もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第一部 □

濃緑の葉 9

 あの日、壮太は一人こっそりと傍聴席の一番後ろの隅に座った。
梶田の命を奪った事故の、裁判だった。
 
最前列には梶田の母が、喪服姿で梶田の遺影を胸に抱き、梶田の父と兄に挟まれて座っていた。

梶田を轢き殺した男、工藤慎治は、かなりの量の酒を付近の居酒屋で飲み、隣町の家へ帰る途中だった。車は、同居している内縁の妻の名義だったそうだ。

千鳥足になるほど酩酊していた工藤は、梶田を轢いた時に一度車を降り、息が無さそうなのを確認すると、ふらつく足元でもう一度車に乗り、その場を立ち去ろうとしたらしい。

だが、幸い物音に気付いて出てきた近所の人たちに止められ、すぐに通報で駆けつけた警察に現行犯逮捕された。

もう逃げられないと観念したのか、逮捕されてからの工藤の態度は素直なものだったそうだ。

酩酊状態で車を運転し、一度はその場を逃げようとしたことが重く見られたがそれでも、逮捕後の態度には反省が見られるとして、判決は「業務上過失致死」で懲役3年だった。

判決文が読み上げられた瞬間、梶田の母は細い悲鳴のような声を上げ、泣き崩れた。

閉廷すると母は、父と兄に支えられるようにして退廷していったが、壮太はその場で身動きもせず、ずっと工藤の顔を睨みつけていた。

その時に、壮太は見てしまったのだ。

それまで殊勝な顔でうつむき加減にしていた工藤だったが、梶田の家族が出て行って、自分も席を立たされて退廷する間際、誰にも見られないようにしてはいたが、下卑た笑いをその顔に浮かばせたのだ。

壮太が見ていることには気付いていないようだった。

壮太は、その顔を自分の心に刻み付けた。
親友の命と大切な人たちの幸せを奪っておきながら、のうのうと生きている憎い男の顔を。




 しばらくして、小夜子が時々は祖母のところへ顔を見せるようになった。
元の小夜子に戻ったとは言いがたく、痩せて顔色も良くなかったが、それでも祖母は喜んでいた。
祖母も小夜子を気遣い、梶田の話はあまり出さない。
小夜子も、めっきり身体の弱くなった祖母を気遣って、努めて明るくするように努力はしているようだった。


そんな小夜子を見ていると、やりきれない思いが壮太にはあった。

ある日、祖母の夕食の支度をして帰ろうとする小夜子を送りがてら、思い切って小夜子にこう言った。

「梶田の両親に、赤ん坊のことを話そう。」

「えっ?」

小夜子は、複雑な表情を見せた。

「産むつもりなんだろう? もしかしたら、梶田の両親だって喜んでくれるんじゃないか? 孫なんだし・・・。」

「う・・・ん・・・。でも・・・。」

小夜子は決心がつかないようだ。

「行こう。明日にでも。」

こうして、翌日にはまだ躊躇している小夜子を引きずるようにして、壮太は梶田の両親を訪ねたのだった。




◇     ◇     ◇     ◇



「おい! 聞いてるのか?」

辰巳のだみ声で我に返った坂木だった。

辰巳は、だいぶ酒がまわってきたのか、少し赤い顔をして上機嫌である。

「その様子だと、また一人で昔のことを思い出してたんだろう。」

「・・・・・。」

「そんなことだから、陽が心配するんだぞ。」

その時、急に坂木は夕べの陽との会話を思い出した。

『それとも、ラグビーの試合に触発されたのかな』
確かに、陽はそう言った。
坂木は、自分の昔のことなど陽に話したことはなかったはずなのだが・・・。


「辰巳・・・まさか、陽に話したんじゃないだろうな?」

「んん? なんだ、怖い顔をして。」

「陽に、俺の昔のことを話したのかと聞いてるんだ。」

辰巳はちょっと気まずそうな顔をした。
だが、どちらかと言うと、軽いいたずらがばれた子供のような表情だ。

「あんまり陽が心配そうにしてたもんだからなぁ・・・まぁ、大まかなところは。」

「なんだと・・・!?」

坂木は、一気に酒の酔いが醒めて血の気が引いていくような気がした。

「お前・・・どこまで話した?」

「どこまでって・・・だから、大まかなところだよ。」

なんとなく想像できる。
陽がちょっと尋ねただけなのに、意気揚々と昔話を語って聞かせる辰巳の姿が。

「なんてことを・・・」

「なんだ? 知られて困ることでもあるまい。」

「困るも何も・・・勝手に人のことをべらべらしゃべるもんじゃぁないだろうが。」

辰巳は平気な顔をして酒を飲んでいる。暖簾に腕押しだ。
坂木は怒りをどうにか抑えようとして低い声で言った。

「それで・・・陽はなんと言っていた?」

「陽がか・・・? いや、べつに何も言ってなかったぞ?
 どうもあいつは何を考えているのかわからんところがあるからなぁ。」
 
坂木は背中がぞくりとした。
陽が、何を考えているかわからない表情をしている時というのは・・・。

「まったく、お前さんたちはお互いの昔のことすらほとんど話し合ってないのか?
 相変わらずめんどくさい奴らだな。」
 
辰巳は、笑いを堪えているかのように話し始めた。

「二人して素直じゃないもんだから、俺まで手こずらせやがって。」

かなり酔ってきたのか、ろれつが怪しくなってきている。

「だいたい陽は素直じゃなさすぎるんだ。あの黒崎から助けてやった時にだって、俺には礼のひとつも言わないで、お前の心配ばかりしやがって。
 その割には当の本人のお前さんにも特に何も言わずじまいだろ?俺はあの時、久しぶりに人に向かってコルトをかまえたんだぜ?」

そこから先は、酔っぱらい特有の話の飛躍を見せて、自分の武勇伝を披露し始めた辰巳だったが、坂木はこの無神経な男がどこまで自分の過去を陽に話したのかばかりが気になって、ひとつも聞いてやる気にはなれなかった。


 
 
    (つづく)




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Date:2010/12/09
Trackback:0
Comment:6
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* た、辰巳~~。part2

まったくあんたって人は ・・・。

めちゃくちゃ想像できますね。
まさか教えてくれるとは思ずに訊いた陽に、得意げにベラベラしゃべる辰巳。
どこまでしゃべったんでしょう。
また、私たち読者も知らない部分?

これは「天使の称号」の後なんですね。
あのときちょっと辰巳、カッコよかったのに。
こうですもんね。これが辰巳さ。

(やっぱり、あのときのこと根に持ってたか(^_^;))

陽の反応も気になる。

そして、過去の続きも気になる。
小夜子は受け入れられるんだろうか・・・・。
早く続きを・・・。
2010/12/09 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

ま、言い方を帰れば、豪気なおじさんってところなんでしょうけれど(^^;

「天使の称号」の後ということにするのは、この部分を書いていて咄嗟に思いついてしまったんですけれど、大丈夫でしたかね?(^^;
ほんと、あの時は辰巳に惚れたんだけどなぁ~。

さぁ、辰巳のKY、まだ終わりませんよ~(笑)。

陽はどう思ったんでしょうね・・・
実は、このへんが悩みどころで、書き進められない原因でもあります。
ほんと、何考えてるかわからないんだもの、陽は(^^;
2010/12/09 【秋沙】 URL #- 

* No Title

ひとこと言わせてもらえれば、

当時の「酒酔い運転死亡事故」を引き起こしてしまった加害者というものは、

「酔っ払い運転なんてみんながやっている」ことだから、まず、自分が実刑を受けて刑務所へ行くだなどとは思いもしておらず、普通の人身事故と同じようなものだとばかり思っているので、まずその時点で猛烈なショックが来ます。

次に、裁判で、「被告を懲役1年○ヶ月に処す」などといわれた時点で、目の前が真っ暗になります。たしかに懲役は1年○ヶ月かもしれませんが、仕事はクビ、保険金は下りないため(犯罪ですから責任は全部自分にかかってきます)損害賠償は全部自費、嫁さんは子供を連れて実家に逃げ、そして自分は前科者という立場におかれるわけでありますから。出所後、世間の風が前科者にいかに冷たいかはご存知の通りです。

とてもじゃないけど下卑た笑みなんて浮かべている余裕はありません。

そこでそんな笑みが浮かべられるのであれば、それはよほどのタマだということであります。しかも懲役3年。3年といったら、普通の人が刑務所に入ったら精神自体がどうにかなってしまう年月であります。
これで動じないんだから、えらい資産家の息子だったりするわけでしょうね、きっと……。


(浅田次郎先生の著作を参考にしました)
2010/12/10 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* ポールさんへ♪

おおっとぉ~!来たな!?(笑)

まずは、風邪がたいしたことにならなくて、ようございました。


ふふふふふ、鋭いところをついて来ますね~さすがですコンチクショウ(笑)。

ちょっと、懲役3年は悩みました。
交通事故で3年って当時としては重すぎですかね?
あまりにも裁判とか刑法とかの知識が無さ過ぎるんで、調べてみたりしたんですが・・・。
ネットで調べると、「危険運転致死傷罪」が施行されて以降のものしかみつからなくって。

「懲役3年」で笑うことができるこの男については・・・
「くちなしの墓」第二部で明らかになってくることと思います。
2010/12/10 【秋沙】 URL #- 

* No Title

辰巳さ~~~ん!!(怒怒怒)

見損ないましたっ!!

2011/12/20 【有村司】 URL #- 

* 有村さんへ 辰已より

つ、司ちゃん!そりゃぁないよ!これは秋沙の陰謀だ!
確かにこの時俺は、かなり酔っていたけどなぁ、そんなにひどい事はしてない・・・はず・・・なんだ。そうだ、してないんだ!

頼む! 先まで読んでもらえればわかる!
俺はそんなに人でなしではないんだぁぁぁぁっっ!!
2011/12/21 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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