罪かしらん。
キャハハハ

壮太のぶっきらぼうな
少年と青年の間ミタイナ微妙な年頃。
初恋とは認めたくなかったんだろうな。
認めたら負けみたいに。
グッと来るわ。

小夜子、昔のトップモデルを思い出します。
唯一、ブランドを選べた日本人のモデル。
山口小夜子。
この小夜子もおかっぱかしらね。
2011/11/12 【ぴゆう】 URL #- 

* ぴゆうさんへ♪

あははは~~~
そこに反応する方がいらしたとは!!(笑)(笑)
もしかして、陽はハ○カで寝てるとか想像しちゃってないですか~~~?ちゃんとスウェット着てますからね!!(^^;

壮太は認めたくなかったと言うより、本当に純粋すぎて気づいてなかったのかもしれません(^^;
にぶいなぁ壮太(笑)

おお、山口小夜子さんとはまた、ものすごい美しい方を・・・。
いやぁ・・・小夜子はこの時点では女子高生でおさげ髪です、残念ながら(^^;
まぁ、あそこまでカリスマ的な美しさは無いものの、日本的美人というイメージではあります・・・。
2011/11/13 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

ああー…。

なんか、小夜子ちゃんからの「哀しいお知らせ」しか頭に浮かばない…orz

壮太やるせないねえ…。
2011/12/13 【有村司】 URL #- 

* 有村さんへ♪

壮太は、あまりにも純粋すぎて自分の恋心に気付いておりませんので・・・(^^;

そのあたりの鈍さを感じさせつつ、やるせない空気も醸しだすっていうのは、なかなか難しいですね(笑)
あんまり説明したくないし・・・(って言いながら、コメント欄で思いっきり補足説明しているあたしって)(ToT)
2011/12/13 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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