もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第一部 □

濃緑の葉 12

 陽が第二支部に出掛けて行ってからまだ3日めだというのに、坂木はもう1週間以上は一人で待っているような気分だった。
 
時々ぶらぶらと街を歩いてみたりもしたが、特に目的もないのですぐにまたホテルに戻ってきてしまう。殺風景なビジネスホテルの部屋に籠って、ごろごろしながらテレビを見ているか、ちびちびと酒を飲んで過ごしていた。

時折端末を取り出しては陽にメールを打とうとするのだが、仕事中では邪魔になるかもしれないしな、と自分に言い聞かせるようにして思いとどまっていた。

実際のところは、辰巳からどこまで自分の過去が明かされたのかが気になって仕方なく、しかしそれを本人に問いただすこともできないジレンマと闘っているのだった。


辰巳からは、酒を飲んだ翌日の昼前に電話がかかってきたきりだった。

「なんだおまえ、勝手にいつの間にか帰りやがって。」

二日酔いで、まだ浅い眠りをむさぼっていた坂木の頭に、携帯電話越しの胴間声ががんがん響いた。

「まぁ、あの後わりとすぐに他の客が全部帰っちまったからな。女の子たちも帰して、ママと二人でしっぽりと酒を酌み交わせたから良しとしてやろう。」

電話の向こうで辰巳はカラカラと笑っている。

「それなら邪魔者がいなくて良かったじゃないか。」

寝起きのかすれた声で坂木が言うと、辰巳は
「なんなんだその声は。おまえさん、まだ寝ていたのか。」と、どすのきいた声で問うてくる。

「休みの日くらい好きにさせろ。そっちだって休みなんじゃないのか? 老人だから朝が早いのかもしれんが。」

回らない頭で精一杯の嫌味を言ってやったが、辰巳はまったく動じなかった。

「こっちは朝からご出勤だ。酒を飲んだ翌日ってのはなぁ、何があったってきちんと仕事に行くもんなんだ。」

「あぁそうですか。ご立派ですよ。付き合わされるほうはたまったもんじゃないけどな。」

面倒くさくなった坂木は、またベッドに寝転がりながら適当に答えた。

「まぁ、陽のほうの仕事の準備は順調に進んでいるようだ。しばらくのんびりしていろ。じゃぁな。」

一方的に電話を切られた坂木は、聞きたいことは山ほどあったが、今は辰巳の野太い声を聞く気にもなれず携帯電話を放り投げた。

それから今日まで、ろくに人と口をきいていないな、とふと思う。

「何をやってるんだ、俺は・・・。」

子供の頃、母親が仕事から帰るのを家の中でじっと待っていた光景が何故か思い出されていた。



◇     ◇     ◇     ◇




 その夏は、空梅雨だったわりには雨が多く、涼しかった。
かと思えば、厳しい日差しが降り注ぐ日もあり、老人の身にはこたえるのか一時期具合の良かった祖母の回復は、その後はかばかしくなかった。

それでも、小夜子が赤ん坊を連れて顔を出すと、布団に起き上がってあやしたり、話しかけたりして少し元気になる。
しかしそれ以外はほとんど寝たきりで食欲もあまりなく、最近では弱気なことを言い出すようになった。

「ばあちゃんが死んだらなぁ壮ちゃん、あんたこの家を売りなさい。お墓はじいちゃんの墓に一緒に入れてくれればそれでいいから。あとはお寺さんにまかせておけばええ。
家の中のもんなんかみーんな処分しちまっていいから。
それで少しはお金ができるだろうから、大学を卒業してどこか都会にでも働きに出たらええ。」

「何を弱気になってるんだよ。」と笑いとばしてやることしか、壮太にはできなかった。
そうやって祖母の看病に明け暮れる毎日で、ふと気付いてみると夏は終わりに近づき、ここ2週間ほど小夜子が姿を見せていない。

どうしたのだろう、と気にしながらも、忙しなく日々は過ぎていった。

どんよりとした空の日曜日のことだった。
壮太の家に、梶田の兄から電話が入った。
小夜子に話があるのだが、一人では来にくいだろうから一緒に来てくれないか、というのだ。
なんだろうと訝しがりながらも、近所の主婦に留守番を頼んで、呼び出された喫茶店に出向いた壮太だった。

グレーのスーツを着て、銀縁のメガネをかけた梶田の兄が、一人珈琲を前に座っていた。
まだ、小夜子は到着していないようだ。

「久しぶりだね。まぁ、座って。」

メガネを指で押し上げながら、梶田の兄が席をすすめた。

この兄は、体格の良かった梶田と違ってスラリとしており、インテリな雰囲気を漂わせている。
話し方もどこか、頭のよさを滲ませている。

「ラグビー部を休んでいると聞いたんだが。」

「祖母の具合が良くないので、今は看病のために大学を休んでるんです。」

「そうか・・・。それは大変な時にすまなかった。」

なんとなく、話がはずまないまま、二人は珈琲をすすっていた。

やがて、店のドアが開く音がして、緊張した面持ちの小夜子が、赤ん坊を背負って入ってきた。

「やぁ。呼び出したりして申し訳なかったね。」

梶田の兄が立ち上がって声をかけると、小夜子は黙って一礼すると席に座った。

小夜子は、ウェイトレスにオレンジジュースを注文すると、おんぶしていた赤ん坊を、前に抱きなおした。
梶田の兄は、赤ん坊の顔を覗き込み、言った。

「もうこんなに大きくなったのか。」

壮太は、そのメガネの奥の瞳が微笑んでいるのを見ているとき、やはり梶田の兄なんだなとぼんやりと思っていた。
あまり似ていない兄弟だと思っていたが、こうして微笑んでいる横顔はどこがどういうふうにと言えるわけではないのだが梶田によく似ている。

しかし、兄はその笑顔をひっこめると、メガネを指でちょっと直して真顔になった。
「以前にうちに来てくれた時には、母があんなことを言って申し訳なかった。
 僕も部屋の外で聞いてしまったんだ。」
 
「いえ・・・私たちも、お母様のご心労も考えず、失礼しました。」

意外なほどにはっきりと、小夜子が答えた。
なんとなく、赤ん坊を抱く小夜子の手に、力が入ったように壮太は感じた。

「今ではだいぶ、母も落ち着いてきてね。やっと弟の死を受け入れることができたようだ。
それで・・・。」

兄はそこで言いよどんで、珈琲に口をつけた。

小夜子の緊張が伝わってくるようで、壮太も思わず膝においた手をにぎりしめた。

兄は珈琲カップをかちゃん、と皿に置いて言葉を続けた。

「弟の子供が生きているのなら、会いたい、と最近よく口にするようになってね。
なんとか会えないものかと・・・。なんなら、子供だけひきとって育てたいとまで言い出して・・・。」



「お断りします。」

壮太が少々面食らうほどの即答を、小夜子が断固とした口調で言い返した。

口論になるのではないかと壮太はひやひやしていたが、梶田の兄は意外にも、穏やかな顔つきになって答えた。

「そうだろうね。いや、小夜子君のはっきりとした答えを聞けて、正直僕も安心した。
本当のところ、母がそんなことを口にするようになって、僕と父は少々困っていてね。
あんなことを言って君を追い出しておきながら、今更何を・・・とね。
しかし、母の気持ちもわかってもらいたい。

実は、来年になる頃には僕にも子供が生まれるんだ。」

そういえば、梶田が亡くなる少し前に兄は結婚して、あの家に嫁さんを迎えて同居していると梶田が言っていたのを壮太は思い出していた。

「孫が生まれれば、母も落ち着くと思う。
・・・ただ、それまでの間に、もしかしたら思いつめてしまって小夜子君のところへ押しかけてしまったりするのではないかと心配でね。
それで、今日はこのことを話しておこうと思ったのだ。」

「そうでしたか・・・。わざわざありがとうございました。
お母様が早くお元気になられますように。
私はこれで、失礼します。」

小夜子は、表情一つ変えずにそう言うと、さっさと赤ん坊を抱いて店を出て行った。

取り残された壮太は、どうしていいかわからず、冷えた珈琲を一口飲んだ。

「壮太君。」

店を出て行った小夜子を目で追っていた梶田の兄が、壮太のほうへ向き直った。

「はい。」

「小夜子君の・・・その・・・生活は大丈夫なのか?」

「お金のことですか?」

「まぁそれももちろんだが・・・。」

「大丈夫だと思います。小夜子の祖父母も元気ですし、もうそろそろ小夜子自身も仕事に復帰すると思います。祖母に赤ん坊を見ていて貰えると言っていました。」

「そうか・・・それなら、余計な事かもしれないのだが・・・。」

兄は、スーツの内ポケットから、茶色い封筒を取り出して、テーブルの上に置いた。

「私と父からの気持ちだ・・・。小夜子君が受け取ってくれるかどうかはわからないが。壮太君、あずかってくれないか。」

「どういうことですか。」

「私も父も、小夜子君には本当に申し訳ないことをしたと思っているんだ。
あんな事故がなければ、二人は今頃幸せに夫婦になっていたことだろう。赤ん坊は両親にとっては初孫だし、僕にとっても甥っ子だ。お詫びや、お祝いの気持ちをどうやって表現してあげてよいのかわからない。だからせめて・・・何かの足しになればと思ってね。

小夜子君が受け取らないと言えば、それはそれで仕方が無いのだが・・・。
とりあえず、君にあずけるから。」

それだけ一気に言うと、梶田の兄はテーブルの上の伝票を持って、勘定を払いに立ち上がった。

「困ります! 梶田さん。」

壮太は封筒を持って慌てて梶田の兄を追いかけたが、
「小夜子君の気持ちしだいだ。よろしく頼んだよ。」と言うと、兄はすたすたと立ち去ってしまった。

封筒は、かなりの厚さがあった。

ちょっと途方に暮れた壮太だったが、とりあえず小夜子に話して、断られれば返しに行けばいい、と気楽に考えるにとどめておいた。

その時は、小夜子の身に何が起きているか、何も知らない壮太だったのだ。




     つづく





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 やたらと長くてすみません(^^;

今度こそ・・・次回で「濃緑の葉」最終話です。

まぁ・・・最終話と言ってもですねぇ、非常に中途半端な終わり方です。
第二部に続きますので・・・。

第二部、これがまた構成に悩むところでして。
またもや、第一部終了後、連載開始までにどれくらい時間がかかるものやら・・・。

皆様、お見捨てなきように~~~~(^^;

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Date:2011/01/19
Trackback:0
Comment:12
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

ん~~、気になる。
何が起こってるんでしょう。
よかった、ここで終わらなくて。
梶田のおにいさんの言動、気になりますね。
深い意味は無ければいいんだけど。

前半の、辰巳とのゆるいやり取り、好きです。
坂木が、陽のいない時間、居心地悪そうなのがもっと好きです・笑
もっとじらしたくなります。
2011/01/20 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

梶田のお兄さんの言動は、あまり深い意味はありませ~~~ん(^^;
思わせぶりな文章になってしまったことを謝罪いたします(笑)。
もう一話ありますが、釈然としない感じなのはそのままかも(^^;


坂木、なんだか気の毒ですねぇ。
おひざ抱えて陽を待ってるだけなんて・・・。
辰巳とのやり取りは、ついつい遊んでしまって長くなりがちです(^0^*

えっと、第二部になっても坂木はこんな感じです。
かわいそうに(^^;
2011/01/20 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

うーん、気になる終わり方・・・。
小夜子の身になにが起こったのでしょう。
なんか、けなげですよね~、小夜子って・・・。

辰巳と坂木って「いいコンビ」って感じですね。
会話のやりとりが面白い♪

第二部の構成、がんばってください。
連載は、気長にお待ちします(笑)
2011/01/20 【西幻響子】 URL #U8GV5vt2 [編集] 

* No Title

うわあ……。

どこまで悲惨な話になるとですか。

第二部が楽しみなような怖いような(^^;)
2011/01/20 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* 西幻響子さんへ♪

小夜子のこと、「けなげ」と思っていただけますか?
よかったぁぁぁぁ(^^;

ちょっとね、強すぎというか、「その態度は失礼なんじゃない?」と思われてしまうかなって心配だったんです(笑)。


辰巳と坂木の会話は、楽しくてどんどん書けちゃいます(^^)
つくづく、おっさん好きなワタシ(笑)。

第二部、もうあまりごちゃごちゃ考えずに、筆(キーボード?)にまかせて進めていこうかな、と思っています。
なるべく、更新が滞らないように・・・という目標だけはあるのですが、ま、あくまでも理想は高く・・・(^^;
2011/01/20 【秋沙 】 URL #- 

* ポールさんへ♪

えぇ、
まだまだ悲惨な話になるとですよ(^^;


でなきゃ、なんだって坂木はOEAなんかに属することになったのか、説明がつきませんからねぇ。
覚悟しておいてください(笑)。
2011/01/20 【秋沙 】 URL #- 

* こんにちは^^

あ~、読んでドキドキしてしまいましたe-330
秋沙さん、文章の間の取り方が絶妙~~~!
次の台詞がわかってるのに、そこまでスクロールしてる間に、心臓が口から飛び出そうでしたよi-229

てか、めちゃやなババァ!!v-359(←八つ当たり・笑)
小夜子、偉い! でも・・・・次が最終話なんですね・・・・。
一体どうなるの!?
次よ、次!! 秋沙さん!!

(笑)
2011/01/21 【】 URL #9dnUgMTg [編集] 

* No Title

これくらいの長さ、私は全然オーケーです。
無理なハショリとか感じられなかったし、自然に読み進められました。
小夜子の強い態度には何か裏付けがあるものと…。
そして、小夜子の身に何が起きているのか!?
最終話に向けて、私の中で静かに盛り上がってますよ。
2011/01/22 【】 URL #41q05U9. [編集] 

* 蘭さんへ♪

ん?
そんなにドキドキさせる展開にした覚えがなかった・・・(笑)

あはは、八つ当たりしないでくださいませね(^^;
かわいい息子を亡くしてしまった淑子さんの微妙な心理もわかってあげてください。(いや、私の書き方のせいで印象悪くなってるんだろうが)

最終話・・・
「え?あれ?なんで?」って拍子抜けするかも・・・。
さぁupしようっていう今になって、ちょっと展開に無理があったかなぁって不安になってます(^^;
2011/01/23 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 銀さんへ♪

長すぎないですか?
文章がだらだらしてるし(^^;

小夜子の態度・・・裏づけというほどの裏づけではないんですが(作者の構成力不足のため)、次回にはわかるかな。
ちょっと拍子抜けの最終話になります。ごめんなさい(^^;
2011/01/23 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

おはようございます。
たつみんが出てくるとニヤニヤしてしまう私…これは恋!?

さて、なんだか締めが不穏な感じで終わってしまって、すごく不安なのであります…。
2011/12/22 【有村司】 URL #- 

* 有村さんへ♪

あははは・・・辰已に恋しちゃいましたかっっ!!??
いや・・・これは・・・辰已には伝えないでおきますね。うかれちゃってますますエスカレートするといけないので・・・KYぶりが・・(^^;

思わせぶりな終わり方になっておりますが、第一部の終わりは非常に中途半端で、悲劇というほどの悲劇でもないんです。
ただ、第二部に行くまでに少々時間が空きますので・・・。
2011/12/22 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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