もうひとつの「DOOR」

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□ くちなしの墓 第二部 □

くちなしの墓 3

 翌日、壮太は上の空で仕事をしていた。
 
いや、「上の空」と言うのはこの場合正しくないかもしれない。
感覚は研ぎ澄まされ、終始考え事をしていると言うのに身体は黙々と仕事をこなしていた。
むしろ普段よりも作業能率が上がっていたほどだ。

 夕べは、動揺する小夜子を落ち着かせるのに精一杯の壮太だった。
 
工藤という名前はありふれているから、とか、鉄工所での仕事を求めて流れ者も多く入ってくる街なのだからそういう輩かもしれない、などと、思いつく限りの気休めを並べてみた。

そして、「てつ」のおかみさんが心配しているだろうし、ハルキが雨に濡れたままだから風邪を引いてしまう、という言葉に、やっと落ち着きを取り戻してきた小夜子に、
「明日、念のために俺が『てつ』に行くから。」と言って、傘を持たせて帰したのだった。

しかし壮太は、その男こそが「工藤慎治」であろうとほぼ確信していた。
小柄で痩せていて色黒な顔、目だけがギョロリと大きいと小夜子がその風貌を言い表していたが、壮太の記憶にぴたりと当てはまる。

そして何より、裁判の時に聞いた工藤の現住所は、確かにこの街から車なら10分もかからない場所なのだ。

よりによって、「居酒屋てつ」に現れるとは・・・。
壮太は、自分の中にあった不安の見事な的中に、身体中の神経が針のように尖ってくるかのような感覚を覚えていた。

 夕方6時、壮太は定時ぴったりで仕事を終えた。
この季節、まだ6時と言えばやっと暮れかけてきたくらいで空気は蒸し暑い。
それでも、暑さがこもった作業場から外に出ると、その気温差で一瞬寒さを感じるほどだった。

大急ぎで銭湯で汗を流してから居酒屋「てつ」の暖簾をくぐった時には、仕事帰りの鉄工員達で、小さな店内は満席になる寸前だった。

入ってきた壮太を見て、小夜子は少しホッとしたような顔をした。

厨房に向かい合うカウンター席の、一番端の丸いパイプ椅子に座りながら、壮太が小夜子に小さな声で「どうだ?」と聞くと、「今日は来てないわ。」と小夜子も声をひそめた。

昨日の今日だ、よほどの常連でもない限り続けて来ることもないか・・・と、安心したような拍子抜けしたようなふわふわした気分で酒と肴を注文した。

店の戸が開いて新しい客が来るたびに、そちらを気にしながら一時間ほどが過ぎた。
しかし、工藤らしき人物は姿を見せず、いつの間にかだいぶ客が引いてきた。
明日も平日なので皆、あまり長居はしないのだろう。
ただ、もう少しすると今度は遅番の工員たちが終業と共に押しかける時間帯になる。

小夜子がこの隙に、と、二階で寝ているハルキの様子を見に階段を上がっていくと、おかみさんが壮太に話しかけてきた。

「夕べ小夜子さん、なんだか血相変えて壮太さんの所へ行ってくるって飛び出して行ったけど、なんかあったのかい?」

口には出さないが、明らかに疑念と好奇心が表情に滲み出ている。

「いや・・・ちょっと、俺の古い知りあいに似た人がお客さんの中にいたとかで、慌てたみたいで。すいませんでした。きっと人違いだから早く戻ったほうがいいと小夜子に言ったんですが・・・。」

「そうなのかい? 人違いだったんだね。」

「たぶん・・・。夕べ、3年ぶりくらいに来たっていうお客がいなかったですか? 常連さんだったのかなぁ。」

「久しぶりに来たお客さん? あぁそういえば、小夜子さんが飛び出していく前に来たお客さんが、他の人から『久しぶり』って声をかけられてたねぇ。
 言われてみればずいぶん前に時々来ていたことがあるような気もしたけど、常連さんっていうほどじゃぁなかったと思うわよ。」
 
「そうですか・・・。」

常連客の顔や名前を驚くほどよく覚えているおかみさんがわからないのだから、それほどこの店に通っていたわけではなさそうだ。
それならば、これからもちょくちょく顔を出すという訳でも無さそうだ。

とりあえず、少しだけ壮太の心配は軽くなった。

「あぁ、そういえばあのお客さん、小夜子さんが飛び出して行った後に、『おかみさん、いつの間にあんな若い子を雇ってたの?』って聞いてきたわ。いやらしーい目つきだったわね。あれは気をつけたほうがいいわ。」

したり顔で言うおかみさんに、壮太は思わず吹き出してしまった。

「おかみさん、お客さんのことをそんなふうに言っちゃっていいんですか?」

「小夜子さんに助平心を持つ男は、たとえお客さんだって容赦しないよ。大事なおあずかりものなんだからねぇ。」

「こいつは心強いや。小夜子は絶対に安全だ。」

笑って答えた壮太だったが、工藤に関しては、おかみさんだけに任せておくわけにはいかない・・・と内心は煮えたぎるほどの怒りがこみ上げて来ていた。

 やがてまた、新しい客がぞろぞろと入り始めて、店は忙しくなってきた。
小夜子も下りてきて立ち働いている。

この後は、今いる客たちが帰ったら閉店するだけだろう。
今夜はもう工藤らしき男はあらわれないだろうと踏んだ壮太は、席を立った。

レジで会計をするときに小夜子が、
「壮ちゃん、帰るの?」と不安そうな顔をして、引き戸から外へ出た壮太のあとについてきた。

「大丈夫だ。昨日の男は常連だったわけじゃないようだし、きっと人違いだ。あの工藤がたまたまここへ来るなんて、そんな偶然、あるわけないじゃないか。
それでも心配なら、こうやって俺もちょこちょこ来るから。」
できるだけ、軽い口調で言ってみる。

しかし、「もし、本当に工藤がまたここへ来たときは・・・」という言葉が出かかったのを、壮太は慌てて飲み込んだ。

こくりとうなずいて「おやすみ壮ちゃん。」と小夜子が店の中へ戻ったのを確認して、壮太は歩き出した。

「畜生。こんな偶然があるなんて。」

3年前に抱いた工藤への憎しみが蘇ってくる。
そして、3年前よりもその感情が大きく深くなってきているのを、壮太は抑えることができなかった。

とにかく、居酒屋「てつ」に、工藤がまた現れないという保証はどこにもない。

どうしたら、「てつ」に、小夜子に、工藤を近づけないようにできるのか。

夜が更けてもまとわりつくような湿った空気の中、そればかり考えながら壮太はアパートの部屋に戻って行った。




      (つづく)
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ちょっと今回は、(私にしては)短めでしたかね。

もう少し足したい気もしたのですが、どうにもキリが悪くてこうなりました。

次回はもう少し展開がある・・・・?とみせかけてそうでもないかも(^^;
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Date:2011/02/17
Trackback:0
Comment:19
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* No Title

なんか「工藤来る→壮太怒る→暴力事件→収監→出てきたときには小夜子不幸のどん底に→出口ない不幸スパイラル」という連想しか思いつきません。

うーむ……。
2011/02/17 【ポール・ブリッツ】 URL #0MyT0dLg [編集] 

* No Title

繰り返し申し上げますが、これは「推理小説」ではありませんので(^^;

まぁ、そんなもんです(笑)。
あ、でも、実際にはもっと単純で呆気無くて、スパイラルに落ち込む暇もないかもしれません(^^;
2011/02/17 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

なんか、「おかみさん、頼みますよ!」って、言いたくなりました。
ここでおかみさんが目を光らせてくれれば・・・。

でも、そんな甘くはないですよね。
この物語は、どこまでも堕ちなければ・・・。
白昼夢が母体ですから。

救いが無さそうで、でも、ありそうで・・・そんな物語でしたから・・・・。 
2011/02/18 【lime】 URL #GCA3nAmE [編集] 

* limeさんへ♪

工藤が、ただの「スケベおやじ」であれば、おかみさんが小夜子を守ってくれますけどね。

でも、そう!これは「白昼夢シリーズ」なんです!
(って、勝手にスピンオフ作っておいてシリーズに仲間入りした気分になってるあたしってどうなの)

坂木にはどこまでも堕ちていただかなければ、その後に陽と出会う意味がなくなってしまうのです!
堕ちてもらいましょう!(やっぱりドS)

あぁ、こんなあたしに誰がした・・・。
ねぇ?limeさん(^^)
2011/02/18 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

昨日はありがとうございました。
結構面倒臭がりな私ですので、これで少し楽になりました。笑。

「てつ」に来た男が工藤とは別人であって欲しいのですが、やっぱり本人なんですよね・・・・・・。
2011/02/18 【ヒロハル】 URL #- 

* ヒロハルさんへ♪

いえいえ、お役に立てたようでよかったです。
今回はたまたま、ですよ(^^;
専門知識があるわけではないし、私もいろいろいじる時にはネットでいろいろ調べながらなんです。
自分でテンプレ作れるくらいの知識があったらいいんですけどねぇ。程遠いです。
でも、私にわかる範囲でしたら、何かあったら相談してください~。


そうですね、工藤ではなく別人だったらいいのに。
小夜子の早とちりでした~チャンチャン♪みたいな(^^;
2011/02/18 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* こんにちは^^

あ~もう! 何かドキドキです~~~~!!e-330e-330

でも、展開を読んでいて悪い予感がビリビリして来ます。
これは過去の話なのだから、今更祈ってもどうしようもない・・・とはわかっていても、どうかこれ以上小夜子に不幸が訪れて欲しくない、そんな気持ちになってしまいます。


この前から頻繁に名前が出て来る工藤。
こいつは、小夜子にとっては「悪魔」のような存在ですよね。
続きが気になる~~~!v-393
2011/02/19 【】 URL #9dnUgMTg [編集] 

* 韓流ドラマか昼ドラか

この先の展開によっては韓流ドラマやコテコテの昼ドラにアレンジできそうですが、
秋沙さんのことだから、きっと怨恨と憎悪をクールに描いていくことでしょう。
というか、登場人物それぞれのこの先の人生物語も読みたくなりますね。
白昼夢のスピンオフのスピンオフ?
続き、楽しみにしています。v(^^)
2011/02/20 【】 URL #41q05U9. [編集] 

* Re: こんにちは^^

そうなんですよね~これは過去のおはなしで、もうどうにもならないんですよね~忘れてました(^^;

更新遅くてごめんなさい・・・。

ミステリーっぽい展開になると、とたんに筆が遅くなるんです・・・。
会話とかちょっとしたシーンの描写とかは大好きなのにね。
2011/02/22 【秋沙 】 URL #- 

* 銀さんへ♪

う~~~ん、どうでしょう。
韓流ドラマや昼ドラ並みのコテコテの展開になっちゃうかも・・・(^^;
私の力量ではたかが知れている・・・(T0T)

スピンオフのスピンオフ?
誰か書いてくれたらうれしいですね♪
銀さんだったら、誰のその後を書いてみたい、または読んでみたいですか?(^^)
2011/02/22 【秋沙 】 URL #- 

* 蘭さんへ(>_<")

ご、ごめんなさい。
二つ前のレス、蘭さんあてです~~~。
TITLEを書き忘れました~~~~。
2011/02/22 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 今頃スミマセン…

レスを書いたつもりでいました。(チホウか(≧0≦)ノ゛)
その後が気になるのはやはりハルキちゃんですね。(?limeさんの新ストーリーの春樹は彼?マダ読んでない…)
そして、ただの堕落したいい加減な人間でないのであれば今後の展開も合せて工藤の人生も気になります。
2011/02/27 【】 URL #41q05U9. [編集] 

* 銀さんへ♪

いえいえ、こちらも遅くなりまして・・・

最近、そちらにもあまり訪問して無くて本当にごめんなさい。

「春樹ブーム」になっておりますが、まるっきりの偶然です(^^;
ハルキのその後については・・・まだ多くは語れないんです(T0T)

工藤については、追々明らかになっていくと思われます。まあ、いい加減な人間であることに違いはないんですが・・・(笑)
2011/03/04 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* 暗雲立ち込めてきましたね…

‘負’をまとった人間って必ずおりますし、世界の崩壊が見えていても、誰にもどうすることも出来ないってことがありますね。
某国の独裁者のように、世界中から憎まれててもぴんぴんしている輩はいるし。
だけど、呪いも祈りも粒子である限り、必ず本人には細胞レベルであろうと届きます。
祈るしかない周囲と、巻き込まれていく優しい人々に、祈りが届くことを願います。
ちょっとコワクて、先を進められませんでした(^^;
落ち着いたら、またゆっくりお邪魔いたします。

2011/10/31 【fate】 URL #- 

* fateさんへ♪

どうぞどうぞゆっくり読み進めて下さいまし(^^)
(すぐに追いつかれちゃうから)(笑)

巻き込まれていく優しい人々には、不幸は訪れて欲しくないですよね・・・。でも、それを避けて通っていては、心に届く深いお話は書けないんだなぁ・・・と、この物語を書き始めてから切に思います。
なんとなく、事なかれ主義と言いますか、八方美人で、ハッピーエンドを好んで書いてきてしまった自分に、喝を入れながら書き進めています。
世の中の不条理を、きちんと書かなければいけない時もあるんだぞ・・・と。

なので、極端に更新が遅れてしまって・・・。(結局言い訳)
2011/10/31 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

煮えたぎる思い。
壮太の気持ちってわかるけど、もどかしい。
それは陽との関係でも言えることなんだけど、なぜか一歩踏み出さない。
それって自分を守ろうとしているのかね。
傷つくことを恐れて人を傷つけているのってあるよね。
一度血まみれになったほうがいいと思う。
小夜子も保護者の壮太を望んでいるとは思えない。
工藤が何かのきっかけを作るのかな。
2011/11/24 【ぴゆう】 URL #- 

* ぴゆうさんへ♪

あ~、とってもぴゆうさんらしい感想、ありがとうございます。

そうですね、壮太は不器用過ぎですよね。一途なんだけれど、臆病なのかも知れないですね・・・。
うぅ、この先を読み進めて行ったら、ぴゆうさんの血圧が上がってしまうかも~~(^^;ごめんなさ~~い(先に謝る)
2011/11/24 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

* No Title

あああ悪い予感しかしない!どう考えても、その考えが抜けない…orz
(どういう考えかはこの際ノーコメントです^^;)

あ、前回、また何かお気に障るコメントをしましたでしょうか?

だとしたら申し訳ないです…。
2011/12/26 【有村司】 URL #- 

* 有村さんへ(ToT)

重ね重ね申し訳ないっっ!
前のコメントにも返信しておきました~。
あぁもう、一度ならず二度までも・・・ごめんなさい。

もうねぇ・・・ここからの何話かは、悪い予感ばかりぷんぷんさせておいて、なかなかお話が進まないんです~~~。
書き上げてしまった今となっては、反省の多い部分です。ちょっと読みづらいかと思います~。
適当に読み流して(?)ください~~(^^;
2011/12/26 【秋沙 】 URL #mQop/nM. [編集] 

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