もうひとつの「DOOR」

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

にほんブログ村 小説ブログへ 人気ブログランキングへ←こちらもぽちっとお願いします(^^)

→ 「スポンサー広告」目次へ戻る
*    *    *

Information

□ くちなしの墓 第一部 □

濃緑の葉 8

 梶田が死んだ。
 
 
 壮太と話をした公園から家へ帰る途中、酔払い運転の車に突っ込まれたのだった。
 
 
その逞しい体躯は、かえって道路に頭から叩きつけられるときの衝撃を強くしてしまったのだろう。首の骨を折って即死だったそうだ。

ラグビー部の連絡網で報せを受けた壮太が、小夜子と共に駆けつけたときにはもう、梶田の遺体は自宅に運ばれて旅装束姿で布団に横たわっていた。
梶田の母親が、取りすがって嗚咽を漏らしている。

壮太は、小夜子が取り乱すのではないかと心配していたのだが、まったくそのような様子は見せなかった。
ただ、部屋の片隅から涙をためた瞳で、じっと梶田の亡骸をみつめていた。


あまりにも実感のないまま通夜と葬儀が営まれ、梶田は荼毘に付された。

小夜子は、終始青白い顔をしたまま、ほとんど言葉も発さずにいた。
時々、そっと参列者の席から立ってどこかに消える。
おそらく、悪阻で気分が悪くなるのだろう。

壮太は、そんな小夜子の様子が気になって、哀しみに暮れている暇がないままだった。


間もなく、ラグビーの全国大学選手権の予選が始まったが、中心人物を失った壮太のチームは、あっという間に敗退してしまった。

もちろん、梶田を失っても他に優秀な選手はいるのだが、士気が上がりきらず、チームの雰囲気は沈んだままだった。
誰もが梶田の死を悲しみ、「あんなにいい奴が・・・」と短いその生涯を惜しんだ。

そんな中で荘太だけが、なんとなくまだ夢に中にいるような、全てが麻痺してしまったような心持で日々を過ごした。
ラグビーの練習にも、あまり顔を出さなくなってしまっている。
仲間や監督が、なだめたり叱咤したりしてくれるので、時々は出て行くのだがどうにも練習に身が入らなかった。

壮太の祖母もすっかり元気を失くし、まるで本当の孫を亡くしたかのように落胆している。
その上、小夜子があまり訪ねてこなくなったので、寂しがってばかりいた。

 梶田の四十九日が来ても、壮太はまだぼんやりとしていた。
梶田の両親も、まだ悲しみは少しも癒えていないように見えた。
母親は読経の最中にも声を殺しながら泣いている。

しかし、壮太はやはり小夜子の様子ばかり気にかけていた。
相変わらず涙も見せず、言葉も発さずに固い表情をしたまま、片隅で目立たないように座っている。

遅い梅雨明けが来たばかりの、暑い日だった。
法要が済んで参列者が散っていく中、壮太は小夜子に送っていくと言って一緒に歩き始めた。

あの公園の入り口まで来たとき、壮太は小夜子に「少し休もう」と言って、公園の中へ入って行った。
小夜子は、黙ったままで壮太に着いてきた。

「座れよ。」

壮太は、あの日梶田が座っていたベンチを指して、小夜子に座るよう促した。

小夜子は、なんとなく緊張しているかのようにそっとベンチに腰をかけたが、その表情は固く、読み取れない。

日差しが強過ぎるせいか、昼食時のせいか、公園で遊ぶ子供たちの姿も無い。
ベンチの後ろに大きなケヤキの樹があり、そこだけがかろうじて日陰になっていた。

小夜子との間に少し距離を持たせてベンチに座った壮太は、しばらく何を話していいかわからず、黙りこくっていた。
小夜子もただ、無表情に地面に落ちたケヤキの影をみつめているばかりだ。

沈黙に耐えられなくなって、思いきって壮太は切り出した。

「お腹に・・・赤ん坊がいるんだろう?」

小夜子がはっとしたように、壮太の顔を見つめ返した。
その唇が、震えている。

正視することができず、目をそらしながら壮太は続けた。

「あいつが・・・梶田が話してくれたんだ。事故にあったあの日に。
ここで・・・。お前に赤ん坊ができたってな。
これから帰って、お袋さんに話すからと・・・。」

悲しさか、悔しさか、熱いものがこみ上げてきて、壮太の言葉は震えながら途切れた。

小夜子も何も言わない。
気になって顔を上げて小夜子を見ると、
見開いている瞳から、一筋の涙が頬を伝って落ちた。

「私・・・。」

か細く、搾り出すような声だった。

「私、産みたい。あの人が遺してくれたこの子を・・・産みたいの。」

そして、それからはとめどなく涙が溢れだし、小夜子は肩を震わせて声を殺しながら泣き始めた。
おそらく、梶田が死んでから、初めて小夜子は泣いたのではないか、と壮太は思った。

こらえてもこらえても、流れてくる涙を止められずに泣く小夜子に、壮太は何もできずただ、隣で黙って座っているばかりだった。

強い日差しに何もかもがくっきりと映る公園に色濃く落ちるケヤキの影の中で、小夜子のしゃくりあげる声と、短い命の限りに鳴く蝉しぐれだけが響いていた。




◇     ◇     ◇     ◇

     
     
     
     
 辰巳は、また自分の猪口を空にすると、徳利から酒を自分と坂木の猪口へ注ぎ分けると、軽いつまみと冷酒のおかわりを注文した。

そして今度は辰巳も、ちびりちびりと酒に口をつけながら、話し始めた。

「やっと、『危険運転致死傷罪』なんてやつができたな。・・・まったく、行政は動きが遅い。あの頃に、その法律ができていればなぁとニュースを見るたびに思うぞ。そうだろう?」

「・・・・・。」

坂木は、無言で酒を口に運んでいた。

酔えば記憶がおぼろげになってくるのではないかと思ったが、なぜかかえって妙に鮮やかになってくる。

坂木は、梶田を轢き殺した男の交通裁判を思い出していた。

あれは梶田の四十九日より前だったか、後だったか。
そういうことははっきりと思い出せないのに、傍聴席の固いシートや陰鬱な壁の色などは今でもハッキリと脳裏に蘇る。

そして、あの男。工藤慎治の顔。

だんだん、ほろ酔いで饒舌になってきた辰巳が、交通違反についての法改正などをつらつらと話していたが、坂木の耳には全く入ってこなくなっていた。

ただ、あの日に感じたやり切れない怒りや虚無感ばかりが、酒のせいでだるく、重く感じられてくる身体とは反比例するように、意識を研ぎ澄ましていくようだった。


       (つづく)
 ・・・だんだん、悲壮感が漂ってまいりました(^^;

当初、全部で10話くらいにまとめたいと思っていた「くちなしの墓」ですが、まだ半分くらいでしょうか(笑)。

実は、ここから先はまだ構成を悩んでおりまして、upするスピードが極端に落ちると思われます。

なるべく、たわごとなどを書いたりして、開店休業にはならないようにしていこうという所存ですが、このお話の先を待ってくださっている奇特な読者様には先にお詫びを申し上げておきます。





← BACK         目次へ         NEXT →
関連記事

にほんブログ村 小説ブログへ 人気ブログランキングへ←こちらもぽちっとお願いします(^^)

→ 「くちなしの墓 第一部」目次へ戻る
*    *    *

Information

Date:2010/12/05
Trackback:0
Comment:6
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

ああ、梶田が・・・。
人の死というのは、実際本当に唐突で呆気ないものですよね。
号泣するわけでもなく、ただ呆然と、なにかを堪える小夜子の姿が悲しいです。

壮太。どうすんだよーー。

ここで全ての悲劇が出尽くしたように思うのは甘いんですか?
もしや、まだなにか??

それにしても、辰巳・・・。
愛すべきKYという愛称をあげましょう。
どの顔して法律を語るんだか・笑
辰巳がご迷惑おかけします・・・。
もう、酔わせちゃってください・笑

これからまた制作期間ですか?
大丈夫、待つのは慣れっこです。
でも、首をながーーくして、楽しみに待っていますよ♪
2010/12/05 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

「どうしてこの人が・・・」と周りから思われるような人ほど、呆気なく、しかも理不尽な亡くなり方をしてしまうことがありますよね・・・。

壮太、どうするんでしょうねぇ(^^;
ほんと、頼むわ壮太(笑)。
小夜子のこの姿は、悲しいけれど、もしかしたら生命をみごもっているオンナの強さなのかもしれません。

さ、辰巳にはもう少し楽しませてもらおう(笑)。

せめて、第一部の終わりまでは、コンスタントにupしたい・・・とは思っておりますが。どうなりますことやら。
読書に夢中になると、かけなくなってしまう私であります(^^;
2010/12/07 【秋沙】 URL #mQop/nM. [編集] 

* それで、『墓』なんですね…

秋沙さん、ご心配なく!
fateは謎は謎のまま普通に保留して進めるという変な生き物です(^^;
最近、立て続けにこういう‘死’の現場に立ち会ってしまって(いや、ブログの他作家さんの作品のことです)日常の奇跡を改めてしみじみするfateです。
小夜子の立場…つまり、愛する人の子ども、今は亡き相手の子どもを身ごもって生み、育てる、ということ、fateもよく登場人物にさせます(←ヒドイ作者だ!!!)。
だけど、人は守るべき者がいれば生きていけるんですね。もう、その時点で一人ではなくなるから。どうしたって、生きなければならない理由が存在してしまうから。
それが、実はよく分かります。

明日が来るのか分からない。
今はまったく混沌としてしまって、本当に一寸先は闇です。だからこそ、今、出来ることは精一杯尽くしたい。少しでも、死ぬ瞬間の後悔を減らしたいから。
この先、ずっとずっと普通に生きていられるなんて保証はないのだから。
「目の前の人を、fateに関わってくれた人を大切にしたい。」これは、このところ、ものすご~く、強く思うことです。
なんか、マトモなことを言ってしまったわ~(^^;
2011/10/26 【fate】 URL #- 

* fateさんへ♪

うわぁ、ありがとうございますfateさん。
fateさんがこのお話を読んでから、本家本元「白昼夢」を読んでくださる時が楽しみです(^^)

そう、明日が来るのか誰にもわからないし、誰にも保証されていないんですよね、明日って。
こうやって小説の中で悲惨な運命に翻弄される人を書いていると、「作者の都合」でものすごくタイムリーに不幸になる原因がやってこさせたりできるもんですが、実は現実世界のほうがよっぽど、なんの前触れもなく「なんであの人がこんなめに・・・」って思わせるようなことが起きてしまっているんですよね。
本当に呆気無く、不幸(自分や周りの大切な誰かの死)は訪れてしまうんです。
その呆気なさを、ここでは書いてみたかった・・・と、自分で解説してしまってどうする(^^;)

そう!さすがfateさん。
この「可憐な女子高生」だった小夜子が、守るべきものを手に入れたことで、強くなっていきますよ。
2011/10/26 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

うわあああああ!!!
そんなああああ!!!

そんな呆気ない…orz

惜しまれる人ほど神様は早く天国へ連れて行く…と聞いたことはありますが…。

夏、また、くちなしの季節ですねえ…。
2011/12/18 【有村司】 URL #- 

* 有村さんへ♪

私自身いくつか、「なんでこんなに良い人がこんなに若く・・・」とか、「どうしてこんなに突然・・・」という別れを経験して、こういう書き方になってしまいました。

逝ってしまう時はあまりにもあっけなくて。
でも、遺された人たちは乗り越えて生きていくために、長いこと心のなかでそれを納得する術を探し続けていかなくちゃならないんですよね。

はい、しつこいくらいに、「くちなし」を絡ませて見ました(^^)
2011/12/19 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://akisadoor.blog118.fc2.com/tb.php/64-5c586d31
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。